レジェンドからのメッセージ 『日常の厳しさを忘れさせるようなプレーを』 コロナ禍のJリーグにできること ~ 中澤佑二さん ~ 取材_熊崎敬 撮影_佐藤将希 ヘアメイク_越智めぐみ(上條事務所) スタイリスト_嶋岡隆(Office Shimarl) 制作_マガジンハウス

“ボンバーヘッド”の異名で知られた中澤佑二さんは引退後、学生たちにラクロスを教えながら、サッカー界にも引き続き熱い視線を注いでいます。そんなレジェンドが現在の活動、2021シーズンのJリーグの見どころ、そしてコロナ禍におけるJリーグの使命を存分に語ってくれました。 *この取材は2021年の3月に行われました。

ひとりじゃないよ、
みんながいるから頑張ろう!

Jリーガーの多くが引退後、サッカーに携わるセカンドキャリアを模索する中、中澤さんは異色の分野に進みました。ラクロスの指導を始めたのです。

「ラクロスに興味を持ったのは、子どもがやり始めたから。現役最後のころには、自分の練習が終わると子どもの部活に足を運んで球拾いなんかをしていました。いまはラクロスを一生懸命勉強しながら、子どもたちに教えることに必死。サッカーでも定期的に子どもに教えた経験がないぼくには、毎日が新たな発見の連続です。子どもはそれぞれに個性があるので、伝え方一つでも工夫しています。コロナ禍のいまは大勢で集まって練習するのが難しいですが、“ひとりじゃないよ、チームのみんながいるから前向きにがんばろう”というメッセージを伝えています」

Profile中澤佑二さん

1978年2月25日生まれ。埼玉県吉川市出身。1999年にヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ1969)でプロキャリアを歩み始め、2002年に横浜F・マリノスへ移籍。“ボンバーヘッド”の異名を取った空中戦の強さを武器に最終ラインに君臨し、18年に引退するまでベストイレブン6度、04年にはDFとして初となるMVPに輝いた。

Future of Soccer

ラクロスもサッカーも、基礎が大切

そんな中澤さんには、ラクロスでの夢があります。

「ラクロス界はメジャースポーツになることをめざしていて、ぼくが教えている子どもたちも、20代半ばといういい時期に大舞台を迎えるかもしれない。そういうこともあって、基礎の大切さを日々教えています。基礎練習は退屈かもしれないですが、それを身につけることで大きく成長できる。サッカーも同じです。プロ入りしたころ、走るサッカーばかりしてきたぼくは、ボール扱いが周りに比べて下手でした。でも、そこからボールコントロールの基礎を徹底して身につけることで、みんなのレベルに追いつくことができたのです」

Future of Soccer

川崎フロンターレの2連覇は難しい?

ラクロスに軸足を置きつつも、サッカーへの情熱はもちろん衰えていません。そんな中澤さんに、2021シーズンのJリーグの見どころをたずねると。

「川崎フロンターレの連覇なるか、それが最大の焦点ですね。たしかに完成度の高いクラブですが、今季は、アジアの大会の影響で過密日程になるので、連覇は大変というのがぼくの見立てです。実際に、昨季大ブレイクした三笘薫選手も今季は研究されて、苦しむ場面が見受けられます。ただ対戦相手に警戒されることで、川崎フロンターレも新たな手を考えるようになる。そうした中でリーグ全体のレベルが底上げされる期待感がありますね」

YUJI NAKAZAWA

常勝 鹿島アントラーズは
伝統のカラーを打ち出せるか

では、川崎フロンターレを止める有力クラブはどこか。

「開幕前、ぼくは鹿島アントラーズが優勝に近いと予想しましたが、開幕から出遅れてしまいました。これはコロナ禍でブラジル人の合流が大幅に遅れたことが大きい。ただ、まだまだ巻き返しのチャンスはあると思います。上田綺世選手が、こんなことを話していました。“昨季の鹿島アントラーズは攻撃的なスタイルを押し出そうとして、上手くいかなかった。でも、かつての鹿島アントラーズの良さである、鉄壁の守りやしたたかさを打ち出したことで上手くまわるようになった”と。そうした伝統のカラーを出すことができれば、十分にチャンスがあると思います」

Future of Soccer

開幕6戦無失点!
サガン鳥栖の強さの秘密はどこに?

王者川崎フロンターレや名古屋グランパスなどが開幕ダッシュに成功した序盤戦、思わぬ伏兵が現われました。サガン鳥栖です。開幕6試合で無敗、しかも無失点。好調の要因はどこにあるのか、中澤さんが分析します。

「サガン鳥栖は攻守のハードワークがすごいですね。とくに切り替え、ボールを失ってから守備への移行が恐ろしく速い。その中で効いているのが、中盤の仙頭啓矢選手と松岡大起選手です。このふたりがハードワークをしながら、相手に合わせた柔軟なポジショニングやプレーをする。ただ走るだけではなく、頭を使ってプレーしていることがわかります。サガン鳥栖は金明輝監督が就任して4年目。過去3年は二ケタ順位が続きましたが、いままで積み重ねてきたものが実っているのだと思います。こういうクラブが出てくるとリーグ全体が活気づく。今後も要チェックです」

YUJI NAKAZAWA

かつての盟友
大久保選手が復活したわけ

注目クラブに続いて、今度は期待の選手をたずねると、世界の大会をともに戦ったベテランの名前が挙がりました。

「世界大会で一緒にプレーした大久保嘉人選手です。開幕から快調にゴールを決めていて、すごくうれしいですね。この数年、ジュビロ磐田や東京ヴェルディで活躍できなかったこともあり、古巣セレッソ大阪に復帰して心に期するものがあったかと思います。シーズンオフは早くから自主トレに励んでいたようで、ぼくもやってくれるんじゃないかと思っていました。というのもみんなが休んでいるときに動き出すと復調する、というのがベテランの“あるある”ですから。点を取る術は熟知しているので、身体が動きさえすればこれくらいできるわけです。セレッソ大阪の若手たちに、いい影響を与えていると思います。大久保選手を中心に、みんなが楽しそうにプレーしていますからね」

Future of Soccer

90分だけでもいい、
コロナ禍の日常を
忘れさせるようなプレーを

90分だけでもいい、
コロナ禍の日常を
忘れさせるようなプレーを

最後に中澤さんが、コロナ禍を戦うJリーガーに温かいメッセージを寄せてくれました。

「大勢で集まることも、好きなところに行くこともできないいま、Jリーガーも皆さんと同じようにストレスの多い日々を過ごしています。プライベートも厳格に管理されて、いやになるときもあるはずです。そんな彼らにぼくから伝えられることがあるとすれば、“この苦しい日々を前向きに捉えませんか?”ということ。サッカー選手は選手寿命が短いので、コロナ禍をいい機会だと割り切って、徹底して身体のケアをしてほしい。そうした努力は必ず、ケガの減少やパフォーマンスの向上といった結果につながると思います。コロナ禍のときにちゃんと自己管理をしたから、長くプレーを続けられた。将来、そんなふうに思ってほしいのです。それからもう一つ、スタジアムに足を運んでくれるファン・サポーターの方々に、90分だけでもいい、コロナ禍を忘れさせるようなすばらしいプレーを見せてほしい。それがコロナ禍でのJリーグの役割だと思います」