溢れるアイデアを実現するため、日々挑戦! 『Jリーグ、そしてアスリートの価値を考え直す』 さまざまな社会活動で得たアイデアをサッカーに還元する ~ 巻誠一郎さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_赤澤昂宥 制作_マガジンハウス

依然新型コロナウイルス感染症の影響は至る所に存在しています。そんな状況下にあってもJリーグが日常にあることは貴重ですし、だからこそより人々の拠り所になるような価値を見出していかなければなりません。今回は2018シーズンで現役生活に別れを告げたJリーグOBの巻誠一郎さんが登場!その多彩なセカンドキャリアやさまざまな社会的活動を通して感じた“スポーツ”、そして“アスリートの価値”に関してお話を伺いました。

アスリートが人々に与える影響力を
知っているからこそ育成を重視

長身を活かしたヘディングやハードワークを武器にジェフユナイテッド市原(現:ジェフユナイテッド市原・千葉)の一員として活躍した巻誠一郎さん。現在は経営者としてのセカンドキャリアを過ごしており、2016年に発生した熊本地震や昨年の豪雨でも復興支援活動を行なうなど、さまざまな社会活動に尽力しています。今回は自身のセカンドキャリアについて、そして夢を持ちにくい時代において、アスリートが与える影響力の大きさについて語っていただきました。その活動をサッカーに還元したいという熱い想いには心が揺さぶられます。

Profile巻 誠一郎さん

1980年8月7日生まれ。熊本県下益城郡小川町出身。地元のサッカー強豪校、熊本県立大津高等学校、そして駒澤大学を経て2003年ジェフユナイテッド市原(現:ジェフユナイテッド市原・千葉)に加入。2010年ロシア、2011年中国への移籍を経て、東京ヴェルディ1969に移籍しJリーグ復帰。その後2014年には地元のクラブであるロアッソ熊本に移籍。2018年に現役引退。 現役時代から地元・熊本の震災復興に貢献する一方、サッカースクールや介護施設、保育園などの経営も手掛けている。

Future of Soccer

教育という視点から
子供たちの育成にアプローチ

「2018年にロアッソ熊本で現役を引退してから、現在まで地元で活動を続けています。現役時代から、熊本でサッカー施設とサッカースクールを運営していました。そのなかで、コロナ禍はもちろんですが、熊本は地震や洪水などいろいろな災害に見舞われている地域なので、熊本地震のときに立ち上げたNPO法人をそのまま活用しながら、地域に根ざした活動をしています。災害があったときは復興支援活動を行なうのはもちろんですが、“子供の夢育成プロジェクト”を立ち上げたりもしました。教育という分野にも興味があるので、サッカーなどのスポーツを通して、子供たちの目標設定の仕方や、問題を見つけて解決する能力を養うためのプログラムを組んだりして、子供たちを育成するために尽力しています」

Future of Soccer

障がい者支援の取り組みにも
アイデアを出し続ける

「現役中から続けていたことなのですが、子供たちの育成と同時に、障がいがある方々の支援も行なっています。あまり表には出てこないですが、地震などの災害が起こったことで、仮設住宅に入ったりして障がい者の方々も普通の生活ができにくくなっているのが現状です。だからこそ、障がい者の方々が普段の生活から取り残されないような集合支援といった取り組みも行なっています。現在、引退してからはそういった活動に深く携われるようになったので自分の考えやアイデアを色濃くしながら、もう一歩踏み込むような施策を新たに立ち上げていく予定です」

SEIICHIRO MAKI

ピッチ外でも多大な影響力を持つ
Jリーグの価値を再認識

「熊本地震は自分のなかでも大きな分岐点になりました。熊本で震災が起こったときはもちろん現役真っ只中。プロサッカー選手はピッチのなかでのプレーだけで表現するものと思っていましたが、Jリーグやプロサッカー選手の価値はフィールドの外でも、大きなウエイトを占めるんだなと感じたんです。もっとほかのプロスポーツもその価値を世のなかに発信していかなければならないと思うと同時に、それが誰かのためになるのであれば活用していくべきと考えるようになったんです。例えば、自分が呼びかけることで震災のときも救援物資がものすごい数集まったり……。それが大きな力になるのであれば、なおさら有効に使わないともったいないと思いました」

Future of Soccer

“誰かの役に立ちたい”という
想いが挑戦の根源

「現役時代にそういった会社を立ち上げるきっかけになったのは、やはり恩返しがしたいという想いですね。現役時代は今まで育ててもらった地元・熊本から本当に沢山の声援とサポートをしてもらいました。だからこそ、これまで応援してもらった分を自分の生まれ育った場所に還元できればいいなと思いました。そこで地域のコミュニティの輪になるサッカー場やサッカースクールを作ろうと考えたんです。引退後は指導者のライセンスも取得しましたが、いろいろな学びを追求するなかで一番自分にしっくりきたのがスポーツの価値、アスリートの価値はピッチやフィールドの上だけじゃなくそれ以外のところにも影響があるんじゃないかという部分。自分も現役時代はクラブが劣勢に立たされたときに力を発揮するタイプでした。だからこそ、人の役に立ちたいという想いがあれば、最大限に力を発揮できると思ったんですよ」

SEIICHIRO MAKI

多様性のあるセカンドキャリアを
示していくのが使命

「いろいろな可能性を模索しながら今の活動を追求しているのですが、違う分野で活動していても最終的にはサッカーに還元したいという部分に帰結します。やはり自分のベースにはサッカーというものが大きくあるので。しかしプロサッカー選手が引退すると、そのまま指導者としてサッカーに携わるか、メディアに出てサッカーを伝えるかという二つの王道の選択肢しかないのが現状です。ただ、毎年、数百人の選手がJリーグでプロになるために入ってきて、それと同時に数百人の選手が現役を引退していきます。だからこそ、もっと多様性のあるセカンドキャリアがあってもいいんじゃないかと思うんですよ。そういった想いもあるからこそ、自分は違う道でチャレンジしていきたいんです」

Future of Soccer

厳しい時期だからこそ
もう一度原点に立ち返るべき

「Jリーグを外側から見ていて、現在はコロナ禍の影響で集客の部分で難しい時期だと思います。自分としては、Jリーグはエンターテインメントという位置づけ。スタジアムに来てその空気を体感することで高揚感を味わえるものだと思うんです。サポーターになる人の心理には、その体験からまたこの空気感を味わったり、特定の選手を応援したいと思う部分がベースにあるはずです。ただ、現在それだけではJリーグが新しいサポーターを獲得することは難しいと思います。だからこそ、原点に立ち返ってホームタウンとする地域に根ざした課題にJリーグのクラブが取り組んでいったり、地域の皆さんと一緒に何かを作り上げていくプロジェクトを立ち上げたりすることが大事なのでは……と思うんです。もう一度地域に愛されるクラブづくりをめざしていくことで、ファンやサポーターは確実に増えていくと思います。今後そういうことがしっかり実践できるクラブの価値はどんどん上がっていくし、Jリーグの見え方も変わってくると思いますよ」