ひとりで生きること、誰かと生きること 『結婚してもしなくても幸せでいるために』 自分の思考が世界を創り出す ~女優 松雪泰子さん~ 取材_藤田佳奈美 撮影_柴田フミコ ヘアメイク_中野明海 スタイリスト_横尾早織 制作_マガジンハウス

“結婚が女性の幸せ”という概念は形骸化され、独身という生き方も人生の選択肢に加わり、幸せのあり方が多様化した昨今。シソンヌじろうさんの著書が原作の映画『甘いお酒でうがい』で、主人公の40代独身OL・川嶋佳子役を演じる松雪泰子さんは、「独身」、「既婚」どちらの時間も過ごしてきた佳子の“これからひとりで生きていくかもしれない人生”に松雪さんの人生を重ねながら、パートナー不在の人生における“悲哀”や“幸せ”について伺いました。

世界は自分の思考が顕在化して創られている

──松雪さんが演じた主人公の川嶋佳子は、もうすぐ50代に差し掛かる。このまま独身生活を歩むことも頭の片隅で意識している彼女はどこか後ろ暗い。松雪さんは彼女をどう捉えているのでしょうか。

「佳子はちょっとした瞬間に出てくる“どうせ私なんて”というネガティブな感情をたくさん持っていて、それに縛られている感じがします。ティッシュ配りの男性とすれ違う時、自分にだけ配ってもらえなかったシーンで彼女は落ち込むけど、あれは自分で自分を否定している瞬間。配っている人に他意はないかもしれない。彼女を演じて思うのは、自分を取り巻く世界は自分の思考が創り出しているということ。思考をしっかり管理しないと、良くない想像が広がって、事実ではないところで傷ついてしまう」

Profile

松雪泰子さん

1972年11月28日生まれ、佐賀県出身。1991年『熱血!新入社員宣言』でドラマデビュー以降、テレビドラマ、映画、舞台に数多く出演。近作はテレビドラマ『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』『サイン-法医学者 柚木貴志の事件-』(2019年)、『半分、青い。』(2018年)など。

Special Interview YASUKO MATSUYUKI

毎朝思考をリセットしてフラットに整える

──“夜の海を見に行ってこの世に未練があるかどうかを確認する”佳子には自分と対峙するための独自の習慣がいくつもあります。松雪さんの場合は“瞑想”でした。

「毎朝1時間瞑想して、内省する時間を必ず持つようにしています。人って1日過ごしていくといろんな人と相対していろんな概念に触れてしまいます。だからどうしてもいろんな影響を受けてしまう。思考が飽和していると判断力が落ちてきますし、世界の広がりが止まってしまう。だから思考をリセットするのはとても大切だと思っています。できるだけストレスを自分で軽減していくという意味でも、いかに感情を手放し、フラットに戻すかが大事。例えば佳子のように海を見るというのでもいいと思います。人間の力が及ばない領域で圧倒的自然と対峙するからこそ見えてくる感情というものがありそうですよね。そういう意味では、視覚的に人工物が多い日常のなかより、自然のなかの方が思考がクリアになるのかもしれません」

守るべき存在の有無で思考が変化した

守るべき存在の有無で思考が変化した

──年齢を重ねることによって何かをあきらめた、あるいは手に入らないこともあると受け入れているように見える佳子。松雪さんの昔と今、思考の変遷は。

「若い時は思考が自分軸でした。まだどんどん経験していきたい欲求の方が強くて。でも子どもを産んで変わりました。鏡のように自分を見せつけられる瞬間が子どもを通して何度もあって。だから寛容にもなりましたし、忍耐力も無償の愛を知ったし、母としての強さを持ちえた。何があっても守らなくてはならない存在があるからこそ、地に足がついたというか。若いころに抱いていた不安や自分の弱さに蝕まれている場合じゃないって。

佳子にはそういう存在がいない分、自分の弱さに囚われやすいのかもしれませんね。でも子どもがいない人は、いる人と全く違う経験をしていけるということですから、どちらがいいということではないと思います。お互いそれは確かめようがない。だから自分の人生を謳歌するというのもひとつの選択肢と思っています」

佳子にはそういう存在がいない分、自分の弱さに囚われやすいのかもしれませんね。でも子どもがいない人は、いる人と全く違う経験をしていけるということですから、どちらがいいということではないと思います。お互いそれは確かめようがない。だから自分の人生を謳歌するというのもひとつの選択肢と思っています」

年齢を重ねるほど失うことを受け入れていく

──年齢を重ねるごとに思考だけでなく、体の変化も如実に感じていく。佳子が玄関の汚れを子どもの靴と見間違えて、産むのが難しくなることを悟るシーンがありました。松雪さんは出産を経験していますが、それでも自分の子をもてなくなる予感に心揺れる瞬間があるといいます。

「もう育めない人生なんだなって、覚悟をしなきゃいけないインパクトは強いですよね。選択肢として“子どもを産む”というカードを取り上げられてしまう。でも客観的に見ると、誰しもが通るところだからと思って腑に落ちる。年齢を重ねるということは、失っていくことを受け入れていくことになるんですよね。例えば若さもそうです。一つ一つ変化していく。悲しんでも仕方ないから、失ったら失ったで楽しむ。それをどう補うかを考える。変化を楽しむようにしています」

Special Interview YASUKO MATSUYUKI
Special Interview YASUKO MATSUYUKI

誰かと生きること、ひとりで生きること

──佳子のように独身で生きていく人生の“悲哀”と“幸せ”について、松雪さんが思うのは。

「独身=孤独でい続けなきゃいけないと思っているなら苦痛だと思います。誰にも受け入れられないんじゃないかと思い込んで悲観的になっているのなら。でも、何にも制限されることなく、依存関係もなく、きわめて自立していて、充実しているという生き方なのであれば、ひとりで生きることも幸せだと思います。つまり、自分でその人生を選んだという強い意志があれば、ひとりで生きようがふたりで生きようが、きっと幸せなはず。それに、たとえふたりで生きたとしても苦悩することはありますしね。結局は自分の中の問題なんです。だから人生の幸せはパートナーの有無にかかわらず成立することだと思っています」

健康を大切にして幸せを手にする土壌づくりを

健康を大切にして幸せを手にする土壌づくりを

──佳子の本質は変わらない。だけどどんどん佳子なりの幸せを手にしていく様子が劇中で描かれています。松雪さんが思う、幸せとは。

「幸せは健康な心身に宿る。幸せでいるために大切にすべきなのは健康だと思います。肉体を管理して健康であることが、健やかに生きるためには重要。本来の自分が輝くことを選択していくことが何より幸せだと思います。健康であるからこそ、いろんなことに挑戦して自分なりの幸せを模索できるのではないでしょうか」 ブラウス・スカート(TARA JARMON /タラ ジャーモン TEL. 03-3478-8088)
靴(chay collections by DIANA /ダイアナ原宿店 TEL. 03-3478-4001)
リング(talkative /トーカティブ 表参道 TEL. 03-6416-0559)

<新作情報>

©2019吉本興業

2020年4月公開

甘いお酒でうがい

監督:大九明子
原作・脚本:じろう(シソンヌ) 「甘いお酒でうがい」
出演:松雪泰子、黒木華、清水尋也 ほか
配給:吉本興業