困難な時代だからこそ“愛”を 『引き寄せの法則がいい人生を運んでくれる』 悔いなく生きる、そのために ~ 歌舞伎俳優 片岡愛之助さん ~ 取材_梅原加奈 撮影_関竜太 ヘアメイク_青木満寿子、山崎潤子 スタイリスト_九(Yolken) 制作_マガジンハウス

昨年、大河ドラマ『麒麟がくる』の今川義元役や『半沢直樹』で強烈なインパクトを残す宿敵役・黒崎駿一を演じるなどお茶の間で人気を集めた片岡愛之助さん。その一方、コロナ禍で歌舞伎座をはじめすべての歌舞伎公演が中止・延期に。混乱の世相のなかで、ひとりの歌舞伎俳優として感じたこととは?子役としてデビューし、演じる仕事を愛し続けて突き進む愛之助さんのこれまでの、そしてこれからの人生の選び方についてお話を伺いました。

身に染みて、ありがたさを感じたこと

—昨年は未曾有の年でドラマ撮影や歌舞伎の舞台の公演中止など愛之助さんの活動にも大きな影響があったのではないでしょうか。

「まさに世界中の誰もが体験したことのない年でしたね。当たり前だと思っていた舞台に立つことがこんなにありがたいことなのかと身に染みて感じました。歌舞伎の舞台は、お休みの間にみんなで考えて感染対策を徹底しました。客席数は半分以下に。通常は、昼夜二部制もしくは三部制のところを異例の四部制で出演者・スタッフを完全入れ替えにする試みもしました。これをお客さまがどの程度受け入れてくれて、劇場まで足を運んでくださるか、とても心配でした」

Profile

片岡愛之助さん

1972年、大阪生まれ。5歳で松竹芸能の子役オーディションを受け、テレビドラマや舞台などに出演。1981年、南座「勧進帳」の太刀持で片岡千代丸を名のり歌舞伎初舞台。1992年、六代目として片岡愛之助を襲名。歌舞伎の次代を担う立役となる。歌舞伎のほか、映画、ドラマ、現代舞台などでも活躍を広げる。

Special Interview AINOSUKE KATAOKA

思わず、涙がこぼれそうになった

「私は、公演再開後、初の舞台で第一部『連獅子』に出演していました。誰よりも先に舞台に上がる役柄だったんです。だから、とてもドキドキで(笑)。緞帳があがると同時に聞こえてきたのは、お客さまからのものすごい拍手の音。それがいつまでも鳴り止まないんです。客席数は半分以下のはずなのに、いつもの3倍くらいの大きさに思える拍手による熱い声援を感じて。演じながら、涙がこぼれそうになりました。ああ、再開してよかったとそこで本当に実感しましたね」

黒崎が愛される役になってよかった

ー歌舞伎俳優である片岡愛之助さんの存在が広く世間に知られるようになったのは、ドラマ『半沢直樹』で主人公・半沢直樹にときとして敵対し、ときとしてよき協力者となるライバル、黒崎役で演じた独特のキャラクター。7年ぶりの続編も前作を超えるヒット作となりました。

「はい。これもまたみなさんが黒崎を応援してくださったおかげです。愛される役になってよかったです。ただのイヤみな奴と思われたまま終わったらどうしようと思っていましたから(笑)」

Special Interview AINOSUKE KATAOKA

『半沢直樹』が与えてくれた大きなこと

「前作の『半沢直樹』で世間のみなさんが“黒崎”を演じている人として私のことを認識してくれた。これがまさに私が映像作品を通してやりたかったことなんです。私のブログでは、“黒崎さん”宛にメッセージをいただくことがあるんですよ(笑)。黒崎さんは歌舞伎もやっているんですね、黒崎さんが出ている歌舞伎を見てみたい、と。そうやって、ドラマを通して今まで歌舞伎に接点がなかった方々に知っていただくことができた。シンプルにそのきっかけの存在になれたことがうれしいです。『半沢直樹』が私に与えてくれたことはとても大きなものでした」

8歳のとき、衝撃を受けた歌舞伎の舞台

—歌舞伎俳優としての道を歩んできた愛之助さん。その強い信念はどこから生まれているのでしょうか。

「私は、子役として歌舞伎の舞台に8歳ではじめて立ちました。そのとき、すごい衝撃を受けたんです。顔を白く塗っているのはバカ殿の志村けんさんしか知らなかったですから(笑)。男性が女性の役を演じる“女方”にもびっくりしたし、それ以外にもいろんな面白い役柄がある。舞台装置もせり上がりがあれば、宙乗りといって舞台・客席上を飛ぶこともある。それがまるでテーマパークのようで感動したんです」

Special Interview AINOSUKE KATAOKA

人の想いがあって、舞台に立てるということ

「その新鮮な楽しさが今もなお、ずっと続いている感覚です。そうやって気持ちを維持し続けられるのはひとえに周囲に恵まれているからだと思います。私が歌舞伎を好きでいることができる、環境を常に作っていただいた。私は、19歳で片岡秀太郎の養子となりました。それを即座の決断力で気持ち良く送り出してくれた実の両親には本当に感謝しています。いろんな人の想いがあって、自分は舞台に立てている。だからこそ、悔いなく生きなくてはと思いますね。その想いは年齢を重ねるごとに強くなります。命は尊いものだ、と」

夫婦で長生き、が今の夢です(笑)

夫婦で長生き、が今の夢です(笑)

—どう生きるかという意識は、結婚をしてパートナーを得たことで変わったことはありますか?

「そうですね。私は長年、仕事をするだけの人生でいいと考えていた。でも、それが妻と出会って、一緒に生きる道を選んだことで“長生きしないとな”と思うようになりました。今では、人間ドックに一緒に行っていますから(笑)。夫婦だけに限らず、親子、師弟、周囲の人との愛を大切にすること。それが大事だと考えています。愛を持って接することで、いい人生を引き寄せられる。私はそれを引き寄せの法則と呼んでいます。縁がある人同士はつながっていく。それが末長く続くように大事にしていきたいですね」