大ヒット映画からの“卒業”、その先にあるもの『めざすのは、意志を貫ける強い女性』“ちはやふる”な演技者としての佇まい 〜 女優 広瀬すずさん 〜 取材_岸良ゆか 撮影_赤澤昂宥 ヘアメイク_牧田健史 スタイリスト_安藤真由美(スーパーコンチネンタル)

光を放つようなまばゆい笑顔、鋭いまなざしのシリアスな顔。くるくると変わる表情で、観るものを惹きつけてやまない女優の広瀬すずさん。公開中の主演映画『ちはやふる -結び-』でもその魅力を余すことなく発揮している彼女に、3年にわたって演じた主人公 千早(ちはや)や、完結編となる本作への思い、そして自身の女優としての成長についてお話を伺いました。

心を打つ! 強くひたむきな姿

「競技かるた」にすべてを注ぐ高校生たちの瑞々しい青春を描いた人気コミック『ちはやふる』。2016年に「上の句」「下の句」の2部作で実写映画が公開され、200万人を超える観客動員数を記録した大ヒットシリーズの完結編となる『ちはやふる -結び-』が公開中です。前作に続いて広瀬さんが演じるのは、“荒々しく勢いある様”を意味する「ちはやふる」という言葉さながら、強くて真っ直ぐなヒロイン・千早。彼女の「強さ」がシリーズを通してどう変わったのか。それが、本作の見どころのひとつです。

Profile

広瀬すずさん

1998年、静岡県生まれ。「ミスセブンティーン2012」で選ばれ、セブンティーンの専属モデルとして活動を開始。2013年、フジテレビ系ドラマ『幽かな彼女』で女優デビュー。2015年、日本テレビ系ドラマ『学校のカイダン』で連続ドラマ初主演。映画『海街diary』『ちはやふる』『四月は君の噓』をはじめ出演作多数。

あえて意識しなかった2年の空白

2年ぶりに千早を演じるのが楽しみで仕方なかったという広瀬さん。本作で印象的に描かれるのは、千早の成長です。これまでは自分のために戦っていた千早が、チームに寄せた戦い方をするようになったり、恋の三角関係の相手との距離感が少し縮まったり。そんなささいな変化が、注意深く見なければ気づかないほど自然に表現されます。高校3年生になった千早を演じるにあたり、広瀬さんはどんな役づくりをしたのでしょうか。

──役づくりについて、小泉徳宏監督とはどんなお話を?

広瀬:千早と同じように、私も実生活で2年の時間を過ごしています。だから、時間の経過はあえて意識しないほうがリアルな成長を見せられるんじゃないか。そう思っていたら、監督も同じことを考えていたようで。

ただし、今回は事前に監督から「主演として現場に立ってほしい」と言われていたんですね。「上の句」「下の句」はキャストみんなが主人公で、みんなで作品をつくり上げたようなところがありました。でも主演は広瀬すずだから、今回は千早としてみんなを引っ張ってほしいって。

──監督のリクエストにどうやって応えたのでしょう。

広瀬:現場の雰囲気づくりは自分がやらなきゃいけないって、そこはすごく責任を感じました。たとえば今回は緊張感のあるシーンが多かったので、集中しやすい空気にもっていこうとしたり。実際にはみんなの気合いがすごくて、自然と空気ができあがったのですが。

Actress SUZU HIROSE

実践した主演としての「役割」

「主演として現場に立ってほしい」──監督からのリクエストは、撮影中ずっと広瀬さんの胸のなかにありました。あまり人に意見するタイプではないそうですが、撮影現場で周囲に配慮するようになったのも大きな変化のひとつ。さらに、本作から新しいキャストを迎えることになり、主演としての使命感は高まります。そこでヒントになったのが、先輩俳優からのアドバイスだったのだとか。

──今回から、かるた部に新しいメンバーが2人加わりますね。

広瀬:そうですね。すでに人間関係の輪ができ上がったなかに入っていくのは自分も苦手なので、とにかく2人にとって居心地のいい環境をつくってあげたくて。ただ、部員のみんなはだれにでもグイグイいくタイプなので(笑)、すぐに打ち解けて仲良くなりました。

──広瀬さんが部員のメンバーを誘って食事にも行ったらしいですね。

広瀬:ドラマでよく主演している先輩がいて、その先輩からドラマの出演者やスタッフと仲を深めるために食事会を提案したという話を聞いたことがあるんです。それも主演の役割なのかなと思って、私はそんなに大きな会ではなかったけれど、みんなでご飯を食べにいきました。

『ちはやふる』で過ごした贅沢な青春

第1作である「上の句」の撮影がはじまったとき、広瀬さんは高校2年生でした。以来、自身の高校生活を通じてずっと『ちはやふる』に関わってきたこともあり、シリーズへの思い入れの強さはひとしお。「この3年間は毎日作品のことが頭のなかにあった」「千早は私の一部だった」と言うほど、広瀬さんのキャリアのなかでも特別な作品になったようです。

──今回の『-結び-』のテーマには“卒業”も含まれますが、広瀬さん自身も卒業のような気分を味わったのでは?

