平成14年度入社式 社長挨拶(全文)

平成14年4月1日

安田生命保険相互会社

取締役社長 宮本三喜彦

全国各地から相集いました、322名の新入職員の皆さん、この記念すべき年に入社された事を、私は特別の気持ちで"おめでとう"と申し上げます。そして安田生命の全役職員を代表して、心から歓迎致します。

さて今、記念すべき年と申しましたが、皆さん既にご存知の通り、それは我社と明治生命が、会社合併を前提にした、全面提携のスタートに当たる年だからであります。
皆さんは、安田生命に入社を希望した時、そしてその思いが叶った時は、勿論この統合について知る由もありませんでした。
去る1月24日の朝、突然そのニュースを知られた筈であり、まさに驚天動地の思いをされたのではないかと思います。

そこで本日は、先ずその事について、私から直接話をさせて頂きたいと思います。
その前に皆さん、今の気持ちは如何ですか。驚きが覚め、時間が経って落ち着いて考えてみると、むしろ「良かった」と思われている人が殆どではないかと私は推察致します。
この気持ちの変化の様相は、皆さんの先輩となる、既存の社員の皆さんも全く同じであり、今ではOBの皆さんも含め、「良かった」「感謝します」とまで言ってくれています。そしてそれは、明治生命でも全く同じ現象だと聞いています。
お取引先、契約者のお声も次々と寄せられていますが、その殆どが歓迎して頂いています。そして、いつもは大体辛口のマスコミの論調も、殆ど前向きに評価してくれています事は、皆さんもご承知の事であります。何故世間は、この統合プランを、これ程評価してくれるのでしょうか。
私は、二つの理由があると思います。
その一つは、合併する両社が共に、「いい会社」「健全な会社」であるからだと思います。「勝者連合」とも言われています。そしてもう一つは、この合併による新会社の、将来の可能性を評価して頂いている、という事だと思います。
既に色々指摘されていますが、両社の基幹システムが同じである事、普通保険、団体保険のメインマーケットが夫々競合しない事、投融資先が重複しない事、そして合算した場合の地方銀行における筆頭株主が51にも達する事等々、両社統合の場合の補完関係と、重層強化関係が理想的であり、まさに格好の組合せである事が言われております。
勿論、これらの与件は言われる通りであり、合併効果をもたらす重要な項目と考えておりますが、私はそれと同じように、いやそれ以上に、大事な共通のものを、実は"目に見えない""形のない部分"に見出しております。

皆さんご存知の様に、安田生命は明治13年に、安田善次郎によって創業されましたが、明治生命はその翌年、阿部泰蔵によって始まりました。実はこの時期、その他にも保険会社が幾つも乱立気味に、呱々の声をあげましたが、今に残ったのは二つだけでした。
何故でしょうか。
安田善次郎と阿部泰蔵、この二人とその他の創業者との間に、生命保険に対する基本的な考え方の違いがあったからです。
両翁は、「万が一の場合の遺族を、是非救済したい」という事と、「生命保険は相互扶助の制度であり、金儲けの道具であってはならない」という、厳然たる理念がありました。そして、この新しい生命保険という概念とシステムを、世の中に普及させる事によって、文明開化をリードし、近代社会の扉を開いたのです。その強い使命感と高い理想が、長い時間を超えて両社の中に脈々と生きているのです。

今回の統合までの数多くの協議の中で、金子社長・明治生命の思考の根底に、私は私と安田生命のそれと非常に近いもの、共通のものがあるのを強く感じる事が出来ました。 安田生命と明治生命の文化・風土の根っ子に、同じもの、共通のものがある事は、間違いないと思いました。そしてその事は、統合の作業が進み、完成の後も時間が進むに従って、重要な要素として機能するだろう事を信じて疑いません。皆さんも、この"目に見えない部分"の事を、これからの会社生活で絶対に忘れないでいて欲しいと思います。

