精神の探究で最終的に行き着く場所とは?『人生で最も大事なことは愛である』子どもたちに伝えたい藤岡家の心 ~俳優 藤岡弘、さん~ 取材_オオサワ系 撮影_新妻誠一 ヘアメイク_杉本妙子 スタイリスト_伊藤まな美 制作_マガジンハウス

仮面ライダー1号での本郷猛や「藤岡弘、探検隊」での隊長など、“正義のヒーロー”という印象が強い藤岡弘、さん。そのイメージだけにとどまらず、幼少のころより武道の心得がある一方で、腕に自信があっても無益な闘いはせず、さらにはボランティア活動にも積極的に取り組む。「強きをくじき弱きを助ける」その姿は、まさにリアル版、正義のヒーロー。そんな藤岡さんに、ご両親から学んだこと、また子どもたちに伝えたいこと、さらには今後の夢について語っていただきました。

4人の子ども、一人ひとりの声にしっかりと耳を傾ける

ー最近はテレビをはじめ、ご家族で出演されることが多いですね。以前の“男、藤岡弘、”というイメージから、“父、藤岡弘、”に変化した印象があります。

「子どもの成長とともに自己管理欲も高まりまして、その延長で物事をよく見極めよく考えて行動するというか、無謀なことをしなくなりました。私は何事も実体験で乗り越えてきた人間ですが、大分注意深くなりましたね。子どもの力ってすごいです(笑)。最近食事をするときに、私の過去の出演作品を子どもたちが見て、あれはどうやって撮ったのか、どこで撮影をしたのかなど聞いてくるので、それを一つずつ教えてあげてます。私の過去や出演した作品に興味や関心を持ってもらえることは素直に嬉しいですね」

Profile

藤岡弘、さん

1946年2月19日生まれ。松竹映画『アンコ椿は恋の花』でデビュー。1971年、特撮テレビドラマ『仮面ライダー』に、主人公・本郷猛 / 仮面ライダー1号役で出演。これが大ヒットし一躍人気俳優となる。俳優業を中心とした芸能活動は、今年55周年を迎えた。6歳から一子相伝で藤岡流古武道を父から習い、世界で真剣斬り演武を行う武道家でもある。昔から国内外での現地を訪問するボランティアにもライフワークの一貫として積極的に取り組んでいる。

Special Interview HIROSHI FUJIOKA

映画を見て夢が膨らみ役者の道へ

ーお芝居をしたいと思ったきっかけについて教えてください。

「当時の唯一の娯楽が映画館で映画を見ることでした。日本映画のみならず、アメリカやフランスの作品も上映していて。毎週土曜日夕方から映画館に行って映画を4本見て翌朝に帰ってくるっていう生活をしていたのですが、それがすごく楽しかったんです。国内外のさまざまな映画からあらゆる影響を受けて、その都度、夢が膨らんでいきまして、それで映像の世界に行きたい、もっと視野を広げたい、演じたいという気持ちが高まりました」

ボランティアとは思っていなかった『おもてなしの文化』

ーボランティアをはじめたきっかけについても教えてください。

「育った環境の影響というか、ごく自然の流れではじまったというか。私は四国八十八ヶ所霊場の、第四十四番の札所である大寶寺というお寺の近くで生まれたのですが、そこにはつねに『おもてなしの文化』がありまして。旅人や困った人がいれば、率先してもてなすということが、そこでは当たり前になされていたんです。だから最初はそれがボランティアということ自体知らなかったくらい(笑)。そういった意味では、幼少期から藤岡弘、という人間の核の部分は自然にできあがっていたのかもしれないですね」

Special Interview HIROSHI FUJIOKA

過酷な日常に勝った東京での刺激的な毎日

ー俳優をめざしていざ上京をしたものの、最初は大変だった?

「アルバイトをしながら大学へ行って、映像業界への夢を追うなんて甘かったです(笑)。その日食べるだけで精一杯の日々。日本は戦後、発展途上の真最中で、道路や地下鉄の工事など、あらゆるアルバイトを数多く経験しました。大変でしたが、その反面、刺激に溢れた毎日でした。辛さより、自分の知らない世界を知るという感動の方が大きかったんです。苦しい環境にあったからこそ『ここでもっと自分を磨こう』『挑戦しよう』『学ぼう』という気持ちが強まりました。」

壁にぶつかったときに芽生える武士道精神

壁にぶつかったときに芽生える武士道精神

ー『仮面ライダー』では生死の境を彷徨うほどの大怪我をされましたが、辞めたいと思ったことはないのですか?

「父からは逃げるな、負けるな、屈するな、あきらめるなと教わったので、それは無かったです。すべての教えはまさに惻隠の情と言うか武士道精神の流れです。世界各地でのボランティアや、テレビでの企画『藤岡弘、探検隊』(2002年~2005年)で隊員を引き連れて南米やアフリカを回った際には、命を落としそうな危機が何度もありました。世界のあらゆる修羅場を命懸けで実際に体験すると人生観、価値観も変わり、でもそういうときこそ逆に燃えてくるんですよね。武士道精神で培った決意、決断、覚悟、信念というものが甦ります」

Special Interview HIROSHI FUJIOKA

人生で最も大切なものは『愛』

ー生きるうえでモチべーションになっていることは?

「世界100ヵ国近く、生死をさまようような旅をして思ったのは、人間は『愛』がすべてということです。愛を中心に感謝と尊敬、それに勇気と感動、そして夢があると。旅を介して精神の探究をしてきましたが、それが愛を発見するための旅であったと、後で気付きました。世界のあらゆる現実を目の当たりにしてからは、俳優なんて世界のなかのほんの一部なんだなと思えて。俳優である前に人間としてもっと視野を広めなきゃいけない。実践のなかで己を磨き備える知識と情報を持ち、そのために何事も愛とおもいやりを持って接しなければ何も生まれないということを学びました」

夢は藤岡家で培った愛を紡いでいくこと

夢は藤岡家で培った愛を紡いでいくこと

ー『仮面ライダー』を筆頭に、これまでさまざまな作品を通じて、ファンに夢を与えてきましたが、ご自身が抱く今後の夢は?

「夢は大きくいうと二つあります。一つは愛の伝承ですね。連綿とつないでくれた多くの先祖がいて、現在の自分が存在することを奇跡とも感じています。私は両親から人の役に立ちなさいと言われて育てられてきましたが、それを実践する姿と、その背中には圧倒されるものがありました。今は自分が4人の子どもを育てる環境にあるなかで、自分自身も子どもたちに対してそういった存在でなければならないと思っています。血のつながった人から愛されたという確かな記憶。これは自分の子どもたちにも残さなければいけません。その子どもたちが今度、自分の子どもやその子どもへと受け継いで、愛が広がっていくことが夢ですね。もう一つは、映画製作の夢です。子どもたちと一生の想い出に残る映画をつくり、親子で共演する夢。それは、日本の伝統や世界に共通する道徳を内包する武士道精神を体現するような映画です。時代劇という枠にとらわれない、新しい視点のものでもいい。そんな愛と感動を世界の人々に届けたいです」