お金とはなにか?著者_池上彰 イラスト_白根ゆたんぽ 制作_マガジンハウス お金って、そういうことだったのか!!

世の中の不思議を、お金から考える。

お金は、なぜお金なのでしょうか。考えたことはありませんか。例えばあなたが持っている1000円札。「千円」と書いてあるから1000円なのですが、よく見ると、ただの紙切れです。あなたが勝手に「千円」と書いた紙を作っても、それはお金にはなりません。それが、「日本銀行券」と印刷してあると、みんながお金として使うのです。不思議ですね。

あなたがお金を使うことで、商品を売った人や商品を作った会社にお金が入ります。お金があることで、商品が世の中を回っていきます。その結果、豊かになる人がいれば、ちっとも豊かになれない人もいます。これも不思議ですね。この連載では、そんな世の中の不思議を、お金から考えていきましょう。

1 最初は、物々交換だった

まずは、世の中にお金がなかった時代のことを考えてみましょう。大昔、人々は物々交換で暮らしていたということは、あなたも知っていますね。

例えば、あなたが海辺に住む漁師だとしましょう。いつも魚を食べていますが、たまには野菜や果物、それに肉も食べたくなります。そんなときは、野菜や果物、肉を持っている人のところに行って、あなたが持っている魚と交換すればいいですね。でも、この物々交換というのは、なかなかむずかしいのです。あなたが野菜や果物、肉を欲しいと思っても、あなたの魚を欲しいと思う人がいるとは限らないからです。

つまり、「魚を持っていて肉が欲しい人」と、「肉を持っていて魚が欲しい人」が出会うことで、物々交換は成立します。あなたが、「肉を持っていて魚が欲しい人」に出会うまで魚を持って歩き回っていたら、魚が腐ってしまうかもしれません。

そんなとき、あなたなら、どうしますか。そう、物々交換したいと思っている人たちが、一か所に集まればいいですね。みんながいろいろな食べ物などを持って広場に集まり、そこで交換すればいいのです。みんなが広場に集まることで、市場が誕生しました。最初は、毎日集まるのが大変だったので、4のつく日や5のつく日に集まるようにしました。そこがやがて、「四日市」や「五日市」という名前の町になりました。

2 交換の仲立ちが生まれた

さて、あなたは肉が欲しいと思って市場にやってきました。魚を持っています。「肉と魚を交換したい人はいませんか」と声をかけました。すると、魚を欲しいという人はいるのですが、肉を持っていません。どうしましょうか。

市場に集まっても、魚と肉の物々交換は、やっぱりむずかしいのです。そんなときは、「魚が欲しい」という人が持っている物と交換しておく、という方法があります。どうせ交換するなら、みんなが欲しがる物と交換しておくと有利ですね。肉を持っている人に会ったときに、あなたが交換した物と肉を交換できる可能性が高くなるからです。

みんなが欲しがる物とは、なんでしょうか。日本の場合、それは稲や布だったのです。稲ならお米が食べられます。布なら着る服が作れます。とりあえず、価値のある稲や布に換えておく、という人が多かったのです。市場で稲や布を持って、自分の欲しい物を探す人が増えました。

大昔、日本では稲のことを「ネ」と呼んでいました。交換するときに、「この肉は、どのくらいのネと交換できるかな」と言い合っているうちに、物の値打ちのことを「ネ」と呼ぶようになりました。こうして「値」(値段)という言葉が生まれました。また、お札の紙幣の「幣」とは、布のことです。昔、物々交換の仲立ちをしていた物が、お金に関係する名前として残っているのですね。

3 仲立ちは、長持ちする物がいい

さて、あなたは市場で魚を稲に換えました。その稲で、肉と交換することができました。めでたし、めでたし。

すると、肉と交換した人が追いかけてきて、文句を言います。「この稲、すっかり傷んでいるぞ。これじゃあ、肉と交換できないな」だって。みんな市場で稲に交換して持ち歩いているうちに、稲が傷んでしまったのですね。稲の代わりに布を持ち歩いていた人も、「布が汚れてしまった」となげいています。どうやら、仲立ち する物は、長持ちする物がいいようです。

大昔の中国では、きれいな貝が、物々交換の仲立ちとして使われました。きれいで珍しいので、みんなが交換することにOKしたのです。お金の始まりですね。その証拠が、いまも私たちの言葉に残っています。お金に関する漢字には、貝が使われているものが多いのです。財、買、貯、貴、資、貧……。

私たちが使っている漢字は、中国からの輸入品。中国で貝をお金として使っていたことが、これでわかります。でも、みんながずっと仲立ちとして使うなら、もっと丈夫な物がいいですね。こうして、金や銀、銅などの金属が使われるようになったのです。金銀銅は、みんなきれいだし、丈夫だし、熱を加えればすぐに溶けて、貨幣に加工しやすかったからです。

4 持ち歩きには便利なの物を

こうして金貨や銀貨、銅貨が誕生しました。これを持っていれば、いつでも欲しい物と交換できるのですから、とても便利です。人類の最大の発明の一つかもしれません。金貨や銀貨を欲しい物と交換することを、「買う」と表現するようになりました。これは大事なことですから、覚えておいてくださいね。買うとは、交換のことなのです。

昔の人は、金貨や銀貨を持ち歩くことになったのですが、やがて困ったことが起きます。金貨や銀貨は大量に持ち歩こうとすれば、重くてかさばるし、ジャラジャラ音がして、「お金をたくさん持っていますよ」ということがわかってしまいます。遠くまで買い物に行くと強盗にねらわれる危険性もあります。

そこで、「金貨や銀貨を預かってもらおう」ということになります。大金持ちの人の家に行って金貨を預けるのです。その人に、「確かに金貨を預かりました」と書いた「書き付け」(預かり証)を出してもらいます。これは紙ですから、たたんでしまっておけます。

買い物するときは、金貨の代わりに、この預かり証を出して商品を受け取ることができます。預かり証を受け取った人は、預かり証を出したお金持ちの店に行けば、いつでも金貨と交換してもらえます。

こうして、紙幣が生まれました。金貨を預かり、預かり証を出してくれるお金持ちは「両替商」と呼ばれましたが、明治時代になって銀行に発展します。

著者

池上 彰
(いけがみ・あきら)

1950年長野県松本市生まれ。1973年にNHKに入局し、2005年まで報道記者としてさまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題等を担当。1994年から11年間は「週刊こどもニュース」のお父さん役としても活躍した。現在は、フリーのジャーナリストとして各メディアで活躍。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授ほか。『14歳からの政治入門』(マガジンハウス)など著作多数。

Information

お金の成り立ちからはじまって、貯蓄と投資の違い/会社はだれのもの/景気をよくするには/年金とは/環境を守るにも経済の考え方が必要・・・。と、現代のお金とそれにまつわる社会問題を、幅広く紹介。新聞を読むために絶対必要な知識が、わかりやすくスラスラ身につきます。

・ページ数:168頁
・ISBN:9784838716548
・定価:1,430円 (税込)
・発売:2008.04.24
・ジャンル:実用

https://magazineworld.jp/books/paper/1654/

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