Jリーグの過去と現在、そして未来『Jリーグは日本独自の道を進むべき!』特別対談企画 ~ 岡田武史さん×新保里歩さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

Jリーグのチームを経営する社長とJ美女サポーターが対談する夢の企画、第2弾!今回はJリーグや日本代表の監督を経てFC今治の代表取締役となった岡田武史さんと、キャスターの新保里歩さんが、FC今治での奮闘、そして世界やアジアから見たJリーグを話し合います。理想の上司としてもその名が挙がる岡田さんの“岡ちゃん節”が冴えわたります。とくとご覧ください。

地方クラブからJ1をめざす
FC今治の現在
そして、Jリーグの進化に
ついて深く語る

見事J3昇格を果たした岡田さんがオーナーであるFC今治。地元に受け入れられず、四苦八苦しながらも、なんとかたどり着いたJの舞台。FC今治を経営するうえでの苦労話や、印象的だったこと、そしてJリーグの進化に至るまで、キャスターの新保里歩さんが鋭く、切り込みます!

Profile 岡田武史さん

1956年生まれ。1997年のW杯アジア最終予選中に日本代表監督に就任。そこからチームを持ち直し、日本のW杯初出場を成し遂げる。その後、コンサドーレ札幌、横浜F・マリノスなどチームを歴任し、2008年には再度、日本代表監督に就任。南アフリカW杯においてベスト16進出を果たす。2014年にはFC今治のオーナーに。2018年には公認S級コーチライセンスを返上し、退路を断って経営に集中。2019年、FC今治を見事J3に昇格させた。

Profile 新保里歩さん

1996年生まれ。新潟県出身。立正大学 品川キャンパスミスコンテスト2017でグランプリに輝く。キャスターとしてBS日テレ公式YouTubeチャンネルやAbemaTVなどで活躍の場を広げる。自身も4級審判員の資格を持つなど、サッカーにのめり込み、首都圏で開催されるJリーグの試合をスタジアムで観戦することも多い。体を動かすことが好きで、最近はフットサルやランニングなどもこなしている。

Future of Soccer

FC今治の経営者に就任し、
5年という期間は一つの節目

新保里歩(以下S):まずはFC今治の今季J3昇格、おめでとうございます!2014年に岡田さんが経営者としてFC今治にいらっしゃいましたが、昇格までの道のりはあっという間に感じましたか?そして印象的だったことは?

岡田武史(以下O):ここまでの道のりは短かったですね。自分のなかで5年という期間が一つのスパンでした。会社を立ち上げたとき知人の経営者に“統計上、会社を立ち上げて5年以内に9割はつぶれる。岡田さんはその1割に入ろうというすごくリスクのあるチャレンジをはじめたんですよ。ただ、リスクがあるけど、それにチャレンジする人がいないと、この社会は変わらないんです”といわれてすごく感銘を受けた。それで“ヨシ!5年は頑張ろう”と思って走り続けてきたので、5年というのはある意味、大きな思いがある期間でした。

S:そのチャレンジのなかでも特に印象的だったことは?

O:印象的だったのは、今治にシェアハウスで一緒に住んでいた同志ともいえる吉武(博文元監督)を解任したこと。経営者は従業員とその家族を給料を払うことで養っていかなければならない。ただ、成績不振で会社が上手くいかないと立ち行かないので、吉武との友情以上に自分にとっては大切なものがあるので泣く泣く解任しました。それは印象的でしたね。

Future of Soccer

昨年昇格を逃したことで
みんなの気持ちが“一つ”になれた

S:今後、FC今治はどう進んでいくのですか?

O:僕が今治に来た後に3億8000万円をかけて5000人を収容できる唯一のプライベートスタジアムを作りました。規模は小さいですけど、僕らにとっては気持ちの入ったスタジアム。ただ、このスタジアムの規模ではJ3までで、J2に上がれない。J2だと1万人収容、J1だと1万5000人収容できなければいけない。だから1年前から動き出して、なんとか新スタジアム建設のめどが立ち始めました。今、Jリーグでプライベートスタジアムを持つチームは、柏レイソルとジュビロ磐田しかないのですが、それに続く三つ目のプライベートスタジアムになります。そして大企業がスポンサーについていない唯一のスタジアムになりますね。2022年の3月には完成予定です。だから、来年、僕たちがJ3で優勝しても昇格はできません(笑)。2年かけてチームをじっくり作って、そのスタジアムの完成とともにJ2に上がるのが当面の目標になります。

