オリンピック日本代表も経験した元Jリーガーの華麗なる転身 『YouTubeを通じて実現したサッカーへの恩返し』Jリーグや日本サッカー界の発展のために ~ 那須大亮さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_佐藤将希 制作_マガジンハウス

サッカーを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。もちろんJリーグにも選手のSNS活用やセカンドキャリアに関して、さまざまな課題があるようです。今回は現役時代からYouTubeの配信をスタートし、現在は26万人の登録者数を誇る人気ユーチューバーとして活躍している那須大亮さんが登場。なぜ、YouTubeの配信をはじめたのか、そしてJリーガーのセカンドキャリアについて語っていただきました。

自分がサッカーとYouTubeを
通して伝えたいこと

現役時代は職人気質ながら激しいプレーでチームを引っ張る熱い漢というイメージがあったが、現在自身のYouTubeチャンネルではかなりお茶目な一面を見せている那須大亮さん。批判を浴びるかもしれなかったYouTubeでの配信を、なぜ現役時代からはじめたのか、そして自身がYouTubeを通して伝えたいこととは? また自身も思い悩んだJリーガーのセカンドキャリアについて熱く語っていただきました。

Profile那須大亮さん

1981年10月10日生まれ。鹿児島県南さつま市出身。名門、鹿児島実業高等学校を経て、2002年、大学生Jリーガーとして横浜F・マリノスに入団。2004年のアテネ五輪ではU-23日本代表に選出され、予選の2試合に出場。横浜F・マリノスのあとは東京ヴェルディ、ジュビロ磐田、柏レイソル、浦和レッズを経てヴィッセル神戸で現役を引退。ヴィッセル神戸時代の2018年に自身のチャンネルを開設し、YouTubeの配信をスタート。現在はYouTubeを通して、サッカーの魅力を伝えている。
https://www.youtube.com/channel/UCQ1PA9Rj7x6ydublqYz_ZXA

Future of Soccer

自分の言葉を伝えたくて
YouTubeをスタート

「漠然と30代中盤から後半に差し掛かってサッカー選手の“本質”を理解できるようになってきました。自分がプレーしている裏には、たくさんの応援してくれるサポーターがいて、チームを支えるスポンサー、そして裏方のスタッフがいて……。そのなかでチームの代表としてピッチに立つ11人の表現者のひとりが自分だということを知ったときに、引退後はこれまでまわりで支えてくれていた人を笑顔にする、何か恩返しができるものに携わりたいと思ったんです。だからこそ個人で何かできるものを……というタイミングで、YouTubeという媒体に出会いました」

Future of Soccer

人気ユーチューバーも
実はSNS否定派だった!?

「現役時代、実はSNSというものに対しては否定派でした。少し古い考えかもしれませんが、選手はピッチに立って、結果を残す(チームを勝たせる)のが仕事だと思っていたんです。浦和レッズに移籍した当時、チームメイトがSNSをうまく活用して自分のブランディングにつなげていたので、そこから少しずつSNSに興味を持ちはじめ、Instagramをはじめました。そしてヴィッセル神戸に移籍したタイミングで、プレーを見てもらうだけじゃなくて、悩んでいる人とか、背中を押してもらいたい人に自分の言葉で何かを伝えることがしたいと思ったんです。講演会という選択肢もありましたが、YouTubeだと自分が発信した言葉を映像とともに残せるので、サッカーの認知につながればいいと思い、そこでチャレンジしてみようと思い立ったわけなんですよ」

DAISUKE NASU

軸をサッカーからズラさないことで
まわりの反応が変化

「YouTubeをはじめた当初は9割ぐらいの人が否定派でしたね(笑)。当時はYouTubeとスポーツはあまりマッチングがよくなくて……。今でこそさまざまな規制が入りましたが、当時はYouTube自体が“好きなことをやって稼ぐ”という感じで軽視されていた部分もあったと思います。もちろん、最初は否定的な声も多いだろうという覚悟はしていましたが、やはりいろいろ言われましたよ(苦笑)。はじめた当初は、サッカーを知らないライトな層に向けてのコンテンツを作っていましたが、あるときからもっとディープにサッカーを伝えていきたいという想いが強くなりました。それでコンテンツの軸をサッカーからズラしちゃいけないと軌道修正してからは濃い内容のコンテンツができはじめて、現役選手とのコラボも多くなってきました。そこからは投稿されるコメントの質も良くなったし、潮目が変わったように感じますね。その当時はまだ現役だったので、自分にしかできない発信の仕方が視聴者の皆さんに伝わったのだと思います」

