日本代表OBが教えるサッカーの魅力 『完全ガイド!Jリーグプロファイル』 日本サッカーのススメ ~ 城 彰二さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

横浜F・マリノスの15年ぶりの優勝で幕を閉じた明治安田生命Jリーグ2019シーズン。今年2020シーズンの栄冠は果たしてどのチームに?注目の熱戦が繰り広げられる中、横浜F・マリノスのOBでもあり、日本代表としても活躍した城彰二さんのインタビューを敢行!昨シーズンを振り返りながら、日本サッカーやJリーグがめざすべき場所、そして現在務める、北海道十勝スカイアースの統括GMの活動などを、城さんならではのパラレルな視点で語っていただきました。

勢いに乗るチームが出現すると
Jリーグは良い意味で面白くなる

「2019年はスタートダッシュができてそのまま上位に残ったチームと、スタートダッシュしながらも失速していったチームがあって……。最終的には横浜F・マリノスが優勝しましたけど、最終節まで優勝がわからない面白いシーズンになったと思います。やはりリーグで各チームの力が拮抗してきた感はありますね。1~2年ぐらい前は開幕で独走するとそのまま優勝するチームも多かったのですが、それがなくなってどのチームが勝ってもおかしくないリーグになってきました。一つのプレーや1試合の勝利で勢いや流れを引き寄せるチームが出てきているのが、リーグを面白くしている要因かもしれません。見ている側は面白いけど、選手側の気持ちになるとたまらないですね(笑)」

Profile城彰二さん

1975年6月17日生まれ。北海道室蘭市生まれ、鹿児島県姶良市育ち。高校卒業後、ジェフユナイテッド市原(当時)に加入し、1997年には横浜マリノス(現、横浜F・マリノス)に移籍し、中心選手として活躍。日本代表にも選ばれ“マイアミの奇跡”や“ジョホールバルの歓喜”など日本サッカーの歴史を塗り替えてきたシーンには必ずその姿があった。2000年にはリーガエスパニョーラのレアル・バジャドリードに移籍し海外挑戦も経験。2006年に現役引退。引退後はテレビで解説や実況などの仕事に携わり、昨年は北海道十勝スカイアースの統括GMに就任。クラブ経営にも携わる。

Future of Soccer

さまざまなことが起こった2019シーズン
今季は監督が続投するチームが有利!?

「2019年のJリーグは激動の1年でした。横浜F・マリノスが15年ぶりのリーグ優勝を果たしましたが、湘南ベルマーレは監督問題が尾を引いてJ1入れ替えプレーオフまでいきましたし、浦和レッズもあれだけの組織力を持ちながら、ACLの決勝まで進む代償として、リーグ戦での不振が顕著に現れました。鹿島アントラーズは主力選手があれだけごっそり抜けながら、上位に食い込む健闘を見せました。とにかく監督の方針でチームのやり方が決まるので、監督が続投するチームは今シーズンも有利かもしれないですね。あとは、監督が代わっても勝ち慣れている、自分たちの戦術(やり方)がはっきりしているチームは強いですね。もちろん選手の補強も大事です。そして昨シーズン上位で今季ACLを戦うチームは常時1.5から2チーム分が組める戦力がないと厳しくなると思います」

Future of Soccer

Jリーグでもスタイルを確立する
チームが激増
欧州リーグの哲学を取り入れる

「僕がJリーグでプレーしていたときと、今のJリーグの選手を見ていると個のスキルが格段にあがっていますね。もちろん、欧州リーグに移籍できる選手が育ってきているので、それは紛れもない事実です。あとは各チームのスタイルもかなり確立されてきたような気がします。昔は所属する選手の力を見ながらバランスをとってのチームづくりでしたが、湘南ベルマーレのように全員で走り回ってプレッシャーをかけたり、サンフレッチェ広島のように堅守速攻で守備を固めてカウンターを狙ったり、鹿島アントラーズのように伝統的に4-4-2というフォーメーションを採用したり。クラブの色が出やすくなったと思います。見ていても堅守速攻のチームにプレッシングサッカーでどう対応するか……など、どういうゲーム展開になるのか、サポーターもゲームが見やすくなりましたね。昔はJリーグでも強い上位のチームに対しては守備固めしてカウンターのチャンスをうかがうみたいに対戦チームによって戦術を変えていましたが、現在は前述したようなそのチーム独特の戦術を、シーズンを通して、どのチーム相手でも貫く傾向がありますね。欧州リーグのチーム哲学に近くなってきたのかなと思います」

