ストレスフルな日常を生きる人たちへ 『がまん、できてますか?』やりたいのは、“身につまされる笑い” ~脚本家 宮藤官九郎さん~ 取材_岸良ゆか 撮影_赤澤昂宥 スタイリスト_チヨ(コラソン) 制作_マガジンハウス

大河ドラマという大仕事を終えたばかりの脚本家・宮藤官九郎さん。休む暇もなくいま取り組んでいるのは、自身が作・演出を手がける舞台『ウーマンリブ』シリーズの新作です。5年ぶり14回目の上演となる本作のタイトルは「もうがまんできない」、テーマは“現代人が日常で抱えるストレス”。現代を生きる私たちが抱えるストレスとはなんなのか、それを舞台でどう描くのか。そして、宮藤さんの“日常”についてもお話を伺いました。

ノンストップのワンシチュエーション群像劇

とある街の、雑居ビルの屋上。不倫相手へのサプライズケーキを持ち、ホームパーティーが開かれている部屋へ入るタイミングを窺う間男と、その近くでネタ合わせをはじめる解散寸前の売れないお笑いコンビ。そこに、デリヘルの店長と、仕事に行きたくないデリヘル嬢が現れ──と、執筆中だという新作の導入部分を説明してくれた宮藤さん。『もうがまんできない』は、同じ空間にたまたま居合わせた人びとを描くワンシチュエーションコメディです。

Profile

宮藤官九郎さん

1970年、宮城県生まれ。1991年から日本を代表する劇団、大人計画に参加。舞台やテレビドラマの脚本を数多く手がけるほか、映画監督としても『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』などのヒット作を生み出す。俳優、ミュージシャン、ラジオパーソナリティなどとしてもマルチに活動する。

Special Interview KANKURO KUDO

いまの東京で見つけた“袖振り合う”人びと

偶然同じ場にいた他人が、お互いの距離感を測りながら繰り広げる2時間のドタバタ劇。その設定は、いまや都会ではおなじみとなった“ある光景”から着想を得たのだそう。

「街を歩いていたら、スマホを一心不乱に操作している群集がいたんです。よく観察すると、「ポケモンGO」(Pokémon GO)をやっている見知らぬ人たちの集団なんですよ。すごく違和感があった一方で、これ、芝居にできないかなと思いました。ポケモンが出現したことで、たまたま居合わせた人たち。そこから物語がはじまったらおもしろいんじゃないかと」

豪華キャストが表現する、現代人のストレス

レイドバトルに群がる『ポケGO』ユーザーのように、ビルの屋上に居合わせた人びと。見ず知らずの彼らに共通するのは“ストレス”です。

「阿部サダヲくんと平岩紙さん演じるカップルは、やめられない不倫関係にイライラしている。売れないお笑いコンビは、ネタ担当の柄本佑くんが、いつも気楽な相方の要潤さんにイライラしている。どの人もストレスがたまってイライラしているんだけど、これは芝居だけの話じゃなくて、俺もだし、みんなも同じなんじゃないか。生活していてそう感じる機会が増えました」

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なぜみんなイライラしているのか

自分がイライラしたり、人からイライラをぶつけられたり。「がまんできない」人が増えているのではないかというのが、宮藤さんの見立て。

「例えばファミレスに店員さんが足りてなくて、接客する側もされる側もストレスがたまったり。あるいは、ウェブサービスのパスワードが思い出せなくてイライラしたり。世の中の利便性や合理性を追求した結果、これまでになかったストレスの原因みたいなものが生まれてきている気がするんです」

人を傷つけることを恐れない

そんな“現代人が日常で抱えるストレス”を描いた本作は、それを見る者──ストレスを抱えた現代人に、なにをもたらしてくれるのでしょうか。

「“身につまされる笑い”ですかね。よく考えたら俺にもそういうところがあるな、という。最近のテレビドラマや映画を見ていると、視聴者の現実や社会問題を反映していないものが増えたなと感じます。医療ドラマがヒットするのも、自分たちに近いようで、実はそうでもない世界だからではないかと。ただ、傷つく事、傷つける事を恐れすぎるのも、いかがなものかと。今回の舞台では、みなさんの日常や社会と地続きの世界を見せるつもりです」

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宮藤官九郎の日常を切り取ったら……?

日常的なキャラクターによる、日常的なお芝居。そう言う宮藤さん自身の日常生活はどんな感じ?

「朝は娘と一緒に7時に起きて、家族3人で朝ごはんを食べます。『いだてん』の執筆時にランニングをはじめたので、娘が登校するくらいの時間に走り始めて。その後、9時くらいから18時くらいまで仕事。それから映画を見に行くか、銭湯へ行くか、まっすぐ家に帰るか。昔は夜型でしたが、徹夜してラストスパートをかける、みたいな仕事の仕方には無理があると『あまちゃん』のときに気づいて、それからは規則正しい生活を心がけてますね」

最後に残るのは、脚本家としての自分

すばらしい仕事の数々を支えるのは、規則正しい生活なのかもしれません。脚本家、映画監督、ミュージシャンとマルチな活動の先にどんな未来を思い描いているのか、最後に聞きました。

「どの活動も続けたいですが、最後に残るのは脚本家でしょうね。ネタを考えて書くという作業は、それこそ高校生、ラジオの「はがき職人」だったころからずっと続けていることだし、執筆はひとりで完結できる作業だし。近い未来の目標としては、シリーズもののドラマを書いてみたいです。キャラの立った登場人物たちを定点観測的に追いかけるような、シーズン2、シーズン3のある作品を50代で一つくれればいいなあと思ってます」

<新作情報>

もうがまんできない

【東京】2020年4月2日(木)〜5月3日(日)下北沢本多劇場
【大阪】2020年5月9日(土)〜5月21日(木)サンケイホールブリーゼ

作・演出:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、柄本佑、宮崎吐夢、荒川良々、平岩紙、少路勇介、中井千聖、宮藤官九郎、要潤、松尾スズキ
企画・製作:大人計画、(有)モチロン

宮藤官九郎が作・演出を手掛ける『ウーマンリブ』シリーズは、今やりたいことを自由に、ストレートに表現する大人計画の劇場公演。約5年ぶりとなる「もうがまんできない」をタイトルに、現代を生きるストレスを抱えた人々の群像劇を2時間ノンストップで描く。

公演詳細
http://otonakeikaku.jp/stage/2020/womens14/index.html#ticket