日本代表OBたちが教えるサッカーの魅力 『完全ガイド!Jリーグプロファイル』 日本サッカーのススメ 〜 サッカー解説者 福田正博さん 〜 取材_栁澤哲 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

ついにロシアで開幕となった世界的サッカーの祭典。日本チームがどう活躍するのか気になるところですが、そんな選手たちの土台となるのがJリーグ。もっともっとJリーグが、そして日本サッカーが盛り上がり、成功を収めるためにはどうしたらいいのか? そんな命題を元Jクラブ出身者や元監督など、OBの方々におうかがいします。日本サッカーがもっと熱くなるための金言がここに。

視聴者の声を代弁する
名解説者が語る!

Jリーグの黎明期をトップ選手として経験した福田さん。現在は日本サッカー界を俯瞰して見られる立場にいることから、Jリーグの今と昔についていろいろと語っていただきました。現在の日本サッカー界が抱える問題、そしてその先にある輝かしい未来とは?

Profile 福田正博さん

1966年生まれ神奈川県出身。1989年、三菱重工業サッカー部(現・浦和レッズ)に加入し、その翌年には日本代表に初選出。ポジションは主にフォワード。Jリーグ開幕後も浦和レッズの象徴的存在として活躍し、「ミスター・レッズ」としてサポーターに親しまれた。現在は解説者として、サッカー関係のテレビ番組を中心に活動中。

「日常」に根付いた
Jリーグ25年の歴史

Jリーグはもともと、世界のレベルに近づくために作ったもの。そういう意味では、25年かけて、Jリーグというものが日本に根付いたという実感はあります。今、プロとして活躍している25歳以下の選手は、もう生まれたときからプロリーグがあったわけです。Jリーグが自然と日常に存在しているところまできたのは間違いないと思います。ただ、それが若干、コアな人たちに特化したところもある。「地域密着」をうたうことで、もちろんメリットもデメリットもあったと思いますが、「ファン」ではなく「サポーター」という特別感が生じたことで、スタジアムに足を運びづらくなってしまった人も少なからずいると思う。それをどう打破していくかが、今後の課題だと思います。

Future of Soccer

真の地域密着とは、
果たしてどんなものなのか?

たとえば僕が在籍していた浦和レッズの場合、「赤いものを着ていないとスタジアムに行きづらい」という感覚が、一般的にあると思う。それはそれで浦和レッズの特殊性ですし、チームにはいろいろな形があっていいと思うのですが、その一方で、川崎フロンターレみたいなチームが出てきたことは、とてもいいことだと思います。スタジアムに足を運ぶとすごくアットホームな雰囲気で、小学生に向けて算数ドリルを作ったり、選手が商店街をまわったり、行政とも密に連携している。そういった感覚は、日本独自のサッカー文化のような気がします。ヨーロッパナイズされることがすべてではない。真の地域密着とはどういうことなのか、各クラブ、真剣に考えることが大切だと思います。

MASAHIRO FUKUDA

選手の育成に必要なのは
指導者のレベルアップが不可欠

子供たちを変えるのは、やっぱり大人。協会も指導者ライセンスを強化していますが、Jリーグが25年経ったとはいえ、まだまだ過渡期。若い指導者が育ってくれば、その指導を受けた選手が優れた指導者になっていく連鎖反応が起こるわけで、もう少し時間はかかるかもしれませんが、非常にいい流れになっていると僕は思います。自分の経験だけではなくて、ちゃんとした知識をもった方が指導することが多くなってきていますからね。だから、今の子供たちを見ていても、しっかりとした技術をもち、きちんと戦術も理解した選手がたくさん出てきている。その分、「個性がない」なんて言われ方もしますけど、僕はそんなことないと思う。その証拠に、今年のJリーグでは若くて面白い選手がたくさん出てきていますからね。

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2020年の東京オリンピックで
活躍を期待する若手選手は?

2020年の東京オリンピック世代には、現役時代に日本代表で共に戦った森保一が監督ということもあり、すごく期待しています。特に、川崎フロンターレはすごい決断をしたなと思ったのですが、東京オリンピック世代の三好康児をコンサドーレ札幌へ、板倉滉をベガルタ仙台へレンタル移籍させて、彼らは所属チームで結果を出している。これはオリンピックにとって、すごく追い風です。FC東京の久保建英は別格だと思いますが、ガンバ大阪には中村敬斗もいて、こんな才能をもっている高校生がいるのかと、ちょっと驚きだったのは事実です。ドイツには伊藤達哉、オランダには堂安律という選手もいて、枚挙にいとまがないほど。世界的に見ると、20代前半は若手とはいえない。Jリーグもやっと世界の基準に追いついてきたのかなと思います。

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Jリーグはもっとスター選手を
生み出していく必要がある!

スタジアムに足を運んでもらうためには、先にも話したように「真の地域密着」を考えることももちろんですが、「この選手が見たい!」と思うスターがいること。これはスポーツには絶対に必要だと思います。錦織圭がいたからテニスブームが起こったように、そんなスターをどう作っていくかが重要です。サッカーを普段見ない人でも知っているカズ(三浦知良)のような存在を作るためには、やはりメディアに出ることが必要で、そのためには試合を日本のカレンダーに合わせた試みもしていくべきだと思う。たとえば、リーグの日程をもっと前倒しにして、天皇杯決勝を元日にやるのではなく、年末年始をシーズンオフにして選手たちがメディアに出やすいようにするとか。大きな変化が必要だと思います。

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見せてほしいのは、
日本人の「意地」と「誇り」

ロシアで開催される世界的サッカーの祭典に出るからには、当然結果が重要だし、そのための準備や努力をするのは当たり前。でもそれ以上に、見ている人たちに何か可能性を感じさせるような、ピッチでの生き様とか、日本人としての意地とか、そういうものを感じさせる戦いをしてほしい。日本人でもできる、日本人でもやれるんだという、ひとつの指標を見せてくれる戦いを、決して精神論ではなく。スポーツの本来のよさは、そこにあると僕は思うので。スポーツだからこそ変えられるもの、伝えられるものを忘れずに、選手たちが日本の代表として、多くの人たちの想いを背負ってピッチに立っていることを忘れずに。そうすれば、ワンプレーワンプレーも変わってくると思う。そんな姿を期待しています。

MASAHIRO FUKUDA