やっぱり知りたい! 『結婚と幸せのカタチ』家族誕生までの秘話百景 ~ 国際結婚編 ~ 取材_岸良ゆか 撮影_平松岳大(digni) 制作_マガジンハウス

パートナーがいるかいないか、入籍をしているかしていないか、子どもがいるかいないか……。
人の生き方が多様化している昨今。もちろん選択肢が増えるのはすばらしいことだけど、それでも世の中にはあえて「結婚」する人が多いのも事実。みんな、どうして結婚するの?そもそも結婚生活って楽しいの? ぶっちゃけ、結婚してよかったと思ってる?年齢も環境もさまざまなカップルに本音を聞き、気になる結婚の「リアル」に迫ります。

愛で国境を越えた!? 日英カップル

今回お話をうかがったのは、イギリス出身のフォトグラファー、ダニー・ダンクスさん、美智さん夫妻。金髪碧眼、すらりと長い手足をもつダニーさんは、その外見からは想像もできないほど日本語が上手。日本に住んでもう11年になるとのことで、イントネーションも言葉のチョイスも若い日本人男性そのものです(「飲み会」を「飲み」と言ったりする!)。とはいえ国際結婚となると、言語や文化の違いがあって日本人同士の結婚より大変そう。ついそんなふうに思ってしまいがちですが、実際のところはどうなのでしょう……?

Profile

Profile

ダニー・ダンクスさん、ダンクス美智さん

ダニーさんは英国バーミンガム出身の31歳。2008年に来日し、写真家の平松岳大氏に師事。アシスタントを経て2014年に平松氏のスタジオのカメラマンとして活動を開始、2017年7月に独立。美智さんは日本大学芸術学部を卒業後、イラストレーターなどとして活躍。2011年に結婚し、現在は長女と次女の子育てに専念する。

ワーキングホリデーで日本へ

ダニーさんが初めて日本へ来たのは2008年。当時、20歳。若く好奇心旺盛だったこともあり、ワーキングホリデーの渡航先に「英語が通じない国だと聞いた」日本を選びます。来日から半年ほど経った12月、共通の友人のパーティで友人に紹介されたのが美智さんでした。いまとは違い、日本語がまったく喋れなかったといいますが、明るく楽しい美智さんに惹かれたダニーさんは、帰り際にメールアドレスを書いた小さな紙を渡しました。

運命の出会いから1カ月、ひと冬の恋

2009年、出会って初めての夏

美智さんはダニーさんの「いつでも自然体でみんなに優しい」「勘とセンスがいい」ところに惹かれたのだとか。

1カ月ほどメールのやりとりが続き、初めてのデートへ。場所は鎌倉でした。「日帰りで、大仏を見るみたいな普通のデート。東京から電車に乗っている時間が長くて、英語での会話がもたなくて大変でしたね」とはにかむ美智さん。「ミチはあの頃、いつも携帯用の辞書を持ち歩いてたよね」とダニーさんも笑います。最初はただの友だちだったというふたりですが、その冬、コミケへ行ったり年末のお参りへ行ったりしながら少しずつ距離を縮め、気づけば恋人同士に。やがてダニーさんと美智さんは一緒に暮らし始めます。

日本とイギリス、1万kmの遠距離恋愛

いつかは家族で仕事を

大人と子どもが対等にアイデア出しをし合える撮影チームを結成して、家族で仕事するのが美智さんの夢。

当時、美智さんが住んでいたのは横浜の市が尾。そこかしこに美智さんがつくったオブジェが置かれた長屋での暮らしは「本当に楽しかった」そうですが、幸せな生活は長くは続きませんでした。ダニーさんのワーホリのビザが切れ、イギリスへの帰国を余儀なくされてしまったのです。2009年9月、ダニーさんはイギリスへ帰国。1万kmほども離れた東京とバーミンガムで、スカイプやメールを使って連絡を取り合う日々は、ダニーさんにとって大きな試練でもあり、転機でもありました。「ミチのいない生活は寂しいなって。だから、必ずまた日本へ行くと伝えていました」。また日本へ行く。ただし、今度は短期滞在ではなく、ずっと暮らすつもりで。ダニーさんはそう決心していたのです。

日英往復6回を経てプロポーズ

もうワーキングビザが取れないダニーさんにとって、観光客として日本へ行き、最長の3カ月を過ごしてまたイギリスへ帰国するというのが、美智さんに会うのにいちばん手っ取り早い方法でした。イギリスでは遊ぶ暇もなく働いて、お金が貯まったらすぐ日本へ。美智さんと一緒に暮らし、3カ月経ったらまたイギリスへ。そんな生活が2年ほど続いたある日、ダニーさんは美智さんにプロポーズします。美智さんの答えは? と聞くと「“Yes”だった」とダニーさん。「イギリスと日本を行き来する生活をいつまでも続けるわけにはいかないから、そろそろなんとかしないとな、と私も思っていたんです。プロポーズされたときはびっくりしたけれど(笑)」と美智さん。

テンポよく進んだ日本での基盤づくり

美智さんに会いたいから日本へ行くし、ずっと一緒にいたいから結婚する。当然のことのように話すダニーさんに、不安や迷いはなかったのかと聞くと、「特になかったですね」とあっさりした回答。「もちろん最初は仕事はどうしようという心配はありました。イギリスでは同年代の友だちが家庭をもって家を買ったりしはじめていたけれど、僕にはそういうことができないし。でも、よく考えたら、べつに自分の家がほしいわけじゃない。そういうのがなくても楽しいから、それでいいやって」。飄々とそう言いながらも、仕事のことはきちんと考えていました。昔からカメラが好きで、イギリスでも日本でも趣味で写真を撮り続けていたダニーさん。結婚と前後して、知人に紹介されたフォトスタジオで働くことになったのです。正社員にならないか──師匠がそう声をかけてくれたことも、結婚の追い風になりました。

すべての結婚は国際結婚である

2011年1月に入籍し、ダニーさんは婚姻ビザを取得するために一時帰国。3月に東日本大震災が起こり、東京から外国人の姿が少なくなっていくなか、4月に日本へ戻って周囲を驚かせます。その後、美央ちゃん、英美ちゃんという子宝に恵まれ、2017年の春にはカメラマンとして独立。夫婦で仕事に子育てに奔走するふたりに「国際結婚ならでは」の要素は見出せません。考えてみれば、そもそも結婚とは、異なる価値観や文化をもつ者同士が家族になるということで、それは日本人同士でも同じ。あえて言えば「婚姻届の手続きが複雑だったけれど、ぜんぶミチがやってくれたから」とダニーさん。それを聞いて当時の苦労を思い出したのか、苦笑する美智さん。愛は国境を越える……のかはわからないけれど、少なくとも煩雑な事務手続きは越える。目の前にいる素敵な家族が、それを証明していました。