日本代表OBたちが教えるサッカーの魅力 『完全ガイド!Jリーグプロファイル』 日本サッカーのススメ 〜 サッカー解説者 都並敏史さん 〜 取材_牛島康之(NO-TECH) 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

今シーズンで1993年の開幕から25周年の節目の年を迎えるJリーグ。リーグ戦では熱き戦いが繰り広げられていますが、やはりJリーグ全体がもっと盛り上がるにはどうしたらいいのかという根本の問題を抱えています。ここではそんな命題を解決すべくJクラブ出身者や元日本代表の方々にお話を伺っていきます。日本サッカーを熱くしていくための金言がここに!

熱さの中にも知性を
兼ね備えた名選手!
Jリーグの今と昔を語る

気持ちの入ったプレーもさることながら、攻守のバランス感覚に優れた選手として強くなっていく過渡期の日本代表でも欠かせない存在だった都並さん。現在はJリーグ開幕のよい時代から“内側”にいる人間としての目線を軸に、Jリーグの今と昔について語っていただきました。日本サッカーやクラブがこれから目指していく姿など、考えさせられるお話は必見です。

Profile 都並敏史さん

1961年生まれ、東京都世田谷区出身。小学6年生から読売サッカークラブの下部組織で育ち、Jリーグ開幕時には黄金期のヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)に所属。1990年代中盤まで、チームの生え抜きとして活躍。引退後はサッカー解説者やコーチなどを歴任し、2004年にはJFA公認S級ライセンスを取得。現在は関東リーグのブリオベッカ浦安でテクニカル・ディレクターを務める。

Future of Soccer

大きな節目を迎えたJリーグ
開幕時はかなり
「特殊な」状況だった?

今季はJリーグが開幕して四半世紀の25周年という大きな節目を迎えています。私は日本サッカー自体が発展していくベースが整ったな……と見ています。Jリーグが誕生する前のJSL当時は有名になりたいとか、日本代表になりたいとか、選手もある意味ピュアな気持ちでいたので、気持ちの入ったエキサイティングな試合も多く見られました。ただJリーグが開幕して、全体的に華やかになった分だけ、今考えると実はここに落とし穴があったんです。選手にお金も入り、チームのフロントにもサッカーを知らない素人が入ってきたり、少しだけ異常な、熱に浮かされたような状況が続いていたと思います。

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世界のプロリーグと比べて
ねじ曲がった、いびつな状況

一般の人から見ると選手たちにはプロ意識が芽生え、見ごたえのある試合も多かったのは事実です。ただ、我々内側の人間から見ると、足りないものも多かった。本来、プロは実力のあるものは多額の報酬をもらい、実力のないものは淘汰されていくべきなのですが、Jリーグの開幕で急激にお金が入ったことで、世界のプロフェッショナルと比べると少しその状況がねじ曲がってしまった。選手自体も100%のパフォーマンスを出しているのかと考えるとそうでもなかった。日本代表を目指すわけでもないけど、クビになることもない……みたいに甘えている選手が結構いたのは事実です。サッカーはそういう人が一人でもいると、うまくいかない。だから当時は少し、いびつな状況に陥っていたように感じました。

SATOSHI TSUNAMI

色々な可能性や希望が見えてきた
現在のJリーグ

ただ、徐々にその環境も変わっていき、近年では本来のプロフェッショナルのあるべき姿に近づいてきたと思います。そして、昨シーズンからスポンサードしてくれる企業のおかげで、リーグ上位3チームには破格の賞金が支払われるようになりました。大きなニンジンがぶら下げられたことでその状況に残っていきたいチームや選手も沢山いるし、日本代表に選ばれることだけでなく、その先の海外移籍まで見えるようになりました。25周年を迎えて、色々、試行錯誤され淘汰され、選手はもちろんチームの在り方も個別化、差別化していく中でJリーグ自体も成熟されていくんじゃないかと思いますね。

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地域密着や選手のセカンドキャリアも取り組んでいくべき問題

クラブは地域密着であるのが本来の姿ですが、移籍で選手の出入りが激しくなり、入ってきた選手にクラブ愛がなければサポーターにもすぐバレてしまいますよね。やはりクラブが生え抜き選手を育てていって、その選手がずっとそのクラブに居続けるのが理想。今、セカンドキャリアの問題も色々取り沙汰されていますが、引退後の選手の受け皿を作るのはもちろん、それがサッカー界全体のパイを広げていけるよう模索していかなければいけないと思っています。育ててもらったチームに残る人が増えれば、地域密着の色も濃くなりますし。

SATOSHI TSUNAMI

かつての盟友が指揮する
注目のチーム

現在のJリーグの話に戻すと、J1で今、面白いなと思うチームはFC東京ですね。長谷川健太氏が監督になって、チームの体質が徐々に変わってきた気がします。普段から頑張っている選手を使うし、適材適所の配置もうまい。選手たちに“自分たちでやってるんだ”と思わせる部分もうまいですね。私は自分が監督で失敗したからよくわかる(笑)。“俺がやらせてるんだ!”という監督の気持ちが強くてもうまくいかない。他にもジュビロ磐田やヴィッセル神戸など面白いサッカーをしているチームは沢山あるので、注目してみてほしいですね。

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心を動かすような
気持ちやプレーが
スタジアムに人を呼ぶ!

これからJリーグが盛り上がっていくためには、もちろんスタジアムに足を運んでもらうのは大事ですが、まずは中身(試合内容)を濃くしないとダメ。いくら子供が預けられて、グルメも充実して……みたいになってもそれはあくまで二次的なこと。なによりもグラウンドの中の選手がシャカリキに戦っていく姿を見せるのが大事です。プロスポーツは一般の人がその競技を観て心を動かされたり、スカッとすることが重要なのですから。もちろん箱(スタジアム)の雰囲気もあって、足を運ぶお客さんに“なんかワクワクする”と思わせることにお金をかけていくのも大事ですね。色々な要素が絡み合って充実してくれば、25年前にJリーグが開幕した時みたいに盛り上がっていくと思いますよ。

SATOSHI TSUNAMI