孤独な時間があるから優しくなれる 『小さなことに喜びを見出せるようになった』 2年ぶりの主演作にかけた想い 〜 女優 柴咲コウさん 〜 取材_梅原加奈 撮影_関竜太 ヘアメイク_SAKURA(アルール) スタイリスト_岡本純子(アフェリア) 制作_マガジンハウス

2017年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』をはじめ数々の映画やドラマで活躍する柴咲コウさん。最近では、以前から精力的に取り組んでいる歌手活動に加え、サステナビリティを意識した食やアパレルのブランドを立ち上げるなど“女優”という枠を超えて活動の場を広げている。昨年には芸能活動20周年の記念の年を迎えたばかり。20年間、歩んできた道のりは、柴咲さんの “今”をどう形成するに至ったのか。率直な言葉で語ってもらう。
※広く環境・社会・経済の3つの観点からこの世の中を持続可能にしていくという考え方のこと

台本を読み終えるのがもったいなかった

この春、WOWOW『連続ドラマW 坂の途中の家』で2年ぶりに主演を務めることに。

「原作は『紙の月』、『八日目の蟬』で知られる角田光代さん。小さな子どもを持つ、なんの変哲もない主婦があるきっかけで自分自身の奥深くにある感情に気づいていく。シチュエーションは変わらないのに気持ちの変化で見え方が変わっていく心理サスペンスにすっかり夢中になりました。私、WOWOWの連続ドラマ出演ははじめてだったので、『え、6話で終わっちゃうの!?』って(笑)。重たい内容なんですけれど、続きが気になって、気になって。台本を読み終えてしまうのがもったいないくらい引き込まれてしまいました」

Profile

柴咲コウさん

1981年8月5日、東京都生まれ。1998年にデビューし『バトル・ロワイアル』(00)や『GO』(01)、『黄泉がえり』(03)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)など話題作に続々と出演。『○○妻』(15)で女優歴17年目にして初めて単独での連続ドラマ主演、第56回NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17)で主人公の井伊直虎を演じ、NHKドラマ初出演にして大河ドラマの主演を務めた。
https://koshibasaki.com/

Special Interview KO SHIBASAKI

世間の“普通”や“常識”に囚われる怖さ

柴咲さん演じる主人公は3歳の娘を持つ平凡な母親。ある事件の裁判員候補に選ばれたことから物語ははじまる。

「現代のお母さんの姿が克明に描かれていると思います。私自身は、実際に育児をしている人間ではないので、何が正しいとか、こうあるべきと言えるわけじゃないんですけど。 でも、多くの女性が“普通”とか“常識”に囚われて息苦しさを感じているんだろうなと思いました。いい奥さんやいいお母さんであらねばならぬという呪縛があって…。私も“女優さんなのに”とよく言われます。社会の思い込みとかこうあるべきという勝手なイメージにさいなまれる必要はない。この作品はそういった不必要な固定観念を見直すいい機会になるのではと思います」

スーパー天才子役と最高のセッション

スーパー天才子役と最高のセッション

撮影の現場でもっとも大事にしたのは娘とのコミュニケーション。

「でもね、私がそんなに気を使わなくても全然大丈夫だったんです!なぜなら娘の文香を演じた松本笑花ちゃんはスーパー天才子役だったから(笑)。子役ありきの現場だったので、カチカチに決められた現場じゃなかったんです。笑花ちゃんがどう反応するかでセリフの流れを変えていこうね、みたいな、自由なセッションのような余白をいつも監督と考えていて。でも、彼女はすごいプロで、まったく撮影が滞ることはなかったです。彼女から引き出された芝居がたくさんありました。はい、とても勉強をさせていただきました(笑)」

Special Interview KO SHIBASAKI

孤独だから自分らしくいられた

芸能生活20周年、柴咲さんが多岐にわたる表現を続けられる秘訣は何なのでしょう。

「気になったことをなんとなくやり過ごさない。ちょっとでも気になることがあれば、その芽を拾うようにしています。あとは、ひとりが好きというのもこの仕事を続けられた理由のひとつだと思います。孤独である方が自分らしくいられる。協調性がないわけじゃないんですけど、ずっとそれが普通ですね。旅に行くのも、ごはんも、誰かと行かないとという意識がなくて。そのひとりの時間に自分の考えは形作られているんだと思います」

ご飯がおいしいと、それだけで幸せ

ご飯がおいしいと、それだけで幸せ

そんな柴咲さんが今、もっとも大事にしていることとは?

「若いころはそれこそ欲張りだったと思うんです。あれもしたい、これもしたいと。でも、今はそれがどんどんシンプルになっている気がします。小さいことに幸せを感じられる。眠りたいときにぐっすり眠れたとか、自分のために炊いたご飯がうまく炊けたとか。でも、そういう小さいことに喜びを見出せるのは、いろいろ試した年月があるからなんですよね。そこから削ぎ落とされて、残っている今の毎日を大切にしたい。それは、仕事もですし、人間関係もそうだなと思います」

Special Interview KO SHIBASAKI

なによりも笑顔でいること

小さなことに幸せをみつけるコツはありますか?

「うーん、日々、幸せそうにする!(笑)つまり、笑顔でいることなんだと思いますよ。私なんて、顔がキツイし言うこともズケズケきっぱり言っちゃうタイプなので、真面目な話をしているだけで“怖い”と誤解されてばかり。だから、なるべく笑顔でいようと心がけています。笑顔でいると相手も笑ってくれるし、それだけでコミュニケーションになる。当たり前のことですけど、笑顔でいて、感謝の気持ちはきちんと伝える。それが幸せの近道になるんじゃないかな」

シンプルに優しいって難しいし、すごい

シンプルに優しいって難しいし、すごい

数々のヒット映画やドラマで成果を残し、今また新しいステージに立つ柴咲さんは、ひとりの人間としての魅力に溢れていた。大切にしているという笑顔もとてもチャーミング。

「でも、まだまだだなあって思います。憧れる女性像は優しい人。シンプルに優しくあることって実は難しいし、すごいこと。他人に気を使うと人って疲れちゃうじゃないですか。それをストレスためずに、さりげなくできる人をみると、ああ、素敵だなって感動するんです」

ピアス ¥65,000(マリハ/マリハ伊勢丹新宿本店 TEL03-6457-7128)

<作品情報>

『連続ドラマW 坂の途中の家』

4月27日(土)よりWOWOWプライムにて
毎週土曜22時~(全6話)
第1話は無料放送

原作:角田光代
脚本:篠﨑絵里子
監督:森ガキ侑大
出演:柴咲コウ ほか

特設サイト:
https://www.wowow.co.jp/dramaw/sakaie/

(あらすじ)
山咲里沙子(柴咲コウ)は、3歳の娘・文香と夫(田辺誠一)と3人で平穏な日々を送っていた。ある日、裁判所から刑事事件の裁判員候補者に選ばれたという通知が届く。対象となる事件は、里沙子と同じ専業主婦の母親・安藤水穂(水野美紀)が生後8ヶ月の娘を浴槽に落として虐待死させたという衝撃的な事件だった。同じ子どもを持つ母として、我が子を殺めた被告人に嫌悪感を抱く里沙子だったが、彼女の境遇と自分自身が抱えている問題とが重なると気付いた時、里沙子は……。