経営者視点で考えるJリーグチームの作り方 『サッカーとJリーグによる地方創生』 特別対談企画 ~ 髙田明さん×伊藤京子さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

Jリーグのチームを経営する社長とJ美女サポーターが対談する夢の企画が実現!今回は2017年から「V・ファーレン長崎」の社長を務める髙田明さんとキャスターの伊藤京子さんに、普段あまり知られていないJリーグチームの経営、そして地域活性化、地方創生というテーマについて話し合っていただきました。異色のフィールドに軸足を移してもなお、冴えわたる髙田社長からの金言の数々をとくとご覧ください。

経営再建した
V・ファーレン長崎
そして、地方創生について
深く語る

2017年一時は経営危機にも陥ったチームをV字回復させ、J1まで昇格させた髙田明社長。今期はJ2からの再スタートとなりますが、その経営再建した施策や地元愛、そして地域活性化について、キャスターの伊藤京子さんが鋭く切り込みます!

Profile 髙田明さん

1948年生まれ。長崎県平戸市出身。ジャパネットたかた創業者。独特の語り口で番組のMCとしても活躍し、同社を全国的にも知られる通販会社に育て上げた。2015年にジャパネットの社長を退任した後、2017年4月よりサッカークラブ「V・ファーレン長崎」の社長に就任。クラブが経営危機に陥ったことでジャパネットホールディングスの傘下に入ったが、その後快進撃を続け、同年クラブ初のJ1リーグ昇格を実現した。

Profile 伊藤京子さん

1989年生まれ。愛知県名古屋市出身。サッカーにのめり込むきっかけはテレビ埼玉『Ole!アルディージャ』のMCを担当するようになってから。以後、大宮は“第二の故郷”と思うほど。2017年12月、4年間務めた番組MCを卒業するもサッカーの魅力に取りつかれ、DAZNでJリーグだけでなく、海外サッカーまで観戦するほどのファンに。JFAサッカー4級審判の資格も持つ。

Future of Soccer

サッカーを通して地元長崎を
認知してもらえたことが嬉しい

伊藤京子(以下I):2017年に髙田さんが社長に就任されて、それ以来、V・ファーレン長崎に勢いを感じるのですが、周りの反響はいかがですか?

髙田明(以下T)実感としては就任前、長崎にはサッカー熱のようなものをあまり感じなかったのですが、今はすごく感じるようになりました。以前は地元長崎の方でも「ヴィファーレン」を間違って「ブイファーレン」と発音される方がいるくらいでしたが、今はほとんどの方に「V(ヴィ)・ファーレン応援してますよ」と声をかけていただけるようになりました。それから、相手チームのサポーターの方が非常に増えたことを感じています。私も札幌以外はアウェーの試合にも観戦に行きましたが、そこで交流した相手チームの方たちが長崎にもたくさん来てくださって、試合の後は観光して帰られるので、サッカーで長崎を訪れる方がすごく増えたと思います。そうした交流を通して、本当に「サッカーには夢がある」と実感しましたね。

I:髙田社長ご自身は、サッカーはお好きだったのですか?

T:サッカー経験はないですが、スポーツを観るのは何でも好きです。テニスもゴルフも、中継があれば夜中まで観ています。でもまさか自分がサッカークラブの社長になるとは思ってもみませんでしたね(笑)。

子どもたちの夢を
なくしてはいけない!

I:そんな中、なぜ経営破綻寸前のV・ファーレン長崎を再建されようと思ったのですか?

T:ジャパネットとしてずっとV・ファーレンのメインスポンサーをやっていましたが、経営の中身は全く知りませんでした。でも突然、経営が危なくて選手の給料も払えないかもしれないという話を聞いて、長崎に一つしかないプロスポーツクラブを、子どもたちの夢をつぶしてはいけないと。ジャパネットホールディングスの現社長である長男から相談を受け、関係の皆様のご協力を得て、V・ファーレン長崎をジャパネットの子会社として再建することになりました。その時たまたま私が息子の右に立っていたんです。さて社長は誰がやろうかということになって、ふと右を見たら私がいたので、社長をやってくれないかという話がありました。もし私が息子の左に立っていたら、今頃社長じゃなかったかもしれませんね(笑)。

I:やはり地元のチームという思いも強かったのですか?

T:そうですね。私も会社も、長崎で育ててもらいましたから。V・ファーレンについては、私自身もスポンサーとしてよく観戦に行っていたので、思い入れは強かったですね。長崎は離島が多く、九州の中でも最も人口減が進んでいる県です。1年半、V・ファーレンの社長をやってみて、少子高齢化が進む中で、地方創生においてのスポーツが果たす役割は大きいなと改めて感じました。

V・ファーレン長崎再建の軸は
「残す」「捨てる」「加える」

I:再建するにはいろいろな問題があったと思いますが、まず何から手を付けましたか?

T:先人たちが築いてきた10数年間の努力がありますから、いいものは残して、捨てるものは捨てる。そしてそれだけでは再建できませんので、そこに新しいアイデアを加えるというシンプルな考えを実践しました。「残す」「捨てる」「加える」という3つの軸があったと思います。でもフタを開けてみるまで、その状態は全くわかりませんでしたね。

I:実際見てみて、経営状態は驚きのほうが大きかったのですか?

