
衣・食・住のライフスタイルにおけるマインドが
日本人とは決定的に違い、華やかなイメージとはうらはらに倹約家が多いというフランス人。そのリアルな日常に迫ります。

最初に吉村さんご自身について教えてください。現在はどのような活動をされているのですか?

パリでは雑誌の取材や執筆の仕事をしていました。
生活の拠点を東京に戻してからは、彼の地での経験をベースにフランス人から学んだ「人生をよりよく生きるためのヒント」をテーマに執筆を続けています。
パリといえば、まず「ファッションの都」という華やかなイメージがあります。年に4回のパリ・コレクションや高級ブランドなどで知られる一方、フランス人はあまり服を持たないという説もありますが、本当のところを教えてください。

洋服だけでなく、バッグや靴など、すべてのアイテムでフランス人たちが持っている数は少ないです。フランス人はお金に関してとてもシビアで「倹約家」。持ち物は最小限で済ませ、お金は欲しいものを買うためではなく、足りないものを買うためにあるという考えです。日本人は流行にあわせた洋服を着ることが多々ありますが、フランス人は「自分が好きなもの、似合うものしか買わない」ということに徹しています。
クリスマスやお誕生日に家族や恋人にプレゼントを購入するときなども、「彼女はブルーが好きだから、このバッグはどうかしら」「ブロンドの髪には、このスカーフが似合いそう」などと、相手の好きなものや似合いそうなものを基準に吟味します。

ミシュランの星付きレストランに代表されるように、フランス人はグルメなイメージもありますが、一般家庭でもこだわりのある食生活を送っているのですか?

期待を裏切るようですが、フランス家庭の普段の食事はとても質素です。朝食は食パンか前日の夕食の残りのバゲット(フランスパン)をトーストしてバターかジャムを塗ったものと、大人はカフェ・オ・レ、子どもはオレンジジュースといった簡単なもので済ませ、昼食でしっかりと栄養をとります。大人は社員食堂か会社と提携しているレストランやカフェで昼食をとり、子どもは幼稚園や学校の食堂で給食を食べることが一般的です。
普段の夕食は、前菜として野菜のサラダ、メインとしてひき肉を固めただけのハンバーグやハムなどの肉類、デザートとしてヨーグルト……といった感じでしょうか。1日に30品目もの食品をとることは、フランスではあまりありません。その代わり、週末や家に友人・知人を招くとき、記念日などにレストランに出かけるときは豪華な食事をとります。パリの友人の「ごちそうは、たまに食べるからおいしいのよ」という一言に尽きますが、フランス人はハレ(非日常)とケ(日常)をしっかりと区別した、メリハリのある食生活を送っています。

日々の食卓に欠かせない、野菜サラダ
フランスでは一種類の野菜をドレッシングで和えたごくシンプルなものが一般的
なるほど。意外にも、日常的には質素な食生活を送っているのですね。そんなフランスの食に関して、思い出深いエピソードはありますか?

娘が幼稚園生のころ、迎えに来たクラスメートのお母さんが持っていたおやつを食べたいと駄々をこねたときのことを、いまでもよく思い出します。そのおやつというのが、バゲットを縦に割き、板チョコを挟んだだけのものでした。そのお母さんは、「うちは子どもが3人いるから、パン屋さんに並んでいるパン・オ・ショコラ(バターをたっぷりと使用したクロワッサンの生地でチョコレートを包んだもの)を買っていたらきりがないのよ」と笑うのです。

一度食べたらやみつきになる、バゲット・オ・ショコラ

あまりものを買わないというフランス人ですが、住まいに対する考え方はいかがですか?持ち家よりも、賃貸を選ぶ人が多いのでしょうか?

フランスでは、家族も金融機関も「持ち家」を推奨する傾向が強いです。さらに不動産価格が安定していて購入した物件の価値が下がらないことも手伝って、家賃を払うくらいならアパルトマン(集合住宅内の住居)を買った方が合理的だと考えます。
フランス人の若者は社会人になった早い時期からアパルトマンの購入を銀行の担当者からすすめられます。結婚したら独身時代に購入した不動産を賃貸に出し、結婚後も夫・妻の各々の資産として維持し続けます。また、フランスではDIYが当たり前。なぜなら家の簡単な修繕でも、業者に頼もうものなら、驚いてしまうほど高額です。嫌いではないでしょうが、DIYが特に好きなのではなく、プロに頼んだら高くなるので自分でする、というのが彼らの本音です。

フランス人の多くが、夏に1ヵ月程度の長期休暇
「バカンス」を取ることはよく知られています。日本に比べ残業も少ないメリハリのある働き方や、女性の活躍がめざましい点をお聞きしました。

日本人は何かとせわしなく、休みを取らない暮らしをしがちですが、フランスでは長期休暇を取るのがごく一般的。2020年度の年次有給休暇は日本の平均付与日数が17.9日なのに比べ、フランスでは法定の最低付与日数が25日となっています※。時間や休暇に対する考え方自体も、両国で大きく異なるのでしょうか?

