脱!ママにおまかせ パパのための教育前線レポート 父親視点で学ぶ子どもの教育法 〜 中学受験の最新事情!(SAPIX編) 〜 取材_石井栄子 撮影_関竜太 制作_マガジンハウス

高校までは公立で全然大丈夫かと思っていた親世代とは打って変わって、我が子たちはどんなステージでも受験が当たり前になってしまった。プレッシャーはかけたくないけれども、きちんとレールは用意してあげたい。ママは当然熱心だから、パパはもっと冷静に。自宅での勉強から塾選びまで、環境別&時期別に考え得る教育法をコラム形式で。

中学受験塾大手
SAPIXに聞く!

前回の記事でも紹介したように、中学受験をする東京都内の子どもは17%。小学校によってはクラスの半数以上が中学受験をしているとも聞きます。中学受験をさせるとなると、塾通いは避けて通れません。遊び盛りの子どもを塾に通わせることが果たして正しい選択なのか。そもそも中学受験は必要なのか。進学塾の大手SAPIXの教育事業本部長、広野雅明氏に聞きました。

Profile 大西陽介さん

子どもはまだ幼稚園も友人家族から伝え聞く中学受験の噂話が気になる一児のパパ。自身も中学受験経験者ゆえ子どもの近い将来が気がかりな38歳。

Profile 広野雅明さん

サピックス教育事業本部長。サピックス創業期から現在まで算数科の1講師として現場に立つ。室長や教科責任者などを歴任。

通塾は小学校1年から
って本当?

大西 「再来年に小学生になる子どもがいます。小学校は公立に行かせるつもりですが、周囲を見ると半数以上の人は中学受験を考えているようです。早い人は小学校1年生から塾に通わせると聞き、小学生の貴重な時間を塾通いに費やしていいものかどうか悩んでいます。というのも、私自身が中学受験経験者で、塾通いの辛さが未だに忘れられないからです。一方で、中高一貫校に通ったことで高校受験がなく、ゆったり過ごせるというメリットも知っていて」

広野 「なかなか答えの出ない問題ですよね。SAPIXには年中さんから教室がありますが、実は小学校1年生から通って中学受験を目指す人はそれほど多くありません。小学校6年生では約5000人強の生徒がいますが、小1、2年ではだいたい600~700人。小3で3000人くらいになり、小4、5、6年生では各5000人ずつというのが実態です。つまり、多くの人は小学校4年生から中学受験を意識して塾に通い始めると言えるでしょう」

大西 「なぜ4年生からなのですか?」

広野 「どこの塾でも小4~5年で一通りの勉強をして6年生で総復習と受験対策をするというのが一般的です。カリキュラムどおり、4年生から入塾すれば比較的無理なく勉強できますが、5年生から入ると他の子が4年生で終わっている内容に追いつかなければならないので少し大変になります。6年生から初めて塾に通うのではかなり難しくなると思います」

Profile 大西陽介さん

子どもはまだ幼稚園も友人家族から伝え聞く中学受験の噂話が気になる一児のパパ。自身も中学受験経験者ゆえ子どもの近い将来が気がかりな38歳。

Profile 広野雅明さん

サピックス教育事業本部長。サピックス創業期から現在まで算数科の1講師として現場に立つ。室長や教科責任者などを歴任。

塾通いは小学校4年生からが多数派

私立中高一貫校の
メリット・デメリットは?

大西 「そもそも中学受験って必要なのでしょうか」

広野 「私立中高一貫校のメリットを挙げるとすれば、まず、大学受験対策をしっかりしてくれることです。私立の中高一貫校は、高校2年までに授業の内容を終わらせて、高校3年では大学受験対策をするところがほとんどです。公立高校の場合、教科書の内容を全部終わらないまま卒業というところもあるようです。公立高校からも難関大学に合格者を出しているではないかと言われるかもしれませんが、実は浪人率がとても高い。受験対策なしで難関校に現役合格するのは至難の業です」

広野 「デメリットを挙げるとすれば、小学校から塾に通わなければならないこと。家族団らんの時間を塾で過ごさなければならないし、放課後に友だちと外遊びをすることもできないでしょう。多くの塾では、夕食を塾で取ることになりますから、親御さんは塾弁作りに追われます。また、塾は通わせっぱなしというわけにはいかず、宿題や復習をちゃんとやったか、ご家庭でも見ていただかないといけない。最近は共働き家庭も増えているのでお母さんは大変だと思います」

大西 「私自身が、友だちと遊ぶ時間を削って塾に行くのが嫌で、だんだん勉強が嫌いになり、成績も落ちていったという苦い経験があります」

広野 「遊ぶ時間を削っても塾に行かせるべきと思うならチャレンジさせればいいし、子どもらしく育てたいなら中学入試は避けたほうがいい。最初に、『答えのない問題』と言ったのは、各家庭の価値観に照らし合わせて、各家庭で判断をしていただくしかないからです。ただ、大学入試を視野に入れた場合、塾に行かずに難関校に合格することはかなり難しい。今年から、東京都内の私立大学の定員が減少します。GMARCHのように、これまで少しがんばれば合格できていた大学も、かなり狭き門になるでしょう。少子化とはいえ、都内の大学入試の志願者数は減っていませんから」

GMARCHとは?
学習院大学(G)、明治大学(M)、青山学院大学(A)、立教大学(R)、中央大学(C)、法政大学(H)の頭文字を取ったもの。偏差値、ブランド力が似通っていることからGMARCHと一括りにされることが多い。
充実した大学受験指導が私立の魅力

子どもは本来、勉強が好き

広野 「子どもが伸びるタイミングは人それぞれです。小学校受験、中学校受験、高校受験、大学受験のどのタイミングで伸びるかはその子次第。また、第一志望校に合格できなくて併願校に行ったとしても、実はその環境のほうが子どもには合っていて、そこからめきめき伸びる場合もある。子どもは、基本的に勉強が好きなのです。問題は、どこでスイッチが入るかです」

大西 「確かにそうですね。私は中学受験で勉強が嫌いになりましたが、救いは塾でとてもいい社会の先生に出会えたことです。その先生のおかげでスイッチが入り、社会だけはがんばって、それを大学受験で活かすことができた。子どもにもそういう出会いがあればと思います」

伸びるタイミングは人それぞれ違う

取材を終えて

塾で勉強が嫌いになったという苦い経験がある一方で、周囲の受験熱の高さも気になり、小学校1年から塾へ入れるべきかと悩んでいました。でも、焦る必要はないんだとわかって少し安心しました。なぜ私立中高一貫校がいいのか、メリット・デメリットもよくわかりました。目先の中学受験だけでなく、その先の大学受験のことも考えて、子どもに合った塾選びを考えたいと思います。

中学受験御三家 SAPIXの合格実績(2017年度)