日本代表OBたちが教えるサッカーの魅力 『完全ガイド!Jリーグプロファイル』 日本サッカーのススメ ~ 鹿島アントラーズ C.R.O 中田浩二さん ~ 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

世界的サッカーの祭典における日本代表の活躍により、大いに盛り上がるサッカーシーン。そこで再注目されているのがJリーグです。世界的な大物選手の獲得も相まって、今こそ世間の関心はJリーグに向いているといっても過言ではないでしょう。ここが日本サッカーを盛り上げる絶好の機会なのです。今回もJリーグがさらに盛り上がるような金言を元Jクラブ出身者、日本代表OBから授かってきました。

現場ではなくフロントへの
道を歩んだ
名選手が
Jクラブの経営について語る

鹿島アントラーズではもちろん、日本代表でもその精度の高いプレーはチームにとって欠かせない存在だった中田さん。現在は指導者への道ではなく、鹿島アントラーズのフロントに入り、スポンサーや行政機関などとクラブをつなぐ役割を担い、ビジネス面でクラブをサポートする。今回は鹿島アントラーズのC.R.Oという目線からJリーグの現在を語っていただきました。選手とフロントを経験した稀有な立場から見るJクラブの経営とは?

Profile 中田浩二さん

1979年生まれ。帝京高校では全国高校サッカー選手権で準優勝。高校卒業後、鹿島アントラーズに加入。中盤を主戦場に、チームの多くのタイトル獲得に貢献した。トルシエ、ジーコ、オシムといった歴代監督の下、日本代表も経験。2015年に現役を引退し、現在は鹿島アントラーズのクラブ・リレーションズ・オフィサー(C.R.O)として活動中。

Future of Soccer

共存から競争へ!
クラブ格差が広がる可能性も

現在は明治安田生命やDAZN(ダゾーン)といった大きなスポンサーの協力もあり、優勝獲得賞金が高額になりました。今までは各クラブ同士の“共存”という側面もありましたが、“競争”の要素もより濃くなっていきます。クラブとしても勝つほどにお金が入ってくるし、お金が入れば補強もできます。今後、ヨーロッパのようなビッグクラブが誕生することも夢ではありません。そうなると各クラブがもっと経営努力をしていかなければならない状況になってくるので、25周年を迎えたJリーグですが、これからちょっとずつクラブ格差というのも開いてくるのではないかと思いますね。

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アントラーズが強いのは
先人たちの教えを
継承するから

鹿島アントラーズが強いのはなぜか?それはジーコの教え(=ジーコイズム)を守り続けているからです。プロとは勝つことがすべて。では、勝つためには何をしなければいけないのか。それを個人個人で考える。そのことをジーコが当時いた選手たちに植え付けてくれました。一人がさぼることで、チーム全体が崩れることも入団した時から言われたし、練習の時から勝つために何をすべきかを常に考えることを徹底的に叩き込まれました。もちろんフロントも選手が勝つためにどうサポートしなければいけないかを考えながら成長してきました。フロントは当時のメンバーのまま変わってないので、自分もジーコイズムを下の世代に伝えながらクラブ経営をしていかなければいけないと思いましたね。

KOJI NAKATA

現場の指導者ではない
“別の視点”から
Jリーグを見たい

自分も引退したら指導者や監督になると漠然と考えていました。それが引退する際に今の事業部長にこっちの道(フロント)にこないかと声をかけられて。それがきっかけで自分としても別の視点からサッカーを見てみたいと思うようになり、フロントに入る決断をしました。最終的には自分がフロントの道へ進むことで、Jリーガーのセカンドキャリアが広がることになるのではないかとも思いました。現在はマーケティンググループに所属し、集客に関して戦略を立てたり、スポンサー何社かの窓口を担当し、選手の間に入って契約をまとめたりもしています。自分は選手とフロントの両方を経験している人間なので、双方の視点から配慮してイベントなどの調整をしたり、バランスをとるような動きをしていますね。ちなみに自分の引退試合は自分で企画しましたよ(笑)。

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目標はフロントで経営を
学び続け、
いつかJリーグの
チェアマンになること

Jリーグはまだまだ親会社から出向してきてクラブを経営する人が多いのが現状です。つまり、選手から経営者になるチャンスやチャレンジの機会すらまだ少ないと思うんです。だからこそ自分は経営のことも考えつつプレーヤーズファーストで選手の環境をもっと良くしていきたいと考えています。今はビジネスの視点が強いですが、そこに選手の意見が入ってくることで、日本サッカーの環境も良くなると思うんです。今、選手は海外に行って、指導者も海外で学び、日本代表を経験した人が指導しているのに、経営陣だけは成長がないとすれば、ちょっとバランスが悪い。Jクラブや日本代表を経験した人が経営側になれば、より日本のレベルアップにつながると思います。だからこそ、自分は今、Jリーグチェアマンを目指して頑張っています。

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シーズンチケットの
販売数増加が
各クラブの最大の命題!

クラブ経営を安定させるにはシーズンチケット(=ホームの試合を指定席で観られるチケット)の販売数を増やすのも重要。ヨーロッパの強豪チームはほぼシーズンチケットを持っている人で埋まっているので、Jリーグもそういう風になっていくのが理想です。昨年の12月にスペイン2部リーグに所属するデポルティーボ・ラ・コルーニャへ研修に行きました。色々、お話を聞かせてもらって、人口25万人の都市で、スタジアムの収容人数が約3万3000人。その中で、ソシオ(=シーズンチケットを持っている人)が2万8000人もいる。それが100年ぐらい続いている歴史がヨーロッパのサッカー文化であり、まだ25年しか経ってないJリーグとの違いでもありますよね。

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“きっかけ”を作ることが
Jリーグの集客にもつながる

Jリーグのクラブ経営においての柱は、大部分を占めるスポンサー収入と入場料(チケット販売)収入、あとはグッズ販売収入。鹿島アントラーズでいうと、それに加えてスタジアムの管理権も持っているので、施設の利用による収益もありますし、これからは芝生のビジネス(芝生の新品種育成や管理)も始めるので、最初に挙げた3本柱に加えて他にも色々増やしていけるのが理想ですね。敷地内には整形外科の病院もありますし、試合開催日以外にも何らかのイベントを行うなど、いかにスタジアムに人を集めるかがカギになってくると思います。きっかけを作ってスタジアムに人を呼べれば、そこから“Jリーグの試合も観てみようか”という人も増えると思うので、それを期待して頑張っていきたいですね。

KOJI NAKATA