Future of Soccer

スポーツ+エンタメを掛け合わせるのが
今後の課題

「現在、発信する企画は自分と、所属している会社のクリエイターの人たちとで相談したり、スタッフと企画会議をしながら決めています。ただ、コラボする選手やチームと交渉したり、アポを取るのは自分の仕事なので、スケジューリングなどは特に苦労しますね。見てくれる視聴者はもちろんですが、取材したりコラボする選手やチームからも信頼を得ないといけなかったので、しっかりと自分の言葉で企画などを伝えたかったんです。それがたとえ結果として断られても。だからこそ、選手とチームとの良好な関係が築けたのだと思います。ただ、視聴者のニーズに応えるのは苦労しますよね(笑)。現状、YouTubeはエンターテインメント性が強いコンテンツが好まれる傾向にあるので、スポーツマニア向けすぎる発信だと、どうしてもコアな層にしか伝わらない部分があるからすごく難しいと思いました。だからこそ、スポーツ+エンタメという部分を掛け合わせた企画構成にしないとたくさんの人に見てもらえないので、それは今も試行錯誤中ですね」

DAISUKE NASU

伝えたいのは
Jリーグがより発展していくこと

「自分のチャンネルでは、選手にインタビューすることも多いですね。ある程度、関係が築けている選手とはざっくばらんに普段通りの温度感で話せますが、はじめて会う選手や年下の選手だと、逆に取材対象の選手が自分に対して気を遣うんですよ。やはり自分はサッカー界の先輩だし、はじめましてという部分があるので。そう思われた時点で、相手の“素の部分”を引き出せません。そういうときは、相手が喋りやすいような言葉のチョイスをしたり、わざと自分がポンコツなキャラを演じたりすることもあります。結果的に選手が引き立ってくれればいいので。YouTubeを通して自分が一番伝えたいことは、Jリーグ、そして日本サッカーが発展していってもらいたいという部分ですね。やはり満員のスタジアムでプレーすることが選手にとっても、チームにとっても幸せなことだと思うので。だから自分のチャンネルから、少しでもサッカーに対して興味を持ち、いちサッカーファンになってもらったり、出演してくれた選手の人気につながっていってくれればなと思います。今後はそういった意味と意義も乗せつつ、エンタメも重視したチャンネルにしていきたいですね」

Future of Soccer

セカンドキャリアも
自分自身で切り拓くのみ!

「サッカー選手のセカンドキャリアを考えると、いち人生設計のなかでサッカー選手が終わって、次にどうすればいいかというのは自然な流れだと思うんですよ。そういった言葉があること自体、僕は好きではないのですが……(笑)。ただ、そこは誰しもが自然と考えなければいけない部分ですよね。僕もそうでしたが、多くの選手が次の人生への準備ができてないからこそ“セカンドキャリア”という言葉が生まれたんだと思います。ある側面ではサッカーというすばらしいものに没頭していたから……というキレイな見方もできます。ただ、それだけでは生きていけないし、現実も見なくてはいけない。素直に言うとその先を構築し、切り拓いていくのは自分次第なんです。だから、それぞれのジャンルで成功するロールモデルがどんどん生まれていけば、引退した選手もスムーズにいろいろなことに対してチャレンジしていけると思います。今は選手のなかでも違う世界へ飛び込んでいく選択肢は多くないのが現状だと思います。もちろんサッカー界に残るという選択肢もあると思いますが、違うジャンルの知識や経験がサッカー界にも降りてきていると思うので熟考し、悩みつつもそこから自分自身で切り拓いていかなければいけないと思いますね」