S:自分がJリーグの試合を見に行くと、サポーターの存在は非常に大きいと感じます。経営者に就任されてから、サポーターを集めるのも苦労されてきたと思いますが……。

O:最初は本当に受け入れてもらえなかった。でも3年目に今の5000人収容のスタジアムができたときに、オープニングゲームが満員になったんですよ。予想を超える5200人のお客さんが来てくれました。そのこけら落としの後、会社のウェブに「ハッピーノート」という社員が書き込むブログみたいなものがあって、そこに女子社員がこう書いていました。満員のゴール裏でおばさんが泣いていて、どうして泣いているのかを聞いたら“3年前岡田さんが今治に来たときは、みんな否定的だった。もちろん自分も否定的でした。でも3年後にこうした光景が今治で見られるなんて嬉しくて……”と泣いていたそうです。もうそれだけで苦労が報われた感じがしましたね。

S:地道な活動が本当に実を結んだんですね。

O:嬉しかったのは、昨年、最終節で昇格を逃したときに、サポーターから罵声を浴びるだろう、スポンサーもおりてしまうだろうと覚悟をしていたら、あいさつのときに一つも罵声がなかった。逆に温かい言葉ばかりで、しかも“来年はJ3上がれよ!”じゃなくて“来年は絶対J3上がるぞ!”とサポーター側も自分のことのように意識が変わっていったんです。状況は一変して、会社にも代表電話に“来季のスポンサーやりたい”とか電話もかかってくるぐらい。極めつきは今治FCに1000万円寄付したいという人も現れました。昨年、昇格を逃したことは、我々にとって必要だったんだ、それでまさにみんなが“一つ”になったんだと確信しましたね。昇格を逃したのは必然だったんですよ。

TAKESHI OKADA & RIHO SHINBO

同じことが繰り返せないことを
知っているから
新たなチャレンジや
ワクワクするほうを選ぶ

S:横浜F・マリノスの監督をされていたころと比べて、経営者になった今、岡田さんご自身の環境はどのように変化しましたか?

O:僕は性格的に同じことを繰り返すのがなかなかできない。例えば、チームを勝たせてくれといわれたらそこそこのメンバーがいれば、それなりに勝てますし、勝ち方もわかる。でも自分が面白くない。新しいチャレンジをしなければ気が済まないんですよ。ワクワクしてないと絶対にいい結果がついてこないのも、自分で知っている。監督ではそれなりの実績を残してきたから、できることもわかっているし、自分の限界もなんとなくわかる。だからこそ、経営の道に進んだとき、すごくワクワクしたんです。今もう63歳になるんだけど、この歳でこんなにもワクワクさせてもらえるのは、ありがたいことだと思いますね。だからこそ、現場には未練はないんです。今ではS級(ライセンス)を返上してよかったと思いますよ(笑)。

S:監督のころと比べて、Jリーグの見方は変わりましたか?

O:実はJリーグの試合はほとんど見てません。最近はJFLの試合しか見てなかったなぁ(笑)。たまに日本代表の試合は見てましたけど。毎日、スポンサーとの会食はあるし、土日は試合があるし。ウィークデイも稟議から捺印申請、100通ぐらい来るメールの処理、そして打ち合わせなどありますからね。正直、J1の試合を見る余裕はなかったですね。

Jリーグと世界3大リーグを
比べてはいけない
日本独自の道をめざすべき!

S:Jリーグはチーム間の実力が非常に拮抗したリーグです。ただ、Jリーグがもっと魅力的になっていくには、このままチームのレベルが拮抗したリーグでいるのがいいのか。それともスペインやドイツのように1~2チーム実力が突出したチームがいるほうがいいのか、岡田さんはどちらだと思いますか?