SHOJI JO

Jリーグが1強2強の
リーグ構成になることは
世界に認知されるために
重要な要素

「勝ち負けうんぬんよりもクラブの色を大事にしているチームが増えている感覚はありますね。先ほども言ったようにリーグの力は拮抗していますが、個人的にいうとリーグで1強、2強のチームが出てくるほうがリーグのレベルは上がると思います。今は日本のリーグで優勝をねらうという目標を掲げてやりますが、浦和や鹿島はアジアの王者も同時にめざしている。ワンランク上の世界的なクラブになろうとしているんですよ。ですが、すべてのクラブがめざせるわけじゃない。地域の人口も多くて、キャパシティのあるスタジアムを持っていて、集客ができるクラブ、そして母体の財政がしっかりしているチームにはそのチャンスがあるような気がします。日本代表はW杯で成績を残してきているので、認知されつつありますが、クラブレベルだと、まだまだ認知度は低いので、ぜひ世界をめざしてほしいですね」

Future of Soccer

お世話になった先輩の遺志を継ぐ
クラブチーム経営で
見えてきた景色

「現在僕は北海道十勝スカイアース(カテゴリーは社会人リーグ)の統括GMを担当しています。実はチーム経営をするつもりはなかったんです。どちらかというと指導者や監督になりたかった。だから2009年にはS級ライセンス(Jリーグで監督ができるライセンス)も獲得しました。スカイアースはJリーグの黎明期にヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)で活躍したGKの藤川孝幸さんが立ち上げたチームで、現役時代からお世話になっていたので、スーパーバイザーとして携わっていました。ですが病気で逝去され、チーム存続の危機になったところで、その遺志を引き継いだ形で、経営に携わるようになったのです。自分のなかでは人生の構想にはなかった話なんですよ(笑)」

SHOJI JO

華やかに見えるクラブ経営も
実は大変
地道な仕事に北海道で奔走する

「実は18歳から個人運営の会社は立ち上げていたのですが、サッカークラブという大きな組織をどう運営していくのかは初めての経験なので、戸惑いはありました。サッカーという畑は一緒ですが、運営という全く違う場所なので、選手時代に見えなかったことが見えるようになったし、逆に選手も経験しているので、選手の気持ちもわかったり……。現在は勉強しながらもそのバランスをとるように運営しています。“統括GM”という肩書ですが、運営も広報も全部自分でやらなければいけないので、大変です(笑)。だから、練習グラウンド確保なども動いたりします。町が運営しているグラウンドに朝ならびに行って書類に名前書いて抽選して……みたいなこともGMの仕事(笑)。端から見ると華やかに見えますが、地元の十勝であいさつまわりをして協賛(スポンサー)を集めたり、地道に動いていますよ」

Future of Soccer

アスリートの
セカンドキャリアはいばらの道
競技人生後の支援にも携わる

アスリートの
セカンドキャリアはいばらの道
競技人生後の支援にも携わる

「サッカー選手を経験した人は、サッカーの畑でセカンドキャリアを!と簡単に思いがちですが、現状は甘くない。自分も現役選手に引退後のリスクマネージメントについて聞くと、どこかうわの空だったりします。テレビに出たり、解説の仕事をしたり……というのは本当にひと握りの人しかできません。実は一昨年、友人と共同出資して選手やアスリートのセカンドキャリアを支援する会社を立ち上げました。アスリートが引退後、全く別のフィールドで活躍するケースは本当に稀なんです。競技人生でプロまで上り詰めた人たちなので努力を知っているから、本当に人材としてもったいないと思うんです。だからこそ企業が求める人材を育成したり、逆に企業はどういう人を求めているのかを講義したり、色々な部分でこれからもサポートしていけるようにしたいですね」