広瀬:私は中学生のときに仕事を始めたので、気づいたら卒業して東京に来ていた感じだったんです。だから青春時代は『ちはやふる』で過ごさせてもらったし、それもすごく贅沢な青春だったと思います。自分の10代のなかでも大きな時間でした。

──撮影が終わってしまうのが惜しかった?

広瀬:今回の撮影でみんなとまた会えるのを2年間楽しみに待ってたから、ワンカット撮るたびに寂しい気持ちになっちゃいましたね。撮影が終わらなければいいのにと思って、最後のほうはみんなで「いつ指折る?」みたいなことばかり話してました。だれかが指の骨を折れば、そのぶんクランクアップを延ばせるんじゃないかって(笑)。

Actress SUZU HIROSE

一生忘れることのない光景

『ちはやふる』のキャストたちの仲の良さは有名ですが、“卒業”を意識していたのは出演者だけではなかったようです。3年間にわたり、たくさんの苦労や喜びをともに経験してきた監督やスタッフも仲間。昨年末もみんなで忘年会をしたという出演者とスタッフの関係性を物語る、すてきなエピソードを聞けました。

──『-結び-』には、「一瞬を永遠に留めることができるのを忘れないで」という印象的なせりふがあります。撮影現場で「この一瞬を永遠に留めたい」と思った瞬間はありましたか?

広瀬:最後の試合のシーンの撮影では、セッティングの合間にみんなで一緒に座ってしゃべって、本番で呼ばれたら行くというのを繰り返していたんです。撮影も終盤だったので、みんなでいるときは寂しさを隠すようにわちゃわちゃしてるんだけど、カメラの前に立つと、そこは一瞬でぐっと集中して。

そこであるシーンを撮った直後に、監督が急にいなくなったんです。「あれ?」と思ってたら、しばらくして目を真っ赤にして戻ってきたんですね。カメラマンさんも撮影しながら泣いてるし、それを見て私も「うわー!」ってなっちゃって。その光景はなぜかいまもよく夢に見るし、一生忘れないんだろうなと思います。

意志を貫ける女性はかっこいい

そして、もうひとつのテーマである“強さ”について。昨今「強い女性」が謳われるようになって久しいですが、そのかたちはさまざま。たとえば本作でも、広瀬さん演じる千早とライバルの詩暢の強さはちょっとタイプが違います。広瀬さんが「かっこいい」と思うのは、どんな女性なのでしょう。

──『ちはやふる』には、魅力的な2人の「強い女性」が登場します。ひとりは、周囲にも力を与えながら強さで引っ張っていくタイプの千早。もうひとりは、わが道を行き、だれにも負けない強さを手に入れる孤高の女性・詩暢。広瀬さんが魅力的だと思う女性はどっち?

広瀬:どちらも魅力的ですね。強い意志があって、それを貫ける女性は素敵だし、この人について行きたいと思っちゃう。いま『anone』というドラマで共演している田中裕子さんは、まさにそんな女性。決して飾らず、淡々と自分の表現を貫いている気がして、見ていてかっこいいです。

”良い子”からの脱却にも挑戦したい

『ちはやふる』で千早が強い女性に成長していくのにあわせ、女優としても成長を続けてきた広瀬さん。本作の前後だけでも映画やドラマへの出演が相次ぎ、いま日本でもっとも多くのオファーを受ける若手女優のひとりだと言ってもいいかもしれません。この「卒業」を節目に、広瀬さんが次にめざすものとは?

──今後も出演作が目白押しですが、これからどんな女優をめざしたいですか?

広瀬:『ちはやふる』のように主演をさせていただく作品だけでなく、助演として作品に貢献する、その両方をできる女優さんはかっこいいなと思います。

──助演なら役の幅も大きいですものね。演じてみたい役は?

広瀬:年齢のせいもあるかもしれませんが、私が演じるのはいろいろあっても最終的には“良い子”な役が多いんです。もちろん良い子も演じていて楽しいけれど、そればっかりだと女優としての引き出しがなくなっていくかもしれない(笑)。

だから、たとえばこれまで演じてきたような役とは真逆の、最初から最後まで「なんだこの女!」って思われる役とか。見てくれる人を良い意味で裏切れるような、毒のある役にも挑戦してみたいですね。

<作品情報>

©2018映画「ちはやふる」製作委員会  ©末次由紀/講談社

『ちはやふる -結び-』

おなじみのキャストが再集結!
瑞沢かるた部、最後の夏。

瑞沢高校競技かるた部1年の千早が、かるたクイーンの詩暢と壮絶な戦いを繰り広げた全国大会から2年。3年生になった千早たちは新入生たちに振り回されつつ、高校生活最後の全国大会に向け練習に励んでいた。しかし、部長の太一がかるた部を去るという思いがけないトラブルが起こって……。

『ちはやふる -結び-』

全国東宝系にて公開中(2018年4月現在)

監督・脚本:小泉徳宏
出演:広瀬すず、野村周平、新田真剣佑ほか
配給:東宝