2002年度経済見通し

海外経済環境

2統合の勢いが一段落する欧州経済

ユーロ圏の経済は市場統合や通貨統合のエネルギーを背景に高成長が続き、特に2000年は、99年以降の世界経済の回復とユーロ安の効果による輸出増もあって3.4%の成長を示した。しかしながら、2001年1-3月期は前期比年率で2.0%、4-6月期は 0.3%、7-9月期0.4%と急速に鈍化している。つまり、2001年前半の時点で、先ず、企業セクターの業績悪化が始まり大企業によるリストラの影響で個人消費が徐々に低迷していた。さらに、9月11日のテロ事件後は航空会社の経営危機や製造業における人員削減の拡大が進んでいる。ところが、金融政策は慎重なスタンスが続いて来た。また、独・仏・伊など主要国では2001年1月より所得税や法人税の減税を実施しており、財政政策の余地は大きくない。従って、2001年は1.6%、2002年は1.5%の成長にとどまる見通しである。
2001年当初、IT不況の影響は米国ほどではないことでECBはユーロ圏経済の堅調さを誇っていたが、域内貿易のウェートが高いとは言え、最近、ユーロ安の効果もあって米国・アジアなど域外取引が増えており、米経済減速の影響が先ずドイツの輸出産業を直撃して、その後、徐々に主要各国へ浸透している。特に、第3世代携帯電話の事業認可料やM&Aなど巨額の投資を続けてきた通信産業の打撃は大きい。また、昨年仏テレコムと独テレコムとによる合弁会社が解消され、今年も英BTと米AT&Tとによる合弁会社が失敗に終わっている。規模を求めるのではなく独自の戦略見直しを迫られている。こうした直接投資だけでなく、EUから米国への証券投資が急拡大していたことも影響を大きくさせている。しかも、ECBは物価動向を慎重に見過ぎていたこともあり金融政策面での対応の遅れが目立った。2001年1-11月で、米国が政策金利を4.5%引下げたのに対し、ECBは1.5%の引下げでしかない。9月11日後の協調利下げの時も、景気の減速は短期間で終わると見ていた。実際には、輸出の落込みから、消費や設備投資など内需の低迷にまで広がって来ている。11月に入って0.5%の利下げが行われたが、消費者物価は5月の3.4%をピークに下げ始め11月では2.1%と落着きを示しており、緩和政策の遅れが指摘できよう。
EU統合のエネルギーをバックに、特に、98年以降成長率を高めてきたが、半面で失業率は改善はして来たものの高止まりしている。二桁の失業率は2000 年に8.9%、2001年4月以降8.3%に低下して来たが、再び悪化の方向にある。高水準にある基本的理由は60~70年代における高賃金と高失業率との悪循環の後遺症や、オールド産業に対する補助金制度が残る一方で、サービス産業の起業が米国に比べ後れていることが大きい。また、M&Aによって国境を越えた労働移動が出て来たとは言え、まだ不十分である。規制緩和や職業訓練、あるいはパートタイム労働の促進によってイギリス、オランダなどは高失業から抜け出したが全般的にはまだ高い水準にある。
なお、通貨統合は99年1月にスタートしたものの現金を伴わない取引だけだったが、2002年1月から実際の通貨ユーロの流通が始まる。ユーロへの移行に伴って便乗値上げが懸念されているが、国毎の価格差がはっきりすることで、むしろ下押し圧力がかかることになろう。いずれにしても、英国の参加はまだ先のことになる。また、通貨統合の開始以降は景気の減速もあり、統合の勢いは一段落する。今後は、政治統合を目指す統合の深化(ドイツの欧州連邦構想とフランスの国民国家連合構想がある)よりも、中・東欧の参入を促す統合の拡大が選択される方向にある。13カ国の候補があるが、2002年中に10カ国がEUへの加盟承認されるとの見方も出て来た。ただ、実際の加盟は2004年以降となり、経済格差の状況からユーロ加入はさらに先のことになるだろう。
【イギリス】 2000年の2.9%成長から2001年は前期比年率で1-3月期2.6%、4-6月期1.8%、7-9月期は2.0%と鈍化しつつも、ユーロ圏に比べれば健闘している。企業セクターは世界的なIT不況に加えてポンド高による輸出減から、製造業の生産が前年比マイナスとなる中、小売りが好調な伸びを示している。
基本的には規制緩和や市場経済化によって雇用が着実に増えていることが大きい。雇用が堅調で失業率が10月 3.2%と低く(ユーロ圏と同じ方式では2%程度高くなる)、また、平均賃金が4%台で伸びており個人消費が健闘している大きな要因になっている。ただ、所得の伸びの半面で、97年に9.5%あった貯蓄率が徐々に下がり2001年4-6月期には4.9%にまで下がっている。また、消費者信用残も上昇傾向にあったが、EU経済の鈍化傾向もあり、10月にはピークアウトの兆しを示している。
【ドイツ】 2000年3.2%成長の後、2001年は前期比年率で、4-6月期が-0.1%、7-9月期が-0.6%と後退期入りを強いられている。ユーロランドの GDPの3分の1強を占め、フランスと並んで統合の推進国でありながらも、経済面での不振が目立つ。域内取引が多いとは言え比較的輸出依存が高いことが影響している。在庫調整の進展とともに、設備投資が冷え込んで来ている。また、乗用車やパソコンなどの消費低迷が続いている。金融や通信を中心に米国企業のM&Aを進めてきたが、裏を返せば、国内における第3次産業の育成が遅れているとも言えよう。
【フランス】 2000年の3.4%成長から、2001年1-3月期は前期比年率で1.7%、4-6月期0.9%と鈍化した後、7-9月期は1.9%とやや戻している。年初の所得税減税もあって、ユーロ圏の中では比較的個人消費が強い方だが、輸出の低迷から踊り場を迎えつつある。35時間労働制は過半の企業が採用しており、2002年からは20人以下の企業についても導入を進める方向にある。ただ、タイムシェアリングによって雇用創出が進んでいるとしているが、規制緩和や国有企業の民営化を積極的に進めて雇用拡大を図るのが基本だろう。

EU経済の動向(%)

96年

97年

98年

99年

‘00年

‘01年
(予)

‘02年
(予)

実質GDP

2.6

3.4

3.0

2.1

2.9

2.1

1.8

消費者物価

2.9

2.8

2.6

2.3

2.1

2.2

2.0

失業率

7.5

5.3

4.5

4.2

3.6

3.3

3.4

実質GDP

0.8

1.4

2.0

1.8

3.0

0.8

1.0

消費者物価

1.4

1.9

0.9

0.6

2.0

2.4

1.6

失業率

10.4

11.5

11.1

10.5

9.6

9.3

9.5

実質GDP

1.1

1.9

3.5

3.0

3.4

2.0

1.6

消費者物価

2.1

1.1

0.6

0.5

1.7

1.8

1.6

失業率

121

123

11.6

11.0

9.5

8.8

9.0

ユーロ圏(12)

実質GDP

1.4

2.3

2.8

2.6

3.4

1.6

1.5

消費者物価

2.3

1.7

1.2

1.1

2.4

2.7

1.8

失業率

11.5

11.5

10.9

10.0

8.9

8.4

8.6

(英の消費者物価は住宅金利を除くベース)

実質経済成長率表
消費者物価(前年比)表
株価指数推移表