松本山雅FCがコロナ禍に魅せたアクション 『緊急レポート!山雅ドライブスルーマルシェ』  “山雅ロス”を埋めた地域愛プロジェクト ~ 松本山雅FC ~ 取材/制作_マガジンハウス 撮影_赤澤昂宥

新型コロナウイルスの影響で活動中止を余儀なくされていた、Jリーグ28年目の春。長野県は首都圏よりも先に緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ予断を許さない状況。それでもサポーターにとっては愛するチームを応援する機会、スタジアムに出店する飲食店関係者にとっては販売の機会とそれぞれの“ロス”が重なり合うなか、松本山雅FCがホームであるサンプロ アルウィンでドライブスルー形式のテイクアウトグルメ企画を催しました。ようやくステイホームから1歩踏み出して、サポーターや地域への愛を形にした松本山雅FCの心温まる企画をご紹介します。

地域愛をいち早く形にした
山雅ドライブスルーマルシェ

3月から続くさまざまな活動制限や自粛。サッカーという主たる翼をもがれたJリーグの各クラブは、地域そしてサポーターに対して何ができるのか自問自答を繰り返してきました。練習はおろか外部との接触を避けた状況でできることといえば、選手が自宅で録画したメッセージをオフィシャルサイトやSNSを通じて発するのが精一杯。そんな最中、松本山雅FCが上げた復活ののろしはとてもユニークなものでした。緊急事態宣言が解除されるやいなや、ホームであるサンプロ アルウィンで『山雅ドライブスルーマルシェ』を開催。スタジアムグルメを提供する松本市内の飲食店協力のもと、スタジアムの空気を渇望するサポーターに向けてお弁当のテイクアウト販売を実施したのです。

Future of Soccer

信州豚のタレかつ丼に
やまめの炭火塩焼まで
朝の8時から待ちわびた
サポーターたち

松本山雅FCがコロナ禍以降掲げるキーメッセージは「One Soul, One Heart」。困難な状況下にあっても地域の方々と共に歩んでいく決意を表し、その先駆けとなった本イベントには、待ち焦がれたサポーターが乗る車両が朝の8時から列を成していました。用意されたお弁当は10種類。山雅サポーターの聖地、喫茶山雅のOne Heart弁当(選手直筆メッセージカード付!)から信州豚のタレかつ丼にやまめの炭火塩焼までバラエティに富んだ品々が、細心の注意とオペーレーションのもと提供されていきます。

Future of Soccer

踏み続けた二の足
驚きの速さで
実現した交流の場

夏のような太陽が照りつけるなか、絶え間なく続くオーダーに対応する運営スタッフ。一瞬の隙を突いて事業本部運営部の笹川佑介さんにお話を伺いました。

「自分が普段担当する業務はスタジアムグルメを出店いただく飲食店さんのケアです。新型コロナウイルスがここまで拡大することを予想していなかったので、当初のJリーグの開幕に際しても1週間前まで例年通りの準備を進めていましたが、まさかここまで延期が長引くとは。双方が二の足を踏んでいた状態だったので、その分企画から今日に至るまでは瞬発力を伴ってあっという間に進んでいきました。その反面、現場に入ってから見えてくる課題もありましたが、いまこうしてみなさんが集まって交流の場を持てたことが嬉しいですし、この結びつきの強さが松本山雅FCの魅力だと思います」

ずっと地域密着
そして変わらない強い絆

ソーシャルディスタンスを保つため、出店者のみなさんはバックヤードから受注担当者をサポート。作業の合間を縫ってSOCO CAFEの蔵岡久男さんにもお話を伺いました。

「今日はいつもスタジアムで提供しているナシゴレンのお弁当を用意させていただきました。松本市内でお店も経営しておりますが、2月から段々と売り上げが下がっていき、4月には半分以下という状況に陥りました。だからこそこのイベントにお声掛けいただいたことはとても嬉しいですし、なによりこうやってサポーターが集まり、スタジアムの空気を感じられることは関わったみんなにとってありがたいことではないでしょうか。松本山雅FCはチーム誕生時からずっと地域密着。その強い絆が変わらないことを今日改めて実感しています」

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お弁当に添えられた
もう一つのおかず
“ガチャさん”の軽妙トーク

ドライブスルーの導線上では、音声プラットフォーム『stand.fm』を活用した音声配信も。約4時間にわたるMCを務めたのは“ガチャさん”の愛称で知られるホームタウン担当の片山真人さん。軽妙なトークで現場の様子から各お弁当の食レポ、それに選手との対談まで盛り沢山の内容で、列を成すサポーターのみなさんに楽しい話題を提供されていました。ゲストとして招かれていたのは、鈴木雄斗選手と阪野豊史選手。収録の様子は乗車しながらでも確認できたので、ソーシャルディスタンスを保ちながら温かいエールが試合を待ちわびるサポーターから飛んでいました。

アップデートされたスローガン
One Soul, One Heart

11時30分の開場からあっという間に3時間が経過。自らスタジアムの入り口で入場の陣頭指揮を執っていた球団クラブ代表の神田文之さんから、ようやくお話を伺えました。

「この3カ月は誰も経験したことのない事態でしたので、社会的な状況に対してクラブがどう判断して舵を切っていくのか、より自発的な判断をしていく必要がありました。どこにも答えがありませんでしたからね。もちろんこれまでも地域の一員として、サポーターに向き合ってチームを経営してきましたが、この3カ月で強く感じたことは、チームとのつながりがまだ浅い方に対しても自分たちが介在することで一つにまとまっていかなければいけない、ということ。だからもともと掲げていたスローガン『One Soul』に、『One Heart』を加えたんです。我々の絆の深さは、立ち上げのころからずっと地域の方と歩み、一緒にチームを作り上げてきたことに依りますので。今日はその想いをはじめて形にできたイベントです。環境が変化したなかでこれからJリーグも再開されますが、この期間に改めて考え、温めた地域愛を胸に頑張っていこうと思います」

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変化を受け入れながら、
変わらないものを再確認する

代表の神田さんがお話しされていたことがもう一つあります。新型コロナウイルスの影響で、これまで人が集まることは疑うことなく良しとされていたのに、その常識がひっくり返ってしまった。今後どうやってチームを経営し、試合を運営していくか、まだまだ課題はあるけれども、サッカーをはじめとするスポーツが感動を与え、観客がその歓びを分かち合うことは決して変わらない、ということ。変化に対してどのように対応していけるか?ということはもちろん大切ですが、変化のなかでも変わらないものや、変わってはいけないことがある。そんなことを学んだ松本取材でした。これまでにない環境下、そして新しい試みも伴うであろう今年のJリーグ。松本山雅FCをはじめ各チームの動向に注目ください!