フランスの長期休暇はバカンスですから、1ヵ月におよぶこともあります。彼らは「休暇は人生の糧」と考えているからです。バカンスの過ごし方は人それぞれですが、半分は1年かけて計画した場所で過ごし、残りの半分は家族が所有する田舎の家(メゾン・ド・カンパーニュ)でお金のかからない過ごし方をするというのが一般的です。別荘というと聞こえはいいけれど、生活費の安い田舎の家で、シンプルに暮らすイメージですね。
※ 出典:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2023』

休暇は人生の糧、バカンスの計画は念入りに。

全就業者における女性の割合はフランスが
48.9%、日本が44.7%とそれほど大差はありません※1。しかし、フランスでは管理職における女性の割合が高く、男女の賃金格差もわずか11.6%で日本の22.1%の約半分程度となっています※2。フランス人女性はなぜ、社会でめざましい活躍ができるのでしょうか?

都市部では共働きのカップルがほとんどです。物価が高いという経済的な事情はもちろんのこと、彼女たちは自分のプライドのために働きます。それが会社で管理職に就くことや社会での活躍につながっているわけです。フランス人女性は自立のためにも働き続けることを選ぶ傾向にあります。
- ※1 出典:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2023』
- ※2 出典:OECD『男女間賃金格差』(日仏比較年度は2021年度の数字)

日本に比べ税金が高いヨーロッパの国々。
フランスも例外ではありませんが、代わりに国民の幅広いニーズに応えた社会保障制度があるといいます。気になる制度の一部をご紹介します。

日本の10%に比べ、20%と消費税が高いフランス※1ですが、高い税率に国民の不満はありませんか?

フランス人は「高い税金をとられているのだから、定年退職後は国に面倒を見てもらえる」と、国民の誰もが信じています。年金の支給開始年齢も62歳からと欧米各国のなかでは早い方です※2。国民の99%をカバーする医療保険、日本の児童手当に似た家族手当など、社会保障制度がかなり充実しています※3。
とはいえ、各家庭や個人が何もしないわけではありません。年金でいえば、パリに住んで企業に勤務する人たちの多くは、基礎年金のほかに老後資金のために私的な年金に加入しています。また未就学児~高校入学前の子どもがいる場合、ほとんどの親が当たり前のように任意保険の「ミュチュエル(Mutuelle)」に加入し、公的な医療保険でカバーされない分に備えています。
- ※1 出典:財務省『消費税など(消費課税)に関する資料 』
- ※2 出典:厚生労働省『主要国の年金制度の国際比較』
(注)支給開始年齢は、2030年までに64歳に引き上げ予定。 - ※3 出典:厚生労働省『2022年 海外情勢報告』

日本では子どものいるご家庭だと、教育費がかさんで家計を圧迫することもあります。フランスの教育費もやはり高額なのですか?

フランスではごく一部の私立学校を除いて、幼稚園から大学まで教育費は無料です。給食費などは親の収入に応じて価格が決まっていて、別途支払うことになりますが、国民に平等な教育の機会を提供するという意味で、原則、教育費はかかりません。また、日本では大都市を中心に小さいころから受験のために塾に通ったりしますが、フランスでは塾に通ったり家庭教師がついたりすることはほとんどありません。
成績優秀な子には飛び級制度がある代わりに、日本でいう留年もあります。しかし、フランスでは留年のことを「繰り返し」といい、「その子の学力にあった場所で理解できるまで勉強させることが大切」という考えがあるため、さほど問題視されません。

実は貯蓄も資産運用も、日本より盛んだというフランス。若いころから住宅の購入や旅行などの
目的にあわせてコツコツと貯蓄をしながら、資産を増やすことにも抜かりがありません。そのマインドは、どのようにして育まれるのでしょうか?

意外にも、フランスの国民貯蓄率は6.0%で日本の5.7%を上回るというデータ※があります。データどおり、フランス人の節約や貯蓄に対する考え方は堅実なのでしょうか?それとも使うときにはパッと派手に使うのでしょうか?

