2002年度経済見通し
海外経済環境
3再度深刻さを示す東アジア経済
東アジア経済は、98年のマイナス成長から99年以降にV字型の急回復を示しつつ、2000年秋口以降は一巡化しつつあった。それでも比較的堅調な推移を示していたが、2001年に入って以降、米国経済の減速で予想以上に深刻な影響を受けている。経済のグローバル化の動きに伴って、東アジアは世界の工場としての役割が進んで来たことで、在庫のボラティリティーが高まっていることが大きい。特に、ITに力を入れてきた台湾、香港、シンガポール、マレーシアなどの打撃が大きい。また、9月11日のテロ事件以降は観光産業への打撃も大きくなっている。
従って、経済の成熟化を迎えているNIESは輸出依存型の経済を続けるにしても、徐々に内需型産業を育てて行くこと、つまり、第3次産業へのシフトを図って行かなければならない段階に来ている。中国は比較的堅調ではあるが、外資に依存しながらも自由化の波に後れを取っており、WTO(世界貿易機構)加盟によって、一層の経済の開放や法的整備などを進めざるを得ないだろう。ASEANは10カ国体制となり、政治的には中国・インドに対する防衛的な意味合いが強かったが、2002年から自由貿易協定(AFTA)を推進しつつ、EUにおける経済統合と同様に域内の国境を越えた人・物・かね・情報の自由な動きを促している。また、日・中・韓を巻き込んだASEAN+3によって自由貿易の推進力になっている。米国への輸出依存を軽減させる上で重要な動きと言えよう。
【中国】 2000年の8.0%成長に続き、2001年1-9月期も7.6%と堅調な推移となっている。ただし、1-3月期8.1%、4-6月期7.8%、7-9月期7.0%と徐々に鈍化している。東アジアの中ではIT不況の影響が比較的軽くて済んでいるが、米経済減速の影響が少しずつ効いて来ており輸出は鈍化している。ただ、対米輸出は全体の2割程度だが、この落ち込みをカバーすべく他のアジア諸国や中南米、あるいは中東やアフリカへの輸出を増やしている。
8月にIMFの管理が終わり、金融の再編も進んでいるが、不良債権問題は依然解消されていない。債権銀行団による大宇自動車のGMへの売却は決まったが、現代グループの金融3社の売却交渉が長引いている。ただ、ハイニックス(旧現代電子)の経営危機が深刻化していたが、米マイクロン・テクノロジーとの提携の動きで株価が急に戻す要因となっている。いずれにしても、素材産業は中国向け輸出を増やし、IT産業は中国向け直接投資を再び増やしており、日本や台湾などと呼応した動きを示している。
【台湾】 2000年6.0%成長の後、前年比で2001年1-3月期0.9%、4-6月期-2.4%、7-9月期-4.2%となり、ハイテク産業を育ててきた台湾経済が深刻な状況に直面している。輸出の落込みと共に、設備投資が大幅なマイナスを強いられている。また、失業率の上昇や株価下落に伴う逆資産効果などから個人消費も低調になっている。従って、2001年は戦後初めてのマイナス成長を強いられる見通しである。97年のアジア危機の時は比較的健闘した方だったが、今回は米景気の減速や9月の大型台風で大きな打撃を被っている。基本的には、輸出依存度が高すぎることにあり、米国向けIT関連の受注に底入れの兆しも見られるものの当面は大きな期待は出来ず、対中投資の拡大に頼らざるを得ないだろう。ただ、投資増に伴う空洞化問題や、不良債権処理の遅れなど国内の産業調整をうまく図って行かなければならない状況にある。
なお、経済再生を目指して、行財政改革・金融制度改革・公営企業の民営化などの構造改革を打ち出している。つまり、11月にWTO加盟が決定したこととも相まって、市場経済化を徹底させることによって民間部門の活性化を図ることが必要と言えよう。
【香港】 2000年に10.5%の成長を示した後、2001年1-3月期は前年比で2.3%、4-6月期は0.5%、7-9月期は-0.3%と急速な鈍化を強いられている。貿易依存度の高い経済で、輸出の急速な減少が大きな要因だが、設備投資など内需も徐々に冷え込んで来ている。個人消費は所得の改善傾向から健闘してきたが、失業率の悪化傾向と共にピークアウトを迎えている。中国本土への生産移転や割安な住宅購入の動きがあり、香港内での公共住宅の供給増の動きとも相まって、不動産市場は依然低迷が続いている。なお、米金利の低下に伴い、政策金利を引下げてはいるものの実体経済や資産価格の低迷に歯止めがかかっていない。依然IT産業が堅調な中国本土とのビジネス拡大によって打開を図って行くしかないだろう。