さて、我国の経済は、相変わらず厳しい状況が続いています。
3月に入って、一時株価の上昇があり、一息ついたとの観測もありました。実際政府は、デフレ対策発動の中止を宣言しましたが、私はこの判断はおかしいと思っています。
消費の低迷、不良債権問題、それによる金融機関経営の不安定、雇用失業問題、地価の下落の進行等々、いつでもデフレスパイラル突入の危険性を孕んでいると思います。そしてこの状況は、まだしばらく続くと見なければならないと思っています。
この厳しさを想定する中で、我社は平成14年度の重点目標を「保有純増」「事業費効率の改善」「資産運用リスクの削減」の三つとしました。その意味と内容については、後刻教わる筈ですが、この目標を着実に成し遂げることにより、会社を今より少しでも良くして、明治生命との合併に向かおうと言っております。そしてこの仕事にプラスして、今年は当然ながら合併の為の準備作業があります。
従って今年は、安田生命の社員は有史以来、最大の量の仕事をこなす事になると思います。皆さんもそのおスソ分けというか、当然多忙な一年となると思いますので、どうかそのつもりで頑張って欲しいと思います。
しかし、この仕事は考えるだに、やり甲斐のある仕事となる筈です。
業界の現状を打ち破って、消費者に、契約者に「安心感」を与える会社を創ろうと始まった仕事です。完成の暁には、業界が変わり、日本が変わる筈です。そして、その会社は文字どおり"日本一"を競う大きな、優れた会社になる筈であります。これらの目標を持った、会社創りの作業に参画できるだけでも、幸せではないでしょうか。
明治の始めに、両社の先達が興した仕事を明治維新と言うなら、120年の時を隔てて、その子孫達がやらんとするこの事業は、まさに保険の平成維新と言う事が出来るでしょう。

私は合併は一方で古い部分を破壊して、新しいものを創り上げるチャンスでもあると言っています。この機会に、新しい保険ビシネスのモデルを是非創り上げていきたいと思います。

冒頭に言った通り、皆さんは本当に素晴らしい時に、入社されました。破壊と創造の劇的場面に何度も遭遇する事になるでしょう。
どうか目を見据えて、時と場合によっては、一緒になって体得、勉強して欲しいと思います。
皆さんの一つ一つの行動が、新しい会社の最初の一ページをつくり、そしてそのまま社史になっていく、その歴史的な重みをどうか意気に感じて会社生活に入っていって下さい。

そこで最後に、これからの日本の中で社会人、ビジネスマン(ウーマン)として生きようとする皆さんに、「これだけは」ということを一つ申し上げておきたいと思います。
それは、"自分の頭で考え・しっかりした自分の意見を持とう"という事です。
最近よく耳にする事ですが、日本には国家戦略がないと言われます。私には、今の日本には国家戦略どころか、世の中の価値基準というか座標軸が揺らいでいる、見えないという感じさえします。従って、今の日本には、どうも国民的コンセンサスというものが形成されないのではないかと思う事さえあります。
例えば、現在の経済の実態が本当にどの様な姿なのか、その捉え方は右から左まで千差万別。捉え方に違いがあれば、処方箋も違ってくるでしょう。そして、この千差万別の情報は、そのままテレビ等メディアを通じて、洪水の様に入り込んできます。一般の国民に何が真実か分かろう筈はありません。コーポレート・ガバナンス(企業統治)という言葉がありますが、一時大流行となったCS、カスタマー・サティスファクション(顧客満足)という用語は、バブル崩壊後の厳しさの中でいつしか忘れられ、替りにグローバル・スタンダードが取って代わり,今それが進行中という所でしょうか。
一方、最近の各種世論調査の結果を見て、何ともやりきれない気分になることがあります。問題の本質が分らず、ムードとか外形の見かけだけで判断する風潮がないでしょうか。そのようなアンケートの結果の方向へ流れて行ってしまったら、取り返しのつかないことになるのではないかと、心が痛む事もあります。
私は、今ほど自分で考え、自分の意見を、意志を持つ、それに従って行動することが必要な時はないと思っています。
その為には、勿論夫々が色んな勉強をしなければならないでしょうが、最も大切な事は思考する、考える姿勢として "本質"を探る事だと思うのです。その為には、どうしても歴史的な検証、歴史観が必要な筈です。そういう思考過程を経て、本当の姿、真実が見えてくるのではないでしょうか。このように言うと少し難しく響くかも知れませんが、要は「attitude」(姿勢、態度)の問題です。みなさん、どうか、外形とか流行にとらわれず、本物は何かという姿勢で物を見る態度を、是非養って欲しいと思います。
日本の為に、会社の為に、そして、勿論自分自身の為に…。
以上で終わります。