JリーグOBが教えるサッカーの魅力 『完全ガイド!Jリーグプロファイル』日本サッカーのススメ ~ 戸田和幸さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

withコロナの時代で、変化が求められているJリーグ。日本サッカーの躍動がはじまった2002 FIFAワールドカップで日本代表として活躍、現在はDAZN(ダゾーン)のJリーグや海外リーグの試合において、わかりやすい解説と理路整然としたロジカルな話し口が大人気の戸田和幸さんに、日本サッカーの動向やJリーグについて語っていただきました。

今のJリーグは
見所がたくさんある!

2002 FIFAワールドカップ時のプレースタイルのイメージとは真逆の、冷静かつロジカルで分析力に長けた解説が人気を博している戸田和幸さん。現在は解説者としてフットボールの理解を深めつつ、YouTubeでも自身のチャンネルではフットボールファンを唸らせる“深”解説を行なっている。そんな戸田さんが感じた2020シーズンのJリーグと、これからのJリーグの在り方について伺っていきます。

Profile戸田和幸さん

1977年12月30日生まれ。神奈川県相模原市出身。桐蔭学園高等学校を卒業後、1996年に清水エスパルスに入団。自国開催された2002 FIFAワールドカップで日本代表として史上初のベスト16進出に貢献。その活躍から2003年、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCに移籍。2004年に帰国し、数チームで活躍したのち、2013年シーズンをもって現役を引退する。その後、解説者の道へ進み、2019-20シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝の解説者も務める。現在は解説者も続けながら、一橋大学サッカー部の指導も行なう。

Future of Soccer

将来のヴィジョンは
解説者を経て、指導者へ

「引退したのが2013年のシーズンでした。そのあと、自然と解説などのお仕事をいただくようになりましたね。しかし、これで生計を立てていこうと思ったわけではなく、個人的には“次のステージに進むための足掛かり”と考えています。自分も現役時代、半分は口を使いながらプレーしていた選手なので“喋る(指示の声を出す)”のは得意としています。もちろん、試合中に喋っていたことが解説などの仕事に共有できるかは別ですけど。現役時代の自分と現在の自分にギャップを感じた人も多いと思いますが、自分の持っているベースを人にちゃんと見せるいい機会だと思って、解説などのお仕事をはじめるようになったんですよ。将来的なヴィジョンとしては、やはり指導者をめざしたいと思っています。ただその前に、解説のお仕事をしてみて、金銭面などいろいろな部分を含め、解説者のステータスをもっと上げていかなきゃいけないなとも感じましたね(笑)。今はどちらも頑張っていきますよ」

Future of Soccer

現代フットボールを
実践していくのは
本当に難しい

「今、一橋大学(東京都大学サッカー2部リーグ)のサッカー部を指導しているのですが、やはりフットボールは難しい。フットボールには自分たちがどのようにゲーム(試合)を進めていくかの戦略・戦術、プランがあります。しかしそれには当然のことながら、相手がいて、相手のアクションがあるわけです。自分たちのコンセプトはこれ、相手の特徴はこれ、だから自分たちのコンセプトに基づいた一番効果的な戦い方がこれ、みたいにロジカルに決めても、実際にゲームでそれを実践するのは当然ですが、改めて難しいと感じました。試合では見る場所も意識することも増える。一つのポジションをとるときの基準が自分たちの感覚だけではなく、相手の情報も入ってくるからなおさらですよね。世界のトップはそれをすべて踏まえたうえで実践できている。自分も含め、上から見ていろいろ言うことはできます。でも実際に選手がやることは複雑なんです。レベルが上がれば上がるほど、最終的にはそのせめぎあいにプラスして個人の質の部分も出てきます。だからこそ、それを見極めて批判的にならず、誠実に伝えなければいけないと思いますね」

KAZUYUKI TODA

選手交代枠の拡大で
より試合が面白くなった

「暫定的なレギュレーションで現在1試合で交代できる人数が各チーム5人になりました。そのレギュレーションは選手層が厚いチームは当然、有利になりますよね。2020シーズンで言えば、首位を独走する川崎フロンターレが顕著です。なぜなら、交代枠が多いことで前半と後半で違うチームになれるし、選手層が厚く、選手の質が高ければ交代で彩を加えられますよね。個人的には5人交代は面白いと思いますが、結局、お金を持ってて選手層を厚くできるチームが有利になる……という部分を見ると、いろいろ考えていく必要があると思いますね。また飲水タイムが設けられたことで、その飲水タイム中に修正を加えられる。バスケットボールの試合でいうクォーター制みたいに、試合を4分割して見ることができるので、戦術的にも面白くなったと思います」

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現在のトレンドは
戦術を重視するスペイン

「現在のJリーグを見ていると、自分が現役でプレーしていたときと比べて、フットボールのスタイルは当然のことながら激変しています。そういう意味では、世界のフットボールのトレンドをキャッチアップして取り入れ、スタイルにも多様性は出てきたと思います。一時期は日本サッカー協会のトップダウンのせいなのか、ブラジルの個人技至上主義の影響を受けたり、FCバルセロナのパスをつなぐ戦術を取り入れたりする傾向はありました。しかし今はかなりフラットになったと思います。昔は指導者もブラジル人が多かったですけど、今はスペイン人の監督もJリーグで指揮を執るようになったりしていますよね。現在のJリーグは、戦術を重視するスペインの影響を受けていると感じます」

KAZUYUKI TODA

戸田和幸が注目する
J1のクラブと選手とは?

「現在、自分が注目しているJリーグのクラブはセレッソ大阪と大分トリニータです。どちらのクラブもシーズン中のリアルな1週間などを見させてもらったり、いろいろと勉強させてもらっているので、YouTubeで話したように詳しくは語れませんが……(笑)。大分トリニータの2019年の年間予算を見ると、J1、J2のクラブを含めても下から数えたほうが早いんです。それでも9位だった2019年シーズンの結果を見ると、クラブでどういうことが起こっているのかを考えるのが面白いと思います。注目する選手はもうベテランになりますが、セレッソの藤田直之選手。フットボールの理解、戦術理解度が高く、ゲームをコントロールする力がありますね。セレッソ躍進の原動力になっている選手だと思います。アタッカーでいえば、川崎フロンターレの三笘薫選手。ノリに乗っているのでみなさんご存じかと思いますが、ドリブルで状況が変えられる数少ない選手ですね。シュートも足を出させて、股を抜くなど本当に上手い。これからの動向が楽しみな選手です」

Future of Soccer

各クラブのSNS運用が
Jリーグを盛り上げるカギに

「クラブ数に関しては正直なところをいうと、飽和状態にあると思います。もちろんフットボールの試合もエンターテインメントですから感動したり、感情の起伏がないと見に来る人もお金を払いたくないと思います。現在J3まで58クラブあって、どれだけのチームがその条件に応えられるかというと、努力の余地はあると思います。もちろん施設の面も大きい。サッカー専用のスタジアムで見るだけで確実に感動の質は変わってきます。そこにどう投資できるかはそれぞれのクラブの問題ですよね。あとはJリーグの観客の平均年齢が40代なので、若年層に向けてどう発信していくかも重要になります。だからこそ各クラブがSNSを正しく運用していくことが重要になると思います。自分の考えとしては、選手はタレントやコメディアンではないと思っています。見せ方として、お笑いの方向に走りがちですが、しっかりクラブのSNSで選手のインタビューなどを載せれば、需要はあると思います。これからの各クラブの動きに注目していきたいですね」

KAZUYUKI TODA