東アジア経済の動向(実質GDP)(%)
96年 |
97年 |
98年 |
99年 |
‘00年 |
‘01年 |
‘02年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
中国 |
9.6 |
8.8 |
7.8 |
7.1 |
8.0 |
7.2 |
7.4 |
韓国 |
6.8 |
5.0 |
-6.7 |
10.9 |
8.8 |
2.0 |
3.2 |
台湾 |
6.1 |
6.7 |
4.6 |
5.4 |
5.9 |
-2.2 |
2.4 |
香港 |
4.5 |
5.0 |
-5.3 |
3.0 |
10.5 |
-0.5 |
2.2 |
シンガポール |
7.5 |
8.4 |
0.4 |
5.8 |
9.9 |
-2.8 |
1.8 |
タイ |
5.9 |
-1.4 |
-10.8 |
4.2 |
4.4 |
1.4 |
2.4 |
マレーシア |
10.0 |
7.3 |
-7.4 |
6.1 |
8.3 |
0.5 |
2.8 |
インドネシア |
7.8 |
4.7 |
-13.1 |
0.8 |
4.8 |
2.8 |
2.8 |
フィリピン |
5.8 |
5.2 |
-0.6 |
3.4 |
4.0 |
2.4 |
2.6 |
東アジア経済規模(2000年)と株価指数
名目GDP |
一人当たり |
株価指数 | ||
---|---|---|---|---|
中国 |
10,751 |
842 |
上海総合 |
1748.0(-15.7) |
韓国 |
4,572 |
9,672 |
韓国総合 |
643.9(27.6) |
台湾 |
3,101 |
14,019 |
加権 |
4441.1(-6.4) |
香港 |
1,626 |
23,976 |
ハンセン |
11279.3(-25.3) |
シンガポール |
923 |
22,084 |
ST |
1478.5(-23.3) |
タイ |
1,222 |
1,958 |
SET |
302.6(12.4) |
マレーシア |
897 |
4,039 |
クアラルプール |
638.0(-6.1) |
インドネシア |
1,533 |
724 |
ジャカルタ総合 |
380.3(-8.7) |
フィリピン |
747 |
992 |
フィリピン総合 |
1128.5(-24.5) |
参考(日本) |
46,376 |
36,548 |
日経225 |
10697.4(-22.4) |
(アメリカ) |
98,729 |
36,090 |
NYダウ |
9851.6(-8.7) |
対ドル為替レート(期中平均)
96年 |
97年 |
98年 |
99年 |
2000年 |
‘01/9月 | |
---|---|---|---|---|---|---|
中国(元) |
8.314 |
8.290 |
8.279 |
8.278 |
8.278 |
8.277 |
韓国(ウォン) |
804.45 |
951.29 |
1,401.44 |
1,188.82 |
1,130.96 |
1,295.30 |
台湾(ドル) |
27.459 |
28.786 |
33.456 |
32.270 |
31.233 |
34.570 |
香港(ドル) |
7.734 |
7.742 |
7.745 |
7.758 |
7.791 |
7.799 |
シンガポール(ドル) |
1.410 |
1.485 |
1.674 |
1.695 |
1.724 |
1.748 |
タイ(バーツ) |
25.343 |
31.364 |
41.359 |
37.844 |
40.135 |
44.330 |
マレーシア(リンギ) |
2.516 |
2.813 |
3.924 |
3.800 |
3.800 |
3.800 |
インドネシア(ルピア) |
2,342.3 |
2,909.4 |
10,013.6 |
7,855.2 |
8,419.8 |
9,297.1 |