編集者 / Huuuu inc.代表取締役。『ジモコロ』編集長として全国47都道府県行脚。ヒップホップ、民俗学、郷土玩具に熱心で「やってこ!」の概念を提唱中。そのほかに、豊かな未来のきっかけを届けるメディア『Yahoo! JAPAN SDGs』、長野県の移住総合メディア『SuuHaa』など、数多のWEBメディアを手掛ける。全国で見つけた面白い価値を共有するリアルショップ『シンカイ』や雑誌『ソトコト』連載の連載も行なう。


と、ここまでは、街の魅力的なスポットを柿次郎視点で紹介してきたワケですが、松本山雅FCは市民クラブから、プロリーグへと駆け上がった珍しいクラブで、街やこの街に暮らす人々とより密接なクラブなんだそう。というわけで、松本山雅FCのコミュニティカフェ[純喫茶山雅]へやってまりました。
ここから先は、そんな地元密着型クラブの経営企画室ホームタウン担当の片山真人さん、営業部と純喫茶山雅のチーフを務める小澤修一さんにお話を伺っていきます。
取材・文:納谷 ロマン/写真・動画:三浦 大/構成:関戸 直広
市民クラブからプロクラブへ。
松本山雅FCの愚直な歩み。

- 柿次郎
- 改めて松本を回ってみたんですが、いい街ですね。文化的な部分も多いし、街がギュッとしているから、移動も楽だし。聞くところによると、おふたりとも松本山雅FCの選手だったんですよね?
- 片山
- そうですね。僕は、2007年シーズンと2011-2012年シーズンの3シーズンだけですが、松本山雅FCでプレーしていました。
- 小澤
- 僕は2005年〜2010年の間は選手として、それからはユースアカデミーのコーチや広報、今の営業職……と、松本山雅FCにかかわりはじめて16年になりますね。
- 柿次郎
- 松本山雅FCの成り立ちから、お伺いしてもいいでしょうか?
- 小澤
- うちは、市民クラブからスタートしたクラブなんですよ。立ち上がったのは1965年って言われていてはじまりは[純喫茶山雅]という喫茶店がきっかけで。地域リーグで活動しているクラブだったんです。ですが2002年の世界的サッカーの祭典の後に本腰を入れてプロをめざそうとなって。
- 片山
- 僕らのホームスタジアム[サンプロ アルウィン]は世界的サッカーの祭典が開催されたときに、パラグアイ代表のキャンプ地として利用されたんです。その当時世界で活躍していたパラグアイ代表のゴールキーパーのチラベルトが「こんなにすばらしいスタジアムがあるのに松本にプロサッカークラブが無いのはなぜだ!」と、発言してくれて。
- 柿次郎
- それが鶴の一声となって、プロをめざした……!?なんだかすごいハナシだ。
- 柿次郎
- それから何年でプロリーグに上がったんですかね?
- 小澤
- 2012年にJ2に昇格。2015年シーズンと2019年シーズンはJ1でプレーしています。J2から3年でJ1まで昇格したのは、Jリーグ史上最速の記録で。
- 柿次郎
- 漫画みたいなハナシですね。
- 小澤
- 選手の活躍はもちろんなんですが、やっぱり支えてくれる地域の方やサポーターの方の応援が熱いのがうちの魅力だと思うんです。それこそ、地域リーグの時代から、観客が6,700人入ったり。J1昇格時はアウェイの試合でもうちのサポーターが10,000人来たような試合もあって。松本は24万人都市なんですが、それって人口の約25分の1がサポーターとして応援に来てくれていることになるんです。
- 柿次郎
- とんでもない数字だ。
- 片山
- 松本の人ってシビックプライドはしっかり持っているけれど、僕が思うに、“松本がいい!”と発言する人が少ないんですよね。引っ込み思案な方が多くて。だけど松本山雅FCの存在があれば松本のことを声に出せる。だからこそ、サポーターも熱狂してくれているっていうのはあるかもしれません。

昇格が決定した試合は、超満員。
パレードにも数多の松本市民が集った。
- 柿次郎
- なるほどなあ。確かに信州全体を見てもそういうイメージがあるかもしれません。ちなみに、いわゆるホームタウン活動みたいなものってどんなものをされているんでしょうか?
- 小澤
- まず、この場所はひとつのホームタウン活動ですよね。街中に[純喫茶山雅]があることで、僕らのようなクラブスタッフとサポーターが密接にかかわれる。それはひとつの強みだなあと思っています。おそらくほかのクラブでこういった活動をしているクラブはないかなと。
- 柿次郎
- 言われてみるとそうかもしれませんね。
- 片山
- 健康教室とか子ども向けサッカー教室とか、行政とタッグを組んだイベントを行なったりだとか。あとは、最近だと農業にも注力していて。信州って遊休農地がかなりあるんです。そこを利用して、何か作れないかなとなって。
- 柿次郎
- 農業ですか。
- 小澤
- 地元の試験場で開発された「あやみどり」という青大豆を育てるプロジェクトをやっていて。障がい福祉サービス事業所の方に業務を委託して、大豆を育てているんですけど、余った土地や足りない雇用。そういった社会において目を背けられない課題に向きあうことも僕らの仕事なので。
- 柿次郎
- それによって雇用も生まれるのはすばらしいですね。あと、スポーツ選手はセカンドキャリアで壁にぶつかるケースが多いので、事業やプロジェクトが多角的に広がるとそこも解決できそう。
- 小澤
- ですね。ただあくまでも、やりすぎはよく無いと思っていて。地域と共存するために事業のバランスを考えることが大切だと考えています。
- 柿次郎
- うんうん。
- 小澤
- そのバランスを見きわめながら、地域の人や街が抱える問題を解決していくのがベストで。サッカーだけに頑張っていればクラブが評価されるという時代ではありませんからね。
- 柿次郎
- でもそれってやっぱりクラブっていう大きな組織だからこそできることですよね。たくさんのサポーターや地域とのかかわりがあるからこそ実施できるというか。良い事例だなあ。
- 片山
- あと、松本はもちろんですが、信州全体にも寄与するクラブにならなければいけないなって思っていて。信州全体ひいては全国が僕らの活動やサッカーというスポーツを通じて元気になったらいいなって。
- 柿次郎
- いやー、感服です。松本山雅FCのスポンサーになりたいです。
市民クラブが大躍進。
J1昇格までの道とこれから。

