クロワッサン 大人のマナー新常識。 わだかまりを残さず、すっきり。センスある、お詫びとクレームとは。 『謝罪編』 監修_川合伸幸 / 撮影_黒川ひろみ(川合さん) / イラストレーション_ナカイミナ 編集_クロワッサン / 制作_マガジンハウス

人間関係を円滑にする大人のマナー新常識。マガジンハウス『クロワッサン』編集部が提案する素敵な大人のマナーを身につけて、無用な軋轢のない、快適な関係を築きましょう。

すでに配信された冠・婚・葬・祭それぞれのマナーに続きお送りするのは、センスある、お詫びとクレームについて。とかくこの世はままならない。謝らなければならないことや、どうしても譲れないことが発生する。せめてスマートに対処するには?

怒りや謝罪を心理学・認知科学の視点から研究している川合伸幸さんが教えてくれる適切な“始末のつけ方”を学びましょう。

前編となる今回は、『謝罪編』です!       

ポイント1 謝るときは相手の立場に立つ。自分目線の説明は言い訳になる。

謝罪は本当に難しいもの。心のこもっていない謝罪は相手にすぐわかってしまう。「いま文句を言ってきている相手がどうしてほしいのかを汲み取ること。相手の気持ちに寄り添って、それを解消するためにどうすればよいかを考えられるかが鍵になります。ただ謝るのではなく、相手の立場に立って説明し、解決策を提案する。そうすればたいていは相手に納得してもらえるはずです」

ポイント2 言い訳する謝罪に反省は見えない。あくまでも客観的事実を説明する。

公的謝罪がなぜ謝っているように聞こえないかという研究によれば、「悪い謝罪」には下記の4つの要素のいずれかが含まれているという。「大概の人は事情を説明しなければと思うあまり、言い訳になってしまうのです。自分の事情を説明しがちですが、グッとこらえて客観的事実のみを説明することがポイントになります。謝罪でやってはいけない4つ、正当化、逆ギレ、弁解、矮小化を日ごろから意識していれば、思わぬ地雷を踏まずに済むはずです」

悪い謝罪の4要素。誠意はどこ? 正当化 自らの行動や発言を正当化 「気づかなくて」「知らなくて」 逆ギレ 相手を非難 「そこに置くから壊してしまった」 弁解 言い訳をする「電車が遅れたので」 矮小化 自体を小さく見せようとする 「冗談のつもりだった」

ポイント3 8つの要素を多く含むほど、誠意が伝わり、相手もスッキリ。

よい謝罪とは“包括的で意を尽くした謝罪”で、下記の8カ条のいくつかを含むもの。「特に核となる要素は、自責の念を表出する“悔恨”、責任を自覚する“責任”、解決策の具体的な提案をする“補償(の申し出)”の3つで、残る5つもなるべく多く盛り込むことが望ましいと考えられています。そうすれば、怒らせている相手とコミュニケーションをとりやすくなり、謝罪で最も大切な『誠実さ』を認められ、許しを得られる可能性が高くなります。謝罪とは相手がすっきり納得できる道筋を示すプレゼンテーションでもあるのです」

反省を表す、よい謝罪の8カ条。 悔恨 自責の念を示す 責任 責任を自覚していることを示す 補償 解決策を具体的に提案、補償 説明 このような事態に至った経緯の説明 改善 今後は適切にふるまうと改善を誓う 労り 相手を不快にさせたことを労る 認識 自分の行為が不適切であったと示す 懇願 許しを請う
CASE「謝罪編」 家に大勢のお客さんが来るので、刺身の盛り合わせを魚屋さんに頼むことにしましたが、大皿が足りず、近所に住む知人に頼んで大皿を借りました。ところが魚屋さんがそのお皿のふちを欠けさせてしまったのです。「刺身代はタダにします」と謝られ、それはそれとして受け入れました。しかし、知人には私から話をしなくてはと思い、「すみません、実は借りていたお皿、魚屋さんが傷をつけてしまったんです。どこで買ったか教えてもらえませんか。弁償したいので」と電話をしたところ、「あれは祖母からもらったもので、どこで買ったか、いくらしたかはわからない」と。「どうしたら許してもらえますか?おいくらぐらいお渡ししたらいいでしょう」と聞き返したところ、「許すもなにも、お皿なんて割れるものなんだから仕方ありませんよ。ただ、お皿がどんな状態になっているか、ちゃんと見せに来てもらってから謝ってほしかったです」と、きつい口調で言われてしまいました。

叱責されても電話で一報したのは正解。対面して、思いを受け止めましょう。

回答者 秀島史香さん ラジオパーソナリティ、ナレーター

知人の方が祖母から譲り受けたお皿を傷つけられて残念に思う気持ちを受け止めて、その失意にどう寄り添えるかが、謝罪の最大のポイントだと思うんです。電話でやり場のない怒りがきつい口調に出てしまったとしても、それは仕方のないこと。謝罪の順序として、お皿の欠けたことを知ったあなたがすぐに電話で一報して、詫びたのは正しかったと思います。次に重要なのは改めて知人宅を訪ね、きちんと謝罪することです。「お皿を持ってお詫びに伺いますので、ご都合をお教えください」と、ここからが現実的な謝罪の始まりですよね。

お宅に伺ったら、まずは「大切なものをお借りしたのに、誠に申し訳ございませんでした。お祖母様がとても大切にされていたんですね」などと話を向けて、その話に耳をしっかり傾けながら、ガッカリしている相手の気持ちに誠実に向き合いましょう。非は全面的にこちらにあるので、相手の憤りを受け止めてから、和解の方法を相談するべきです。

ひでしま・ふみか●1975年、神奈川県生まれ。ハスキーな声と温かいトークが人気。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)。

『謝罪編』はいかがでしたでしょうか?お詫びとクレームは常に表裏一体です。

「クレーム、つまり怒りはコミュニケーションを阻害する要因になり、いかに怒りを鎮めるかが重要になります。逆に誰かを怒らせたら謝罪するわけですが、ちゃんとすれば効果はあっても、往々にしてみなさん、『ごめんなさい』と言えば済むものだと思っている節があります。そこが問題なんです」(川合伸幸さん)

常に相手の立場で考えて、適切な“始末のつけ方”を学びましょう。
後編となる次回は「クレーム」編をお届けします!



初出 『クロワッサン』 No.1007・2019年10月10日発売

名古屋大学大学院情報科学研究科教授

川合伸幸さん

かわい・のぶゆき●1966年、京都府生まれ。日本学士院・学術奨励賞など受賞。主な著書に『怒りを鎮める うまく謝る』(講談社現代新書)など。

Information

大人だから一通りの礼儀作法はわきまえている。
けれど、年を重ねるほどに身に染みるのは、教科書どおりのマナーやマニュアルだけでは人間関係はうまくまわっていかないということ。
たぶん、大事なのは思いやりの心と柔軟な精神。自分も相手も、ともに機嫌よく過ごしたいなら、これまでの決まりごとにとらわれず、マナーや常識もバージョンアップさせていこう。
無用な軋轢のない、快適な関係を築くための、新しい考え方のヒントを集めました。

クロワッサン No. 1007
大人のマナー新常識。

・定価:550円 (税込)
・発売:2019.10.10
・ジャンル:実用

https://croissant-online.jp/