監督経験もあるJクラブOBが感じたJリーグ 『日本のサッカーを強くするためにJリーグがすべきこと』Jリーグは緩やかだが着実かつスマートに進化している ~ 名波浩さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH)撮影_佐藤将希 制作_マガジンハウス

依然としてコロナ禍のまま新しいシーズンを迎えたJリーグ。サポーターにとっては、いつになったらまた以前のようにスタジアムに足を運べるのか、そしてクラブの試合次第で更にヤキモキする日が増えると思いますが、もう一度Jリーグのことを真剣に考えてみませんか?今回はジュビロ磐田でプレーし、同クラブで監督も務めた名波浩さんが登場!今後Jリーグがどうなっていくべきかを伺ってきました。

“分析派”として今季、
そして未来のJリーグを斬る

ジュビロ磐田の黄金期を築いたひとりであり、フィールドで10番を背負いプレーしてきた名波浩さん。2014年からジュビロ磐田の監督も経験しています。選手、そして監督としてもJリーグを経験している稀有な存在だけに、Jリーグが今後どうなっていくかを鋭い戦術眼で“分析”しているはずです。そんな名波さんにJリーグの創成期から現状までの変遷や、今後どうやってJリーグを盛り上げていくべきかを聞いてきました。日本サッカーを強くしたいという想いを秘めた言葉は必見です。

Profile名波浩さん

1972年11月28日生まれ。静岡県藤枝市出身。静岡市立清水商業高等学校(現:静岡市立清水桜が丘高等学校)、順天堂大学を経て、1995年にジュビロ磐田に加入。その直後からレギュラーとして活躍し、後に訪れるジュビロ磐田黄金時代を築き上げ、牽引したひとりとなった。その後、イタリア・セリエAのACヴェネツィア(現:ヴェネツィアFC)、セレッソ大阪、東京ヴェルディ1969でプレーし、Jリーグベストイレブンを4度受賞。サッカー指導者、解説者として各メディアで活躍する。

Future of Soccer

Jリーグの創成期から現在までを分析

「28年目を迎えたJリーグ。大きく分けると3つの時代に分けられると思います。創成期は人気先行で好プレーも珍プレーも含めて、サポーターもそうじゃない人もみんなが楽しめた時代。自分がメインでプレーしていた中期はクラブ間の実力差が徐々についてきて、2強3強のクラブが首位を争う、いい意味で盛り上がっていた時代。そして現在は、選手もJリーグでプロになるのが最終目標ではなく、海外リーグでプレーするという選択肢が生まれて、海外クラブのサッカースタイルや経営スタイルを取り入れたり、目標とするクラブが増えた時代になっていると思います」

Future of Soccer

Jリーグは着々といい方向に進化している

「自分がジュビロ磐田で監督をしていた時期は、まさに3つに分けたうちの最後に当たる時代で、シーズン中に主力選手が海外移籍する……なんてこともありました。普段のJリーグ開催期間中は次の対戦相手のクラブの試合を分析するのは当たり前で、その映像も見ながら、欧州リーグの試合も見て、こんなサッカーがトレンドということを意識しながら取り入れていました。コーチ陣も練習メニューに、YouTubeにアップされている欧州クラブのトレーニングメニューを試してみたり。時代によってテクノロジーを使いながらも、情報過多で頭でっかちにならない程度に“いいもの”を取り入れつつ進んできているので、Jリーグはスマートに進化できていると思いますよ」

HIROSHI NANAMI

選手時代の方が苦しい思い出が多かった

「監督時代は、自分の思い通りにいかないものの、自分がプレーするのとはまた別の楽しさがありました。戦術などが結果に反映されなかったときの、次への期待感でやりがいを感じましたね。また、“このサッカーで、このクラブに勝っちゃうんだ”という嬉しい面もあれば“こんなにいいサッカーをしているのに、このクラブには勝てなかった”という悔しい面もありましたし、自分自身、結果によって情緒が乱れていくのは人間味があって面白いな……と。監督をやれたことで人間的な“大きさ”が身についた気がします(笑)。選手時代と比べると自分がプレーしていた1998年の世界大会のアジア地区予選のときの苦しさ以上のものはないですね。監督初年度に、J1参入プレーオフで相手ゴールキーパーにコーナーキックからヘディングシュートを決められたし、翌年J1に昇格して残留争いをしたり、苦しい思いも多かったですけど、現役時代のときと比べたら、まだラクだなという感じです」

Future of Soccer

名波が斬る!
今シーズン注目のJクラブは?

「今シーズンのJリーグは、昨シーズン、ダントツで優勝した川崎フロンターレを中心に回っていくでしょうね。浦和レッズもリカルド・ロドリゲス監督に代わって、どういうチームづくりをしていくかが見どころでしょうね。ロティーナ監督の招聘にはじまり、積極的補強をした清水エスパルスや、各クラブの主力級を補強した名古屋グランパス。昨シーズンJ1リーグ2位のガンバ大阪は、額面通りの成績だったのかということが問われるシーズンになるか……など、全体を俯瞰してみても見どころは満載です。自分が監督をやって、2シーズン連続でいい成績を出し続けることがどれほど難しいことかわかりました。年間で戦っていく総合力の上積みと、その維持は苦労したので……」

HIROSHI NANAMI

2シーズン連続で
結果を出すことは難しい!?

「今回、なぜ注目クラブに清水エスパルスを挙げたかというと、前述したようにロティーナ監督を招聘したからです。ロティーナ監督は昨シーズンまでセレッソ大阪を率いていましたが、就任初年度で5位(前年度は7位)、そして昨シーズンは4位といい成績を収めています。セレッソ大阪の監督に就任する前はJ2の東京ヴェルディ1969の監督を務めていましたが、就任初年度で5位(前年は18位)、翌年は6位とこれも2シーズンで安定した成績を収めているんです。そういう監督こそやはり一流だと思うのです。もちろんクラブに所属する選手の違いはありますけど、監督目線では2シーズン通して安定した成績を出しているクラブは力を出しそうだなと思います」

Future of Soccer

“日の丸を強くする”
理念からかけ離れている現状

「Jリーグをもっと盛り上げていくためには、Jリーグが掲げている理念を各クラブがもっと追求しなければいけないと思います。地域に密着してその地域とともに育っていくクラブをつくるという部分はかなりできてきていると思います。ただ、勝敗や昇格・降格など目先の目標に追われすぎていて、クラブ単位での世代を横断した育成や、純粋にサッカーを楽しむための環境作りなど、長期的な視点で、強い日本サッカーの形成に繋がる理想のプロセスから逸れている場面も多く見受けます。そこはOBとして強く感じるところですね」