お金とはなにか?著者_池上彰 イラスト_白根ゆたんぽ 制作_マガジンハウス 日本のお金が「円」になるまで

世の中の不思議を、お金から考える。

池上彰さんの著書『14歳からのお金の話』からお届けしている連載企画「お金とは何か?」。2回目となる今回は、銀行がどのように誕生して、なぜ日本のお金が「円」になったのか? そもそもお金にはどんな役割があるかまで、池上さんがわかりやすく解説してくれます。“あぁ、お金ってそういうことだったのか!!”と世の中の不思議を紐解く名コラム。今回もお楽しみください!

1 銀行がお札を発行した

紙幣を発行している店が、銀行と呼ばれました。銀行は、金貨や銀貨を預かる代わりに紙幣を発行することになります。そこで、昔の紙幣には、「この紙幣を持ってくれば、いつでも紙幣に書いてある金額分の金と交換します」と書いてありました。これを「兌換券」(だかんけん)といいます。

人々は、「このお札を持っていれば、いつでも金に交換してもらえるんだ」と安心できるので、ただの「紙切れ」でも、お金だと考えて、お札を使うようになったのです。つまり、「このお札を持っていれば、いつでも金と交換してもらえる」という信用があったから、お金として使えたのですね。

全国各地にお金持ちの両替商がいましたから、各地に銀行が誕生し、それぞれがお札を発行していました。ところが、なかには悪いことを考える銀行が出てきました。持っている金の量が少ないのに、勝手に大量のお札を発行したのです。こうなると、その銀行が発行するお札が大量に出回るようになります。お札があまり大量に出回ると、心配になった人が、お札を銀行に持ち込み、金と交換しようとします。

でも、銀行が持っている金では足りません。お札を金と交換できなくなる、ということが起きたのです。これではお札に対する信用が失われます。そこで、お札を発行できるのは、信用できる一つの銀行だけにしようということになりました。それが、1882(明治15)年に誕生した日本銀行です。

2 金と交換できなくなった

日本銀行が発行した紙幣を持っていれば、いつでも金と交換してもらえる。みんながそう思っていましたから、日本銀行発行の紙幣(つまり日本のお金)をみんなが信用して、日本国内ならどこでも通用しました。

ところが、やがて問題が起きるようになりました。経済が発展すると、紙幣の量が限られていることで、それ以上、経済が発展しなくなってしまうのです。経済が発展するということは、私たちが働いて、みんなが欲しがる商品をたくさん生産し、売買することです。商品がたくさん生産されれば、売買に必要な紙幣も増えてきます。

ところが、日本銀行は、持っている金の量しか紙幣を発行できませんね。これを「金本位制」というのですが、紙幣を必要としている人や会社に十分な紙幣がないという問題が起きるようになるのです。

では、どうしたらいいのか。「必ず金と交換します」という約束をやめてしまえば、日本銀行は必要なだけ紙幣を発行できますね。1931(昭和6)年、日本銀行は、「金本位制」をやめてしまったのです。ですから、いまでは私たちが持っている紙幣を日本銀行に持っていっても、金と交換してもらえません。日本銀行発行の紙幣は、「ただの紙」になってしまったのです。でも、みんなが「日本銀行発行の紙幣はお金だ」と信用しているので、お金として通用しているのです。

3 日本のお金は「円」になった

私たちが使っている日本のお金は「円」ですね。これが決められたのは、1871(明治4)年5月のこと。「日本のお金は円という名前にする」という法律ができたのです。

日本のお金の名前については、最初は、中国と同じ「元」という名にするはずだったようですが、なぜか「円」に決まりました。その理由については、いろいろな説があります。当時、日本のお金を製造する機械は香港から輸入したのですが、香港でお金の単位に「圓」(円の昔の字)が使われていたので、これを使ったのではないかとか、お金のことを親指と人差し指で丸い輪を描いて示すので、丸を意味する円になったとか、さまざまです。

当時は、円の下に銭、その下に厘という単位もありました。100銭で1円でした。1ドルは100セントだったので、発音の似ている「銭」が選ばれたと言われています。いまでは円より下の単位はありませんが、「1ドルいくら」という両替のときなど、計算上、「銭」を使うことがあります。

日本のお金の単位を決める担当だった大隈重信は、いまの早稲田大学の創立者です。その大隈重信の顔は紙幣に採用されていませんが、早稲田大学のライバルの慶應義塾大学の創立者の福沢諭吉は1万円札の顔になっています。なんだか不思議ですね。

実は、大隈重信は政治家。政治家の顔を紙幣に使うわけにはいかないだろうという考えが定着して、教育家・思想家として知られた福沢諭吉が選ばれたようです。

4 ニセ札対策は大変だ

お札(紙幣)はみんなが「お金」だという信用を持って使っていますから、その信用が失われたら、大変です。もし、あなたが持っているお札がニセ札だったら困りますよね。私たちは、ふだんニセ札のことを考えずにお金を使っています。ニセ札がつくられないように、製造に工夫があるのです。

あなたが持っている1000円札を手にとってみてください。お札に描かれているのは、野口英世ですね。5000円札は女性の樋ロー葉ですが、お札の顔になるのは、年配の男性が多いですね。これは、顔にシワがあったり、ヒゲがあったりするほうが、ニセ札をつくりにくいからなのです。樋口一葉は若くして亡くなりましたから、顔にシワがありません。このため、ニセ札をつくりにくくするために、とても苦労したそうです。1000円札の真ん中に何も印刷していないような空白がありますが、ここに「透かし」があります。紙に特殊な圧力をかけて、透かすと野口英世の顔が見えるようにしているのです。

このほか、紙を動かすと、「千円」と「1000」が入替わったりします。また、虫眼鏡で見ないとわからないような、とても小さな文字も印刷されています。もし悪いことを考えた人がコピーすると、この小さな文字はつぶれて見えなくなってしまうのです。これ以外にも、印刷のインクに磁気が入っていたりして、私たちが知らない工夫もあるのです。

ニセ札をつくったり使ったりすると、とても重い罪になります。経済が大混乱するからです。ニセ札づくりは、国家にとっての重大犯罪なのです。

著者

池上 彰
(いけがみ・あきら)

1950年長野県松本市生まれ。1973年にNHKに入局し、2005年まで報道記者としてさまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題等を担当。1994年から11年間は「週刊こどもニュース」のお父さん役としても活躍した。現在は、フリーのジャーナリストとして各メディアで活躍。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授ほか。『14歳からの政治入門』(マガジンハウス)など著作多数。

Information

お金の成り立ちからはじまって、貯蓄と投資の違い/会社はだれのもの/景気をよくするには/年金とは/環境を守るにも経済の考え方が必要・・・。と、現代のお金とそれにまつわる社会問題を、幅広く紹介。新聞を読むために絶対必要な知識が、わかりやすくスラスラ身につきます。

・ページ数:168頁
・ISBN:9784838716548
・定価:1,430円 (税込)
・発売:2008.04.24
・ジャンル:実用

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