一人でも多くの選手をトップチームに 『どんな状況にも揺らぐことのない確固たるサッカー観を』 ユースの指導を通じて僕自身が学んでいること ~ ガンバ大阪ユースコーチ 明神智和さん ~ 取材_高村美砂 撮影_佐藤将希 制作_マガジンハウス

現役時代はボランチを定位置に『鉄人』の異名をとるほど、中盤のハードワーカーとして存在感を示した明神智和さん。2019シーズンで24年間の現役生活にピリオドを打ち、2020シーズンからは古巣のガンバ大阪に戻ってアカデミーコーチに就任されています。ご自身もかつては選手として在籍した『Jリーグアカデミー』でどんな選手を育てたいと考えているのか。指導者としてのビジョンについて伺いました。

新たな『サッカー』の面白さに気付き
指導者に

「2019年にAC長野パルセイロで現役を引退し、かつて在籍した古巣、ガンバ大阪でアカデミーコーチに就任しました。30歳を過ぎたころから漠然とながら『将来は指導者になりたい』と思っていたので、現役中から取得可能なライセンスを取りに行くなど、少しずつ準備をはじめていたんです。特に自分が選手として日々取り組んでいたトレーニングは、最高の学びの場でもありました。トレーニングメニューがどんな意図で組み立てられているのか。一つ一つのトレーニングに設けられているルールにどんな狙いがあるのか。ライセンスの講義で学んだことと、実際の練習を照らし合わせて考えることも増えました。それによってまた違う角度から『サッカー』の面白さに気付けたことで、より『将来は指導者に』というビジョンが定まっていきました」

Profile明神智和さん

1978年1月24日生まれ。兵庫県出身。柏レイソルユースを経て、96年にトップチームに昇格。同年のJリーグ開幕戦でプロデビューを果たす。2000年には世界的スポーツの祭典に、02年には世界的サッカーの祭典に出場した。06年にガンバ大阪に移籍。10年間在籍し数多くのタイトルに貢献したのち、名古屋グランパスエイト、AC長野パルセイロとキャリアを積み、19年に引退。20年からは古巣であるガンバ大阪のアカデミーで指導者としてのキャリアをスタートさせた。

Future of Soccer

育ててもらったサッカーに恩返しを

「今の時代は現役引退後の選択肢も多岐にわたります。以前なら指導者になるか、メディアで解説をするか、という人が多かった気がしますが、Jリーグも30年近い歴史を重ねてきた中で、仕事の幅はすごく広がったように思います。全く違うジャンルの企業に所属する人もいますし、クラブのフロントに入ってクラブの発展に貢献している人もいます。また自分で起業したり、チームを作ったり、ユーチューバーになった人もいます。いずれにしても、プロを経験した元選手が、いろんな角度からサッカー環境を良くしていこう、経験を活かして『サッカー』の魅力を伝えていこうとしているのは、すばらしいことだと思います。僕も彼らと同じように、指導者という立場で、日本のサッカーや、Jリーグの発展に貢献できればと思っています」

Future of Soccer

子供を教える難しさから、
『指導』を学ぶ

「2020年はガンバ大阪のジュニアユースチームのコーチを、今年はユースチームのコーチを預かっています。もともと、クラブから『指導者として戻ってこないか』という話をいただいた時に、自分から『できればアカデミーの指導からスタートしたい』とお伝えして今に至ります。これはライセンスの講義で出会ったインストラクターに『将来、監督をめざすのならアカデミーでしっかりと指導を学んだ方がいい』とアドバイスをいただいたことに背中を押されました。子供たちに何かを伝えようと思えば、大人以上にたくさんの“言葉”が必要になりますし、同じことを伝えても理解度や吸収する速さにはばらつきがあります。そういうことを加味しながらそれぞれにあった言葉がけ、指導で選手に寄り添い、成長を促すのは難しい反面、面白くもありますし、指導を通して僕自身が学んでいることもとても多いです」

TOMOKAZU MYOJIN

ひとりでも多くの『プロ』を
輩出するために

「今、僕がコーチを預かっているガンバ大阪のユースチームは、アマチュア世代で最も“プロ”に近い場所にいます。であればこそ選手には、いかに“プロ”が目の前にあって、そのチャンスは自分次第でつかみ取れるということを意識させたいと思っています。また“プロ”が近づくほどプレースピードは速くなり、フィジカル的な強さも求められます。そうした中でもしっかりと状況を判断しながら、技術とアイデアを発揮できる選手を育てることもユースチームの使命だと思います。めざすのは、ひとりでも多くの選手をガンバ大阪のトップチームに輩出することですが、例えガンバ大阪でプロになれなくても、どのチーム、監督の元でプレーしても、どんなシステム、ポジションを任せられても、判断、技術、アイデアを活かしてプレーできる選手を育てたいと思っています」

Future of Soccer

恵まれた環境に、
感謝を持てるマインドを育む

「ガンバ大阪アカデミーには、整備された人工芝のグラウンドを始め、用具やウェアなど、とても恵まれた、選手がプレーだけに集中できる環境が整っています。普段からトップチームの選手とすれ違うこともあるなど、プロを身近に感じられる環境だからこそ、自然と育まれる向上心もあると思います。また、能力さえあれば高校生でもトップチームでプレーできるのも大きな利点です。今、ガンバ大阪に在籍している宇佐美貴史選手、井手口陽介選手らはその良いお手本だと思います。ですが、環境への“慢心”は時に成長の足かせになります。だからこそ、恵まれた環境を当たり前だと思わずに、プレーできることに常に感謝の気持ちを持ちながら、もっともっと、上をめざして戦ってもらいたい。僕自身も、そういうマインドを備えられる働きかけをしていきたいと思います」

TOMOKAZU MYOJIN

コロナ禍にある今だからできることを

「昨年から続くコロナ禍で、アカデミー世代の大会、試合の数は大きく減っています。大会や試合に出て戦うことが選手の成長を促す部分も多分にあると考えれば、この状況を残念に感じている選手は多いはずです。でも、それを嘆いたところで状況が変わるわけではありません。だからこそ、選手には今の状況を、先ほどもお話しした『サッカーをすること、恵まれた環境にあることが決して当たり前じゃない』ということをもう一度確認する機会にしようと伝えています。その上で、今の状況から何を学べるのか、この状況をいかにプラスに変えていけるのかを考えよう、とも。そんな風にプラスのマインドを持って今を過ごせるかは、のちの自分、サッカー、人生を大きく変えるはずだし、あきらめずに継続できる選手にしか見えない世界がきっとあるはずです」

Future of Soccer

将来を見据えて、
指導者として成長を続ける

「今はガンバ大阪のユースチームのコーチとして選手育成に全力を尽くすだけだと思っていますが、いずれはJリーグの監督をしてみたいという考えはあります。ただ、そこを描けばこそ、僕自身も指導者としてもっと多くのことを学ばなければいけないとも思います。監督とコーチでは仕事の中身は大きく違います。監督は常にチーム全体を見渡しながら、選手をオーガナイズし、組織として形にしていくことを考えなければいけないし、目の前のことだけではなく先を見据えて、いろんな判断、決断をしていかなければいけません。それを実行するには、どんな状況にも揺らぐことのない確固たるサッカー観も必要だと思います。その部分に磨きをかけながら、この先も指導者としての成長をめざします」