欧州の本場から見た日本人選手やJリーグの現在地 『サッカーを“スポーツ”から“文化”へ変えていくために』世界的な視点に立たないと日本サッカーは強くならない ~ 藤田俊哉さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

Jリーグのレベルは日進月歩の勢いで発展していますが、やはり世界のサッカーシーンの中心はヨーロッパです。そんなヨーロッパに駐在し、日本人選手のコンディションなどを確認したり、欧州クラブとコネクションを作り、コミュニケーションをとる役割を担うのが、ジュビロ磐田の黄金期を築き、日本代表としても活躍した藤田俊哉さんです。今回は藤田さんの現在の活動内容と、日本サッカー界やJリーグが今後どうなっていくべきかを伺ってきました。

世界と日本の差を
縮めていくために必要なこと

現役時代はミスがなく精度の高いプレーで幾度となくファンを魅了してきた藤田さん。現在は欧州を拠点に、欧州クラブとコミュニケーションをとることで研鑽を積まれています。そんな藤田さんが考える日本サッカーの現在地、そして欧州のフットボールシーンや各クラブから学んだことをどうJリーグへ還元していくかを語っていただきました。本場のフットボールを体験してきた藤田さんならではの金言は必見です。

Profile藤田俊哉さん

1971年10月4日、静岡県生まれ。清水商業高校、筑波大学を経て、94年にジュビロ磐田に入団。主力選手として、リーグ優勝3回、アジアクラブ選手権優勝1回というジュビロ磐田の黄金時代を築き上げた。2012年6月に現役引退。引退後は指導者として14年、当時エールステ・ディヴィジ (2部)のVVVフェンロのコーチに就任。16-17シーズンで2部優勝し、1部昇格に貢献した。17年に当時イングランド2部リーグのリーズ・ユナイテッドFCの強化部に入りマネージメントなどを学ぶ。

Future of Soccer

現在は欧州クラブとの
コミュニケーションを
とるのが仕事

「私の経歴を語ると、まず40歳で現役を引退して、翌年41歳でS級ライセンスを取得しました。42歳で引退試合を行って、そこから2014年にオランダのVVVフェンロ(現:1部リーグ エールディヴィジ)でコーチを3年半やって、そのあとVVVフェンロから監督のオファーをもらったがライセンス問題など諸事情があってその話は流れてしまったんです。そこからイギリスのリーズ・ユナイテッドFC(現:1部リーグ プレミアリーグ)で2年間、クラブのマネージメントを勉強させてもらって、現在はヨーロッパのクラブチームとのコミュニケーションを取ったり、コネクションを広げたり、欧州リーグで活躍している日本人選手の視察をしています」

Future of Soccer

欧州フットボールシーンでも
コロナ禍で大変な時期を迎えている

「私はヨーロッパ各地をまわって、日本人選手が所属しているクラブの練習を見たり、試合を見たりして、選手たちのフィジカルコンディションなどを確認し、日本の監督やコーチ、スタッフに報告するというのが主な仕事です。ご存じのとおり、海外でもコロナが猛威を振るっているので、ヨーロッパでも徹底した対策が行なわれています。現在ロックダウン期間であるため、住まいのあるオランダ以外のヨーロッパ諸国にはいけない状況です。試合を見に行くにも、クラブスタッフと会うときも48時間前にPCR検査を受け、陰性証明書類を提出しなければいけません。選手やクラブスタッフとの導線を完全に分けられていたり、メディアの取材もオンラインになったり……と厳しく対策が行なわれています。もちろん活動には制限があるため、身体的にはどこに動くこともできませんが、選手の練習映像を確認したり、監督からの話など情報を整理する時間がとれたので、苦しい期間のなかにもプラス面もあると考えています」