T:それはもう…。いろいろと負の遺産と言えるものがありました。サッカーは思った以上にお金がかかる事業です。年間のホーム戦が20試合しかない中で、収支の採算をとっていかなければいけない。大手スポンサーがいない地方のチームはどこでもそういった課題を持ちながらサッカーをやっていますが、 とにかくまずは“V・ファーレン長崎”というチームを知ってもらい、関心を持ってもらうために、私自身メディアに出たりアウェーの試合にも積極的に足を運びました。

勝ち負けがすべてではない
“愛と平和と一生懸命”を大切に

I:現在、経営の状況は良くなってきていると思いますが、不安だった選手や監督、チームのモチベーションを上げるためにどのようなことをしましたか?

T:特に何もしていません。ただ、社長になって最初の頃に、経営については私が責任を持つから、選手と監督には試合と練習に集中してもらうように伝えました。過去に2回昇格プレーオフに進むなど、もともと力のあったチームですし、心配事がなくなって選手も安心したのでしょう。2017年、夏以降は13戦負けなしの快進撃で、J1への自動昇格を果たしました。残念ながら昨年一年でJ2に降格となりましたが、全力で戦ったので悔いはありません。そしてあまりこういうことは言いたくないのですが、昨年は本当に運が悪かったと言いたくなるような、競った試合展開が多かったと思います。でも、チームはもう前を向いていて、手倉森誠監督のもと一年でJ1に戻る宣言をしているので、今期も楽しみです。

I:V・ファーレン長崎はJ1とJ2を経験していますが、髙田社長が感じた1部と2部の違いはどういったところでしょうか?

T:大きな違いは感じませんでした。J1の中にもJ2を経験しているチームが多いし、実力は拮抗してきていると思います。もちろん地域の違いはありますよ。アウェーで新しい土地を訪れることで新しい発見もありました。そして、クラブの社長がこういうことを言うのはいけないのかもしれませんが、私は勝ち負けがすべてとは思っていないんです。どのステージにいても、チームが負けても応援してもらえるような“文化”を作っていきたいと思っています。もちろん、負けたときの悔しさはありますが、スポーツで本当に人が感動するのは、選手が“一生懸命”にプレーする姿ではないでしょうか。そして被爆地である長崎のクラブとして、愛と平和を大事にしていきたいと思っています。

愛されるチームになるには
ホスピタリティが重要

I:クラブ経営をされてみて、サッカーの知識は経営者に必要だと感じますか?

T:あるに越したことはないのでしょうけれど、私は現場と経営でお互いの領分を守る方がいいのかなと思っているので、チームに対して何か口を出すということはないですね。そして、私がずっとやってきたモノを売ることも、サッカーも“人の幸せに寄与する”というミッションは同じだと考えています。だからサッカーの知識がなくても、クラブの社長をやれているのかなと。大きく考えると「人は何のために生きているか?」ということに対する答えにも通じていくのではないでしょうか。

I:なるほど、興味深いですね。髙田社長は愛されるチームになるにはどういった施策が必要だとお考えですか?

T:スタジアムに足を運んでくださる方に対して、迎え入れる側としてのホスピタリティや相手へのリスペクトの気持ちを持つことが重要だと思います。例えば、諫早駅からスタジアムまでを結ぶ“V・ファーレンロード”という道があるのですが、ここで地元の商店街の方々がホーム、アウェーのサポーターを問わずお茶やお酒、地元の特産品などの振る舞いをしてくださって、その温かいおもてなしが全国のサポーターの間で話題になりました。他には、ホームスタジアムでも相手チームのゴールシーンをスクリーンに映すなど、細かいことですけれど、そういう姿勢や気持ちを大切にしていきたいと思います。もちろん、まだまだ課題はたくさんありますが、昨年一年で見えたことがたくさんありますので、あまり時間をかけずに解決に向けて取り組んでいきたいですね。

スタジアムを中心とした
都市開発で
地方創生につなげていく

I:今後、長崎市内に新スタジアムとそれを観戦できるホテルや高層マンションなどを含む都市開発を行うと発表されましたが、現状はいかがですか?

T:親会社であるジャパネットホールディングスが、長崎市の三菱重工の工場跡地に500億円規模でのスタジアムシティ開発計画を発表しています。その開発によって建設などの雇用をはじめ、そこで働く人たちの雇用も生まれますよね。そして日本だけでなくアジアからもたくさんの人が長崎に集まってくる。そういう場所を作ることで、地域の活性化に繋がると思います。また同時に、普段の活動拠点となる練習場、クラブハウスを新しくする計画も進めています。カシマスタジアムに病院が併設されているように、他地域の取り組みも参考にさせていただきながら、ジャパネットホールディングスの社長である長男をはじめ、若いメンバーを中心に計画を進めています。

I:最後に、チームは残念ながら昨年J2に降格してしまいましたが、今シーズンからも続けていきたいことは?

T:情熱が自分を突き動かしていくと思うので、過去を振り返らず、「今を生きる」「一日一生」の気持ちで頑張っていきたいですね。そして結果よりもプロセスを大事に、「ミッション」「パッション」「アクション」の3つを大事にしていきたいと思います。今シーズンも応援よろしくお願いします。