施主自ら設計に関わり、中古マンションをフルリノベ 『新居来訪』 忙しい夫婦の絆をつなぐ家〜 南池袋 渡邉邸 〜 取材_金井さとこ / 撮影_関竜太/ 制作_マガジンハウス

住宅購入は人生で一番大きな買い物。お値段はもちろん、立地から間取り、インテリアのプランまで決めなければならないことがたくさん。絶対失敗したくないからこそ、リアルな話に耳を傾けたい。そんな期待に応えるべく、実際の購入者に密着して物件検討~購入~受け渡しまでのプロセスをドキュメント。今回は、好立地の中古マンションを購入し、オリジナルのプランでリノベーションした渡邉夫妻をご紹介。施主自ら設計に関わったこだわりの詰まった部屋は必見です。

資産価値の高い絶好のエリアで
中古マンションを購入

2016年夏の結婚後すぐに、新居への住み替えを検討し始めた渡邉夫妻。「ライフスタイルの変化を見据えて、10年くらいのスパンでの住み替えを前提に考えました」(典文さん)と、実家への近さや不動産価値の観点で南池袋エリアの中古マンションを購入してリノベーションすることに。購入した物件は築19年のマンション。大通りに面しているものの住戸は反対向きのためとても静かで、マンションとしては開口部が多く、明るく風が抜けるところが気に入ったそう。

Profile 渡邉典文さん・美香さん

学生時代建築科を専攻していた典文さんと、美香さんの新婚カップル。結婚当初は当時典文さんが住む広めのワンルームの賃貸マンションにふたりで暮らしていましたが、必然の流れで新居を探すことに。結果中古物件を購入、リノベーションして自分たちの思いどおりの空間を実現しました。

“流しの建築家”と
二人三脚でプランニング

早速リノベーションの依頼先探しをスタートした渡邉夫妻。しかし、具体的なイメージがあったからこそ自由度の高いパートナーを求めた結果、かねてから相談にのってもらっていた典文さんの学生時代の先輩、建築家飯田智彦さん(テーラード・デザイン研究所)に依頼することに。「ふたりとも仕事が忙しいため、それぞれの部屋が仕切られているというよりは、ゆるやかにつながりがあり、落ち着く空間にしたかった」(典文さん)と、毎週末、みんなでアイデアを出し合い、自分たちの思い描いた空間を目指したそうです。旅をしながら設計をする、“流しの建築家”の飯田さんとの打ち合わせはスカイプでも。「『今、鹿児島入ったよ』、『今日は北京にいるよ』とか、飯田さんがいる街の音も聞こえたりして、いつも打ち合わせは楽しかったですね」(美香さん)

Profile 渡邉典文さん・美香さん

学生時代建築科を専攻していた典文さんと、美香さんの新婚カップル。結婚当初は当時典文さんが住む広めのワンルームの賃貸マンションにふたりで暮らしていましたが、必然の流れで新居を探すことに。結果中古物件を購入、リノベーションして自分たちの思いどおりの空間を実現しました。

新居来訪

「ドレープ壁」の曲線美で
やわらかな空間に

渡邉邸の最大の特徴である、「ドレープ壁」の曲線美。住戸の形状も斜めにプランが振られているため、曲線が適しているのだとか。この「ドレープ壁」がリビングにやわらかさをプラス。「天井高が低いことや、梁の圧迫感があるので、目線を低くして空間の広がりを感じられるよう、ダイニングセットは知人の家具職人にオーダーメードし、ソファもロータイプのものをチョイスしています」(典文さん)。照明も小さめのダウンライトにし、配線が見えないようにレールをつなげているなど、細部にまでこだわりスッキリとしたリビングに。ドレープ壁の裏には本棚も。ほどよく見せる収納にし、使いやすさとの両立を実現しました。

ベンチからの眺めは絶景!

リビングのコーナーにある黄色く塗装されたベンチ。「床の間っぽさがあって好き。ベンチからの景色がこの家一番の絶景ポイントなんですよ」(美香さん)

ドレープ壁裏の白いキッチンは
妻のリフレッシュ空間

白を基調にした明るく清潔感のあるキッチンは美香さんのお気に入り。キッチンの目の前にある大きな窓からは、天気の良い日には富士山が望めるそう。「キッチンはプライベートにおける私のワークスペース。明るいキッチンで料理をすると、とても爽やかな気分になりますね。朝ここに立つと、気持ちよくスタートが切れます」(美香さん)。ドレープ壁で温もりのあるリビングと明るいキッチンを仕切ることで、空間だけでなく、気持ちも切り替えてくれます。リビングとキッチンとの間をドレープ壁で仕切るにあたり、人の気配を感じながらも、リビングからキッチンの生活感が見えないようにするため、ドレープ壁の位置や開口の大きさにはとことんこだわったお二人。「ふつうだったらありえない幅なのですが、人がギリギリ通れる幅50㎝の開口を設けて、キッチンを回遊できるようにしました」(典文さん)。美香さんもキッチンの動線のよさに大満足。

ドレープ壁で隠れた食器棚

ドレープ壁に隠れた食器棚はオープンに。「窓とドレープ壁との間から見える食器棚の景色は渡邉邸ならではですね」(飯田さん)

夫のワークスペースは
まるで“森の小道”にある秘密基地

リビングに明るく大きく開放された印象を強めるために、玄関からのアプローチは静謐な空間に。一筆書きのように続くドレープ壁の開口からは、やわらかな光が差し込みます。風が抜けるとドレープ壁にかけられたレースカーテンがふわりと揺らめき、森の小道を歩いているような気分に。「リビングに抜けたときの驚きも意識しました」と典文さん。洗面室や収納の扉も一体化させ、シンプルな空間を実現しています。玄関とリビングの間には典文さんのワークスペースが。「2畳ないくらいの狭い空間なのですが、扉がなく開放的なのと、三面採光でとても明るいため、面積以上の広さを感じます。音がよく反響するので、鼻歌を歌ったりもします(笑)」(典文さん)。ドレープ壁によって視界的にはLDKが見えないため作業に集中できるメリットも。

ラワン合板で統一感を

「奥様が『柔らかい曲面が好き』ということにヒントを得て」(飯田さん)。ラワン合板で統一感と強度を確保しつつ美しさを演出。

プライベートスペースは
ドレープ壁に隠してスッキリと

プライベートスペースであるバスルーム、洗面室、トイレは、ドレープ壁の一角の扉に隠れています。洗面室は、明るく清潔感のある雰囲気に。継ぎ目のないマットな質感の洗面ボウルが特徴の洗面化粧台を採用。見た目のデザインはもちろん、継ぎ目がないため掃除もしやすい。「洗面化粧台も自分たちで探して選びました。洗面ボウルもドレープ感のあるものにして、コーディネートしています」(美香さん)

新居来訪

忙しい毎日の中でも
ゆるやかに暮らしをシェア

自らも設計に携わってつくり上げた空間は居心地も抜群という渡邉夫妻。「今までは時間に追われているだけでしたが、キッチンの開放感に癒されて料理が楽しくなりました。レパートリーも増えたね」(美香さん)。共働きでお互い忙しい日々を送っているため、顔を合わせられる時間は限られるそうですが、美香さんがキッチンに、典文さんがワークスペースでお互い別々のことをしていても、ゆるやかに空間をシェアできるため、繋がりを感じられるそう。「家でゆっくりできる時間は少ないですが、質のいい時間を過ごせるようになった気がします」(典文さん)