TOSHIYA FUJITA

海外移籍は増えたが
日本人が中心選手になるのはまだ先

「欧州で活動していて感じることは、ストレートにいってしまえば欧州の人々は日本という国のことは好きだけど、日本のサッカーのレベルとはまた別の話ということ。やはり、クラブの世界大会で、鹿島アントラーズや浦和レッズが活躍したときは注目されるけど、アジアの大会で勝ち進んだぐらいでは海外での大きなニュースにならないのが現状です。だからこそ日本という国のサッカーを認知させたいし、レベルをもっと上げたいと強く思うようになりました。日本人選手の話になるとこれはまた別です。各クラブがどういう基準で評価するかによりますが、欧州のクラブでは絶対的なチームの主力やエースとして日本人選手を探していないように感じます。もちろん日本人は勤勉だし、規律正しいのでそういったポジティブな面は評価が高いと思います。だからこそ次はチームの中核をなすようなポジションで日本人選手が活躍していけると嬉しいです。今はそこに行きつくための過渡期。ただ、一つずつ段階を踏んでいけばいいと思います」

Future of Soccer

選手が視点を変えていかないと
世界との差は縮まらない

「Jクラブはもちろん、リーグ全体のレベルは上がっているし、選手のスキルやクオリティも高くなっています。だからこそ、アジアでは絶対的なチャンピオンにならなければいけない。そこからクラブの世界大会に出て、世界のビッグクラブといつも試合をする……ということが日常となって欲しいです。2020シーズン、圧倒的強さで優勝した川崎フロンターレなどには、可能な限り世界(特に欧州)に出て行き、世界的な目線やレベルでどう見るか、という視点を広げてほしいです。選手も来年またJリーグで優勝したいというだけではなく、アジアでチャンピオンになって、クラブの世界大会に出場して、自分の評価を高めたり、日本サッカーを強くするのは自分たちだ!……というモチベーションで新シーズンを迎えて欲しいです。要するに日本のレベルも上がっているけど、欧州のレベルも同じように上がっているので、もっと志を高く持たないとその差が縮まらないということです」

TOSHIYA FUJITA

今はその情熱はないが
将来的にはクラブの
監督業も!?

「S級ランセンスを持っていますが、今すぐにJリーグのクラブで監督をめざすという選択肢はありません。そこに今は情熱がないだけです。ただ、どういう風に人生が変わるかは自分でもわかりません(笑)。監督業というのは人が考えられないような情熱を持ってないと務まりません。なぜなら熱いエネルギーを持った選手二十数名を束ねる立場となるわけだから、こちらも相当のエネルギーを持って臨まなくてはいけない……と私は考えています。今は、欧州で生のフットボールを体感して研鑽を積んで、日本人が欧州のクラブのスタッフとしても活躍できるような制度や道筋を作っていくほうに情熱があるから。中途半端に監督などを引き受けると、やはり選手やスタッフ、みんなに失礼だと思うし、いい仕事はできないと思います。自分のポリシーとして仕事は情熱を感じるか感じないか、で選んでいきたいのです。もちろん、自分がやりたくても簡単にオファーが来る仕事ではないので、将来的にはわからないですよ(笑)」

Future of Soccer

サッカーを“スポーツ”から
“文化”へと昇華させたい

サッカーを“スポーツ”から
“文化”へと昇華させたい

「今後さらにJリーグは社会全体にも影響を持つようなリーグ・組織になって行く必要があります。もちろん、サッカーのレベルを上げていくことは大事なのですが、社会のなかでサッカーがどれくらい大事なのかを、みんなが理解してJリーグがなくてはならない存在にならないといけないですね。そうしないと人もモノもお金も知恵も集約されない。そういう活動をサッカー界はしていくべきです。地元に愛されて、応援されて、みんなに楽しみを与えて、そのクラブも強くなっていく……そういうサイクルができていくと、欧州みたいにサッカーが“文化”になると思います。Jリーグから、ほかの社会でも活躍できるいい人材が輩出されるような組織になると価値のある存在として認知され高く評価されると考えます。日本のスポーツ界はどの種目も水準が高く、整備されている。そのなかでサッカーやJリーグが最も大切だと思われるには、すべてにおいてレベルアップしていかないと文化を根付かせるまでいかない。地域社会にしっかり貢献できるよう地に足をつけながら私も活動していきたいです」