- 柿次郎
- クラブについても少し聞かせてください。2015年の明治安田生命J1リーグに、昇格するわけですが、その当時のことも聞ければなあと。
- 片山
- 正直、街はすごく盛り上がっていました。トップリーグということもあって、サポーターの方はすごく喜んでくれていて。極端な話ですが、アウェイの試合でもサポーターの方がかなりの人数応援に来てくれているんです。それこそ1万人単位の人が動いたときもあって、ほかの地域に出向く。これって、かなり経済効果があるんですね。
- 柿次郎
- ごはんも食べるし、宿にも泊まるし観光もしますもんね。
- 小澤
- そうなんですよ。ほかのクラブ関係者から「山雅がJ1にいると街が元気になるからイイよなあ」って言われたこともあるくらいです。
- 柿次郎
- それはすごいことだ。残念ながら1シーズンでJ2に降格、2018年シーズンでJ1に昇格するも1シーズンでJ2に降格。今年は残念ながらJ3に降格してしまいました……。
- 片山
- そうですね。やはりJ1の壁は高いというのが正直なところです。松本のような寒冷地は、冬場の練習がかなりハードになるんです。だから、シーズン開幕前は暖かい地域でキャンプして練習をしなければいけなかったり。ほかのクラブと比べると厳しい環境なんですよね。
- 柿次郎
- 寒い日に授業でサッカーしたときのことが頭に浮かびました。ボールが当たるとめっちゃ痛いやつだ。
- 片山
- そうなんですよ。天然芝で練習できる期間も限られているので、そこも選手にとっては負担なんですよね。人工芝は怪我のリスクも高いですから。それでもこうして獅子奮迅してくれている選手たちには本当に頭が上がらないです。

名波監督自らが、選手たちに指導を。
- 柿次郎
- そんな環境下でも、もちろんこれからもトップリーグが目標ですよね。
- 小澤
- それは、もちろんそうですね。やはりスポーツですから結果が重要視されます。サポーターの方に喜んでもらうには、勝利が一番。もちろんそれは選手にとっても。ただ、繰り返しになりますが、結果以外の部分で街のために、市民の方のためにできることにも全力で臨んでいきたい。松本山雅FCは市民の方と一緒に強くなったクラブですから。
- 柿次郎
- イイ話だなあ。あの……本気でスポンサーになることを検討しているんですが、どのくらいの金額でスポンサーになれるんでしょうか。
- 片山
- 一口10万円からで。ちなみにスポンサーになっていただくと、ホームゲーム全試合分のチケットがもらえます。
- 柿次郎
- 安ッ!しかもチケットまでもらえちゃう。

- 片山
- 見に行けるときは柿次郎さんが来てもいいし、いけないときは興味がある人にチケットを譲って見に行ってもらうでも大丈夫です。その結果サポーターになってくれる方が増えてくれたらクラブにとってもプラスですから。
- 柿次郎
- スポーツ好きな仲間も少なく無いので、本気で検討しよう……。そして、山雅のサポーターを増やしたい!
- 小澤
- そうやって言ってもらえて、僕らもめちゃくちゃ嬉しいです。
- 柿次郎
- 最後の質問なのですが、おふたりが思う松本の魅力ってどこにありますかね。
- 片山
- 僕は人のあたたかさですかね。現役でプレーしているときに感じたんですが、飲食店に行ったとき体調が悪いってなったら注文した料理に生姜をたくさん入れてくれたり、一品サービスしてくれたり、いろいろ助けてもらいました。僕が現役最後にプレーしたこの街に今もいて、こうして仕事をしている大きな理由ですね。
- 小澤
- 僕はやっぱり、景色ですね。夕方、陽が沈む時の山の稜線を見てもらいたい。僕は横浜の人間なんですけど、この景色って、お金を出して観る価値がある光景で。それが毎日見れるってのはすごいなって思います。毎日感動してますからね。あとは片山と同じく人のあたたかさですね。
- 柿次郎
- 景色と人のあたたかさ。僕もそれに魅せられて長野市に移住したのでわかります。いやー、長い時間、ありがとうございました!次は絶対試合を見にきますね!

いかがでしたか?ホームタウン松本のオススメスポット探訪にはじまり、クラブと街のかかわりをしっかりとご紹介できたのではないでしょうか。そして、僕自身がJクラブのホームタウンに行くたびに、どんどんサッカーが好きになっている!きっと、次回の訪問先もすばらしいJタウンなんだろうなあ。それでは、次回の『突撃!僕らのJタウン』も、お楽しみに!
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Profile
徳谷 柿次郎
(とくたに かきじろう)
