第三者意見

青山学院大学 ビジネスデザイン研究科 教授 池田 耕一氏

青山学院大学
経営学部 教授

芳賀 康浩氏

CSRというとその「責任」という言葉からの連想のためでしょうか、どうしても「やらなければならない」という重苦しさを感じることがあります。しかし、明治安田生命のCSR報告書にそのような重苦しさを感じたことはありませんし、むしろ明るく前向きな印象があります。そのように感じさせる理由の一つは同社のCSRに見られる論理性にあると言えるでしょう。
明治安田生命にとってCSRとは何であり、具体的な取組みとして「何を」「なぜ」行なうのか、こうした問いに対する答えが「明治安田生命の価値創造プロセス」として『統合報告書』に示されています。成長戦略、経営基盤戦略、ブランド戦略からなる価値創造プロセスによって、同社が社会に提供する価値が生み出されます。この価値は同社が独力でつくるものではなく、ステークホルダーと共創するものであり、そのためには「信頼を得て選ばれ続ける、人に一番やさしい生命保険会社」という企業ビジョンを具現化する必要があります。こうして創出された価値こそが同社の企業価値を高め、価値創造プロセスを駆動するエンジンとなります。このように、明治安田生命にとってCSRは事業活動と一体化しており、それゆえに単なる「責任」としてだけでなく、いわば「戦略」として中長期的かつ積極的に取り組むべきものとして認識されていることが分かります。
また、2018年度版から最近注目を集めているSDGsにも言及されていますが、これも同社の価値創造プロセスにおける社会的な価値の創出のための取組みと無理なく関連づけられています。これも、これまでのCSRへの取組みが、場当たり的なものではなく、「何を」「なぜ」行なうのかについての熟慮を経た論理的なものであることの証左と言えるでしょう。
明治安田生命の取組みの革新性の高さにも、CSRに対する前向きな姿勢を感じます。同社のCSR報告を拝見すると、毎年のように新商品・新サービスが登場しています。今年も「MYアシスト+制度」や「給与・家計サポート特約」といったユニークなサービスが「お客さまとの絆」から生み出されていますが、今回の報告ではさらに注目すべき取組みが紹介されています。それが「健康増進プログラム」です。これは「病気になってしまった時の備え」だけでなく、「病気にならないための活動支援」という新しい価値を提供するという取組みです。リスクに備えるだけでなく、リスクの原因を積極的に抑制していくという点は、まさに画期的な新発想だと思います。少子高齢化、長寿化を背景とする社会保障費の増大という社会的課題を自社の問題と捉え、真正面から取り組む姿勢があったからこそ生まれたアイデアでしょう。2019年にはこのプロジェクトが商品として具現化されるようですが、この商品が成功すれば、顧客の健康・安心、明治安田生命の収益、そして社会保障費の抑制というトリプルWINが実現するはずです。期待せずにいられません。
最後に、同社のCSRへの積極的な姿勢は、その取組みを真摯に「伝える」努力にも感じます。例えば、経営ビジョンにある「人に一番やさしい」とはどういうことか。この「やさしさ」の意味をめぐって、社長が広告出演タレントと対談したり、従業員の体験をもとにしたアニメーションを制作したりして、同社がめざす「人に一番やさしい」とはどういうことかを伝えようとしています。また、一見些細なことに感じますが、昨年までは社外取締役だけだった選任理由が今年は全役員について掲載されるようになっています。こうしたところに、何をどうやって伝えるべきかを本気で考えている様子が伺えます。
CSR活動が企業の経営成果に及ぼす影響に関する研究によると、消費者は企業のCSR活動に接した時、なぜその企業がその活動を行なうのかを推論します。そして、この動機についての推論の内容によって、その活動に対する消費者の反応が変わるということが指摘されています。つまり、企業の活動の動機を自己中心的だと推論する消費者はその活動にネガティブな反応を示し、他者中心的だと推論する消費者はポジティブな反応を示すというのです。明治安田生命のCSR報告は、同社の取組みの動機を正しく理解させることに成功していると言えるでしょう。
最後にあえて課題を指摘するならば、報告の形式にさらに工夫が必要になるということでしょう。CSRと事業活動の一体化に成功しているが故に、『統合報告書』の中のどの部分がCSRに関する報告なのかを明確に区別することができません。このこと自体は当然のことであり問題ではないのかもしれません。ただ、ウェブサイトのCSRページのようにCSR報告だけを抜き出して示すとむしろ正しい理解が得られなかったり、誤解を生じたりすることもあるかもしれません。その一方で膨大な情報量をもつ『統合報告書』を全部読まなければ分からないというのも問題でしょう。この点、今年の『統合報告書』の序章にあたる「明治安田フィロソフィー」は、報告書の全体像をイメージさせるとともに興味を持たせる工夫がされていると思います。これを起点として、ウェブサイトのCSRページのあり方をゼロベースで検討する必要があるのかもしれません。ますます多くのステークホルダーに関心を持たれ、理解され、共感される報告を期待します。

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