珍職図鑑

新たな剣術を作ることも!?アクション映画の立役者が語るその魅力。

この世に数多ある職業の中には、僕らが想像できないような特殊な仕事があります。そんな仕事にスポットライトを当てて紹介する新連載の【珍職図鑑】がスタート!第一回では、映画やドラマ、CMなどのアクションシーンを影で支えるスタントウーマンという仕事をピックアップ。『今際の国のアリス』や『キングダム2』など話題作で活躍する坂口茉琴さんを取材して参りました!

取材・文/納谷ロマン 写真/能勢奈那

アクロバット教室で運命的な出会いを果たす。アクロバット教室で運命的な出会いを果たす。

—— 今日はよろしくお願いします!まずは、スタントウーマンの仕事についてお伺いさせてください。

スタントマンやスタントウーマンは主に映画やドラマ等の作品でアクションに関わる仕事をしています。俳優さんの代わりに危険なシーンや難易度の高いアクションを演じるスタントダブル、アクションシーンにおいて俳優さんとアクションをするカラミ、撮影を怪我や事故なく安全に行うために必要なセーフティ業務など様々な役割があります。

危険な事をする職業で身体を張るというイメージが強いかと思いますが、それ以外にも撮影がスタートする前から様々な打ち合わせを重ね、作品やキャラクターのコンセプトとなるアクションのアイディア出し、アクション作り、ビデオコンテ作成、役トレなど、身体を使う以外にもクリエイティブな面も実は強いです。撮影現場では「アクション部」と呼ばれる事が多いです。

—— なるほど。アクションスターみたいなものをめざす人は多そうですが、どうしてスタントマンを選ばれたんですか?

もともと、表に出るのが得意なタイプではなかったんです。でも、小さい頃からアクション映画を見るのが好きで。ブレイクダンスも習っていたので体を動かすのも好きでした。で、中学の終わりごろにアクロバット教室に通い始めたんです。ある日そこに、アクション俳優の坂口拓さん、アクション監督の下村勇二さんがいらっしゃって。それが、運命の出会いでしたね。

—— と、いうと?

そこでアクションの楽しさとスタントマンという職業がどういう物なのかというのを知りました。現場で活躍する方と練習するようになって私もスタントウーマンになりたいと思ったのですが、当時は私のように身長の小さい俳優さんがアクションをするような作品は少なく、仕事はそんなに無いかもしれないと言われました。少し悲しかったのですがそんな時に出演してみないと声をかけられたのが『TOKYO TRIBE』でした。

武術をミックスして、新たな動きを考える!武術をミックスして、新たな動きを考える!

—— いわゆる学校などではなく、教室で出会ったんですね。ちなみに、スタントされる方達は、みなさんどのようにこのキャリアに進まれるんでしょうか?

私のように一般向けのアクロバット教室とかアクション教室が入り口の方も多いのではないかと思います。あとはバイトのヒーローショーがきっかけだったり。今はSNSも発達しているので現役のスタントマンのTwitterやInstagramにDMを送って繋がったり等のパターンもあったりします。

—— なるほど。キャリアとしてはそこまで長くないけれど、こうして話題作に出演し続けているのはすごいなと感じていて。

私はスタント歴でいうと7年くらいになります。まだアクション業界全体でいうと男性よりも女性の仕事の数は少ないのが現状です。それでも昔よりも女性がアクションをする作品や私と背格好が近い俳優さんの活躍が増えたおかげもあってかこうして作品作りに関わり続けられています。最近では『キングダム2』で清野菜名さん演じる羌瘣のスタントダブル※1をしました。

身長は少し清野さんの方が大きいものの人気漫画の人気キャラクターのスタントダブルというチャンスを貰えた事に感謝しています。羌瘣は色んな試行錯誤を清野さんとしながら作っていったのですが、以前に別作品でバディのような役柄をやっていたのでお互いに意思の疎通がとりやすく信頼感もあり良い関係性で出来たと思います。スタントダブルは本役の俳優さんとの信頼関係も重要だと思うのでとてもやりやすかったです。※1……映画やビデオの中で、ビルから飛び降りたり、車から車に乗り移ったりするような危険なシーンや、その他の高度なスタントに使用される熟練した代役のこと。

—— 羌瘣は常人離れした動きをするキャラクターですが、アクションする上で工夫されたことはありますか?