O:どちらが正しいとはいえませんが、ただ、いろんなチームがあったほうが面白いと思います。例えば、ヴィッセル神戸みたいにお金をかけて補強したり、逆に生え抜きだけで頑張るチームがあってもいいと思います。どういったお金のかけ方が正しいという正解はないと思います。日本が盛り上がったラグビーW杯での日本代表の躍進、ラグビー協会も絶対に勝てないだろうと思っていた強豪に勝ってしまうような、番狂わせが起こることがスポーツの醍醐味だと思いますね。劇作家の倉本聰さんも“俺がどんなに工夫して面白い脚本を書いても、スポーツのドラマティック性には勝てないんだよ”とおっしゃってました。だからこそ、実力が拮抗しているほうがいいと思いますね。

S:日本のサッカーが世界に認められるにはどうしたらいいと思いますか?

O:何をもって認められるべきか?その基準がどこにあるかわかりませんが、やはり一流選手はヨーロッパの3大リーグ(プレミアリーグ、リーガエスパニョーラ、ブンデスリーガ)に集まります。資本もそこに集まっていますし、この現象はしょうがないことです。Jリーグがどういったリーグをめざしているのかが重要であって、一流選手がいなくてもサポーターから愛されるチームをめざすべきです。むしろ世界に認められなければいけないのは日本代表でしょう。Jリーグを世界のトップリーグと比べること自体に無理があるので、そこをめざす必要はないと思います。世界からどう見られようが、Jリーグは日本独自の道を突き進むべきです。

TAKESHI OKADA & RIHO SHINBO

Jリーグはアジアでも
稀有な成功例
サポーターの幸福度も高い

S:岡田さんは今後、Jリーグがどんなアクションを起こしていくべきだと思いますか?

O:僕は、Jリーグはすばらしく上手くいっているリーグだと思います。先ほどもいったようにいい選手はヨーロッパに集まるのだからサッカーの質を世界No.1にする必要はない。Jリーグは日本で初めて、地域に根差したクラブを設立したリーグ。FC今治なんて、16万人の人口で、5000人収容のスタジアムしかないし、少ない資金のなかから手づくりで応援する。そしてチームを愛し、試合を見て泣いてくださるサポーターがいる。そんなリーグは世界にそうないと思います。それを考えると僕はある意味、健全で世界で一番成功しているリーグだと思いますね。

S:岡田さんは中国でも監督をされた経験がありますが、そのときはどういった状況でしたか?

O:中国リーグもある意味、巨額の資本を投入して、強引に運営しているリーグ。チャイナマネーで一流選手や一流監督を呼びよせて、リーグを世界に認めさせようとしている。でも、地域のチームが地元でファンサービスしたり、地元に還元する活動をしているかというと一切していない。だから資金力のあるチームの試合はお客さんは入るけど、その他のチームはお客さんが入っていない。そういう意味ではリーグが成功しているとは言い難いし、中国代表チームもなかなか強くなっていない。かたやJリーグは短期間でお客さんも増えたし、日本代表の強化にもつながって成功を収めている。だからこそ僕はJリーグは少なくともアジアでは一番成功していてサポーターの幸福度も高いリーグだと思うんですよ。

Future of Soccer

自分の面白いと
思ったことをやり通す
それが“岡ちゃん”の流儀

S:岡田さんはリーグのなかに入ってみて、Jリーグの進化を感じますか?

O:いろんなことをいう人はいますが、世界から見たらこんなに短期間で成長した日本ってどういう育成システムをしているのか、みんな興味を持っています。Jリーグがはじまる前は、観客席なんてガラガラで、プレーしている選手の子供が“お父さ~ん!”と呼ぶ声が聞こえたぐらい(笑)。W杯出場なんて考えられなかった。それからプロリーグを発足し、すごい勢いで成長しながら独自の育成システムを実践し、成功したんです。Jリーグが発足しなかったら、今の状況はあり得ないですね。川淵(三郎元チェアマン)さんはすごいことを成し遂げたと思いますね。ただ、それに甘んじていてはダメ。これからもっと良くしていかないと。世界は日本の、Jリーグの状況を注視していますよ。

S:最後に、岡田さんは今、幸せですか?(笑)

O:来季はJ3に上がるけど、もし成績が上位でも、J2には昇格できない。まだスタジアムが完成していないから。だから、今季は若手に経験を積ませて、チームとして底上げしていくことをベースに戦っていこうと思います。スポンサーさんも見つけなければいけないし(笑)。今は充実しているし、本当にワクワクしっぱなしですよ(笑)。