変わりゆく仕事の価値観 『働き方総研』 カセットテープ専門店 ~ Waltzの場合 ~ 取材_中西未希 撮影_関竜太制作_マガジンハウス

終身雇用も幻想と化し、就職が就社ではなくなってきた昨今。起業や独立、勤めながらの副業、さらにはいくつものビジネスを並行するパラレルワークなど、仕事の形も多種多様に。そんな中、小さくても逞しく、自分たちなりに自分たちらしい仕事を始め、それぞれのジャンルで活躍している人たちがいる。彼らの働き方は、まさに「生き方」そのもの。かつての彼らと現在の違いもひもときながら、変わりゆく仕事の価値観を浮き彫りにしていく。

「世界で誰もやらなかったこと」
を仕事に

まだ日本に上陸したばかりだったアマゾンジャパンに入社して14年間、角田太郎さんは自身が得意とする音楽部門のほか、生活消耗品やペット用品部門の立ち上げにも携わってきた。しかし今やネットビジネスの最大手となった大企業を退社して選んだのは、その真逆とも思える実店舗でのビジネス。角田さんが2015年に始めた中目黒のカセットテープ専門店「Waltz」は今、世界中の音楽レーベルから注目を浴びる存在となっている。

PROFILE

角田太郎 さん

角田太郎 さん

新卒でCDショップWAVEに入社。約4年勤める間に、音楽記事の執筆やDJの副業も行う。2001年にアマゾンジャパンに入社。約14年間、さまざまな新規事業の立ち上げに携わった。2015年に46歳でアマゾンジャパンを退社し、約半年で「Waltz」を開店。プライベートでコレクションしてきたカセットテープの一部を開放している。

プレゼンテーションは
中目黒の駅から始まる

This is how I feel about working

中目黒駅から徒歩10分の住宅街にある「Waltz」。オーナーの角田さんはeコマースの代表格であるアマゾンジャパンを創成期から知るような方ですが、今はこの実店舗にこだわります。開店当初はSNSも一切やらず、どれだけ広まるかを試みたそう。「駅を降りたところから、店のプレゼンテーションは始まります。わざわざ足を運ぶことで得られる感動があるからこそ、今、想像以上の反響を呼ぶ結果になったのだと思います」

カセットテープカルチャーの
再発見

角田さんがカセットテープの収集を始めたのは、アマゾンジャパンでバリバリ働いていた2004年。ソニック・ユースのサーストン・ムーアによるアートブック『Mix Tape』との出会いがきっかけでした。「彼の知人が昔作ったオリジナルのカセットテープを、アートブックに昇華したものです。言わば痛い青春の思い出が時を経て、アートになる面白さ。そこから、もう一回カセットテープで聴きたいなというスイッチが入ったんです」

WORK WORK WORK

VHSや書籍コーナーも

店の一角には、音楽を起点として派生するファッションやアートなどのカルチャーを扱った雑誌や書籍も並ぶ。

WORK WORK WORK

今だから選ぶスタイル

デジタル全盛期にあえてウォークマンでカセットテープを聴く行為が、当時を知らない世代も魅了している。

人生のB面だった
趣味のコレクションから

日本ではカセットテープはもちろん、プレーヤーすらすでに販売されていない時代に始めたコレクション。「でも、コレクターって集めるのが大変であればあるほど面白くて、燃えちゃうんですよ」と、角田さんは当時をふり返ります。欧米には古い車に乗り続ける文化があり、カーステレオのためのカセットテープ産業が細々と残っていたため、出張で行くたびに収集していたとか。その膨大なコレクションが独立後の初期在庫となりました。

ビジネスマンとして成長した
40代後半の独立

アマゾンジャパンでは、自身の強みだった音楽部門を軌道にのせた後、まったく興味のなかった生活消耗品やペット用品部門の立ち上げにも携わってきたという角田さん。「大企業を相手にオセロを白から黒に全部ひっくり返していくようなビジネスは、とてもエキサイティングで面白かった。その経験が今に生きないはずはありません」。そんなビジネスマンとしての成長が、一見無謀とも思える実店舗への挑戦を可能にしたようです。

This is how I feel about working
WORK WORK WORK

視聴コーナーも用意

カセットテープで音楽を聴くこと自体、機会がない現代。店には自由に視聴できるコーナーも設けられている。

世界中のレーベルから
オファーが来る売り場

世界のどこにもなかったカセットテープ専門店。今では世界中のレーベルから毎日オファーがあり、新譜コーナーもできました。「ダウンロードやストリーミングの時代に、誰も再生環境を持っていないカセットテープを実店舗で売るなんて、成功しない要素しかそろっていないようなビジネスです。でも僕は、あえてやった。もちろん戦略を持って。大企業を勇退したおっちゃんが趣味でやろうったって、なかなかできないと思いますよ」

当事者である
ミュージシャンも虜に

店の常連客にはミュージシャンも多いそう。彼らにとってもカセットテープは今改めて新鮮なアートワークであり、自分の作るストーリーを切り取られることなく最後まで聴いてもらえる魅力が。「単に昭和のなつかしいものを復活させたのではなく、今触れることで当時とはまったく違う新しいものが得られる。これは『価値観の再定義』だと思っています」。そんな角田さんのプレゼンテーション、ぜひこの空間で体験してみてください。

当事者である
ミュージシャンも虜に

店の常連客にはミュージシャンも多いそう。彼らにとってもカセットテープは今改めて新鮮なアートワークであり、自分の作るストーリーを切り取られることなく最後まで聴いてもらえる魅力が。「単に昭和のなつかしいものを復活させたのではなく、今触れることで当時とはまったく違う新しいものが得られる。これは『価値観の再定義』だと思っています」。そんな角田さんのプレゼンテーション、ぜひこの空間で体験してみてください。