人間関係を円滑にする大人のマナー新常識。マガジンハウス『クロワッサン』編集部が提案する素敵な大人のマナーを身につけて、無用な軋轢のない、快適な関係を築きましょう。
2回にわたってお送りする「センスある、お詫びとクレームとは」。前回の『謝罪編』から引き続き、今回は、『クレーム編』です。
とかくこの世はままならない。謝らなければならないことや、どうしても譲れないことが発生する。せめてスマートに対処するには?怒りや謝罪を心理学・認知科学の視点から研究している川合伸幸さんが教えてくれる適切な“始末のつけ方”を学びましょう。
クレームで起きやすいのが、当の本人が怒りしか表出できないこと。
「腹が立って文句を言っても、自分の不満や要求をうまく伝えられず、とにかくなんとかしてほしい、という混乱状態に陥ってしまう人が多いんですよね。まず自分がいま置かれている状況を客観的に見ることが大切です。何が不満なのか、何に困っているのかを見極めた上で、相手にどうしてほしいのかを伝える。このときに感情をむき出しにするのは得策ではありません。自分が冷静に苦情を申し述べれば、相手もそれに対してどうすればいいかを具体的に考えることができますからね」
状況を俯瞰してみる目を持つことが速やかな解決の糸口になります。
クレームとは、自分が不満に思う正当な理由があり、相手にそれを改善してほしいと要求すること。
「怒りをぶつければ溜飲は下がるけれど、現実的な問題は何も解決しません。現状を改善してほしいと思うなら、なるべく穏やかに話したほうが相手も受け入れやすいはずです。一つのやり方として、問題が解決したときの未来の自分をイメージし、そこから過去を振り返るようにして現在の自分を見てみるんです。そうするといくつか選択肢が見えてくるので、それを検証するといいでしょう。心理学ではメンタルタイムトラベルと言います。人は過去だけでなく未来にも心を馳せることができるので、それをうまく使ってみるのも方法です」
クレームをつけることを最初から避けてしまう人たちはけっこう多い。
「クレームをためらう人は、言ってしまったことで悪く思われないだろうかとあれこれ悩むより、言わないほうがマシって思っているんですよね。そういう人はクレームを言うこと自体がストレスになるのでしょう。言わないマイナスよりも言うことによるマイナスのほうが大きければ、そこはあまり無理しなくてもいいと僕は思います」
ただ、主張をきちんと相手に伝えられれば、解決策も見つかるし、より関係性を深めるきっかけにもなります。
「クレームも謝罪も円滑なコミュニケーションのためのスキルです。やればやっただけ上達しますよ」
ヘルパーさんとの関係をもう一度築き直すしかないと思うんです。そのためにはお互いが話しやすい場を作ることですよね。ヘルパーさんの仕事が終わったら「いつもありがとうございます」と声をかけて、感謝の気持ちをまず伝える。それから、「私の勝手なお願いとして聞いていただきたいのですが」という感じで話を切り出して、手際よくやってくれている仕事ぶりに感謝した上で、お母様の介護に関するこちらの要望を申し述べれば、スムーズに聞いてもらえると思います。
今後、ヘルパーさんがあまり手を出さずにお母様を見守ることで、これまでやってきたことが時間内にできなくなってしまっても構わない、ということを明確にしておけばヘルパーさんも安心です。これからも介護をお願いするわけですから、「何か思うことがあったらいつでも言ってください」と一言添えて、お互いの関係性が対等であることを確認しておきたいですね。そうすればグッドパートナーとして、いつでも風通しよく、お母様のことを相談ができるような関係を築けると思います。
感情的にならず、家族がスマホに夢中になっている現状に、自分が何を感じていて、家族にどうしてほしいのかを伝えることが先決です。「ずっとスマホばかり見られてると、無視されているみたいで寂しいんだよね」って素直に話せば、「お母さん、そんなこと思っていたんだ」って、子どもたちもちょっと悪いことしたなって思うんじゃないでしょうか。家族同士って毎日顔を合わせている慣れと甘えのようなものがあって、何も言わなくても察してもらえると思っているところがあるけれど、それは勝手な幻想であって、言葉にしないと通じません。夫に対してはことに強く当たってしまいますよね。
そういうときは何が不満かを紙に書き出したり、友だちに5分間だけ愚痴を聞いてもらうのも有効です。自分の気持ちを整理できるし、「うちはこうしているよ」って友だちからアドバイスがもらえるかも。まずは自分の気持ちを順序立てて整理することが大切ですね。その上でごはんのときだけはスマホをテーブルに置いて、手にしないとか“ゆるルール”を作ってもいいですよね。
ひでしま・ふみか●1975年、神奈川県生まれ。ハスキーな声と温かいトークが人気。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)。
「旅先での1回だけのクレームなら、怒りをぶちまければ気が済むかもしれないし、ビジネスの場でこちらがクレームを受けたらただ謝るしかないですが、日常のなかでの一方的なやり方は人間関係にヒビが入りかねません。クレームでも謝罪でも今後もつきあいたい相手なら、互いに何を求めているかを明確にし、落としどころを探るしかない。それには正しいスキルが必要です」(川合伸幸さん)
2回にわたってお届けしてきたセンスある、お詫びとクレームについて。いかがでしたでしょうか?ここでご紹介した適切な“始末のつけ方”をぜひご活用ください!
かわい・のぶゆき●1966年、京都府生まれ。日本学士院・学術奨励賞など受賞。主な著書に『怒りを鎮める うまく謝る』(講談社現代新書)など。
大人だから一通りの礼儀作法はわきまえている。
けれど、年を重ねるほどに身に染みるのは、教科書どおりのマナーやマニュアルだけでは人間関係はうまくまわっていかないということ。
たぶん、大事なのは思いやりの心と柔軟な精神。自分も相手も、ともに機嫌よく過ごしたいなら、これまでの決まりごとにとらわれず、マナーや常識もバージョンアップさせていこう。
無用な軋轢のない、快適な関係を築くための、新しい考え方のヒントを集めました。
クロワッサン No. 1007
大人のマナー新常識。
・定価:550円 (税込)
・発売:2019.10.10
・ジャンル:実用
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