物価が高いので派手に使う余裕はないですし、若いころから住宅購入資金やバカンス資金をせっせと貯蓄したり、フランス人のお金に関する考え方は堅実です。そもそもフランス人は、「お金は生きていくために必要なモノだけを補充するためにあるもの」というマインドです。彼らはモノを買いたがらない人たちです。
そこには、18歳になると学生であっても実家を出て、経済的に自立することがほとんど……という事情も影響しているかもしれません。スーパーで買い物をしていたら、男子学生が私の買い物かごのなかにあった4個パックのヨーグルトを指さし、「マダム、お金がないので1個だけ売ってくれませんか?」と声をかけてきてびっくりしたこともありました。
若いころから経済的独立を強いられ、苦労してお金のやりくりをしていくことで、堅実な金銭感覚を身に付けていくわけですね。
※ 出典:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2023』

お金に対する考え方は、堅実な方が多いのですね。ユーロエリア全体では日本よりも株式投資や投資信託などの資産運用が盛んというデータがあります※。フランスでは投資や資産運用などは盛んなのでしょうか?

フランス人は、お金に関しては秘密主義。
日本人のようにお酒の席で、株で儲かった、あるいは損した……なんて話をすることもありません。でも、みんな興味津々で情報収集に熱心ですし、実際は資産運用を行なっている人も多いのが現実です。
いまフランスで人気なのは、利息に税金がかからず、いつでも引き出しができるという積み立て式の預金口座「リブレ・ア(Livret A)」です。フランスの銀行では、取引金額の大小にかかわらず顧客一人ひとりに担当がつき、顧客にふさわしい金融商品を紹介してくれます。そういった意味で、フランスは日本よりも資産運用をはじめやすい環境にあると言えますね。
※ 出典:日本銀行調査統計局『資金循環の日米欧比較』

フランス | 日本 | |
---|---|---|
平均賃金※1 | 52,764USドル (7,996,968円) |
41,509USドル (6,291,148円) |
消費税率※2 | 20% | 10% |
国民 貯蓄率※2 |
6% | 5.70% |
平均賃金はフランスの方が日本より若干高いものの、消費税率の高さも目立ちます。高い税金を支払いながらも、日本を上回る貯蓄率を誇るフランス。節約に努め、しっかり貯蓄するフランス人の姿勢は見習いたいですね。
- ※1 出典:OECD『平均賃金』
- ※2 出典:独立行政法人労働政策研究・研修『データブック国際労働比較2023』

最後に堅実なフランス人の暮らしぶりから学んだ、日本人の私たちがよりよく生きるためのアドバイスはありますか?

バカンス期間中、田舎の不動産屋さんの前で足を止め、物件情報を熱心に見つめるフランス人をたくさん見てきました。みんな若いうちから、老後の田舎暮らしのためにリサーチをしているのです。
フランス人の大半は仕事を引退したら、都会よりも物価が安くて生活費のかからない田舎暮らしをすればいいと考えています。日本人は定年を過ぎても都会で暮らし続ける方がほとんどですが、フランス人は生まれ故郷以外の地方への移住を想定して人生設計を立てる人たちが多いです。基本、彼らは便利な都会で暮らしても山の中でも、どこにいてもジョア・ド・ヴィーヴル(生きる歓び)を見出す術に長けています。
普段の食生活からお金の使い方まで、実にメリハリのある暮らしぶりのフランス人。平日と休日で食事の内容に変化をつけたり、なるべく物を買わずにあるもので工夫したり、労力を減らす代わりに工夫を凝らして節約や貯蓄につなげる姿勢は見習いたいもの。フランス人の家計管理をヒントに、節約や貯蓄に励んでみてはいかがでしょうか。

監修
吉村葉子
監修吉村葉子
神奈川県藤沢市生まれ。立教大学経済学部卒業。20年間をパリで暮らした経験をもとに、フランス人から学んだ「人生をよりよく生きるためのヒント」をテーマに執筆。著書に『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人 』(講談社文庫)、『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(主婦の友社)など多数。
- ※本記事は、2024年3月時点の内容です。
- ※本記事は、当社が吉村葉子様に取材を依頼して掲載しています。
フランス人のように倹約しながら貯蓄し、
将来の暮らしにゆとりと楽しみを
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フランス人のように、将来のさまざまな目的に向けていまからコツコツと備えておくのはいかがでしょうか。同時に、いまある資産を積極的に運用し、増やすことでさらに豊かな未来をめざしませんか?