原作を読んでも、アニメを見ても彼女の動きの詳細が分からなくて最初とても悩みました。強いキャラなのでクルクルと戦いだしたら一瞬で相手が倒れるみたいな。アクション監督の下村勇二さんには中国武術とも既存の武術とも違う羌瘣という新しいジャンルを作ってほしいと言われ、自分なりに色々勉強したり実際に動いて実験してみたりしました。

色んな国の武術家の方の動画をみて、それを自分なりに舞うような動きとミックスさせたりして何が羌瘣らしい動きなのかを練っていく作業の繰り返しです。アクション部で作った羌瘣のアクションシーンのビデオコンテを映画スタッフの方にみてもらった時すごく褒めてもらえて嬉しかったです。

アクションは1日にしてならず。研究と練習が必要不可欠。アクションは1日にしてならず。研究と練習が必要不可欠。

—— ちなみに、スタントウーマンの1日はどのようなスケジュールなのでしょうか。

撮影の時は日々のスケジュールにもよりますが、朝早くからスタジオ入りして夜遅くまでという事もあります。仕事は撮影以外にも役者トレーニングや打ち合わせ等もあるので稼働時間はバラバラです。休日はアクション仲間と集まって練習したり、先輩に頼んで教えてもらったりする事もあります。私の場合は小柄なので、リーチを長く見せるためにどう動くのがいいのか、動きひとつとってもどうすれば美しく、かっこよく見えるのか。……とにかく研究と練習の連続ですね。

—— 常にアクションのことを考え続けているんですね。

ですね。アクションって本当に奥が深くって。私は最近はじめてスタントで骨折したのですが、幸い後遺症などなくアクションを続けられているので、これからのスタント界のためにも頑張っていきたいと思います。

—— 最後に今後の目標があれば、教えてください。

目標ですか……。日本にはまだアクション超大作で女性が主人公の作品が少ないんです。そういった作品づくりに携わって、主演の方のスタントダブルをやりたいです。女性でアクションをやりたいなスタントやりたいなという方が増えるきっかけになるような作品が増えたら嬉しいなですね。

そして日本ではスタントダブルの存在を隠したり、スタントダブルがいるのにノースタントと宣伝されたりするので、そこも変えていきたいです。海外では本役とスタントダブルのツーショットが載っていたり、公式にスタントマンの存在が認められていたりするので。時間はかかるかもしれませんが、これからスタントマンやスタントウーマンを目指す世代のためにも頑張ろうと思います。

—— スタントマンあってのアクション映画ですもんね。今日はありがとうございました!

いかがでしたか?役者に変わって、ハードなシーンをこなすスタントウーマンというお仕事。意外なキャリアのはじまりや、常にハードなシーンに向き合うため、アクションをよく見せるための努力。ここまで読んでくれた方は、少しだけ珍しい仕事に詳しくなれたのではないでしょうか。次回も珍しい職種の方を取材予定ですので、ぜひともお楽しみに!

Profile

坂口茉琴(さかぐちまこと)

坂口茉琴(さかぐちまこと)

1996年、神奈川県生まれ。幼少時より動くことが好きで、ブレイクダンスにはまる。2014年よりアクション俳優・坂口拓に憧れ、弟子入り。2014年公開の『TOKYO TRIBE』で坂口茉琴のために用意された少年・ヨン役で注目される。Netflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』のウサギ役や、『キングダム2』の羌瘣役など、話題作のスタントダブルを務める。

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