2002年度経済見通し

海外経済環境

1リセッション入りに直面する米国経済

91年3月以降10年の景気拡大を続け好調さを誇ってきた米国経済は、2001年3月からリッセッション入りを余儀なくされている。2000年は4.1% の成長であったが、既に2000年の7-9月期以降鈍化の方向を示しており、特に、2001年1-3月期は前期比年率で1.3%、4-6月期0.3%、7 -9月期-1.1%と急速な悪化となった。93年以降8年間2桁前後の高い伸びを示してきた設備投資は、2001年1-3月期-0.2%、4-6月期- 14.6%、7-9月期-9.3%と急激な落込みを示している。中でも、2000年の設備投資の中で45%を占めていたIT関連は大幅な減少であった。このように、従来型の在庫調整だけでなく、今回初めてIT関連を中心とした資本ストックの調整に入ったことで、景気の低迷は長期化せざるを得ない。IT革命への夢が膨らみ過ぎたことで、ネットバブルの崩壊による影響や過剰な投資を続けてきた通信や半導体などの後遺症は大きい。
企業部門の低迷が長期化していることで、その影響が家計部門にも徐々に浸透して、個人消費はそれまでの4~5%の伸びから1-3月期3.0%、4-6月期2.5%と鈍化した。また、雇用調整の動きや株価下落の影響もあって1%程度に落ちていた貯蓄率が7月2.5%、8月4.1%と急速に高まり、減税による影響はあるものの消費の悪化を裏付けた。さらに、9月11日のテロ事件によって9月の小売り売上げが前月比- 2.2%と大幅なマイナスとなる一方、貯蓄率が4.7%に上昇するなど消費マインドは一気に冷え込んでしまった。そのため7-9月期の個人消費が1.1% と急速に鈍化して、設備投資の落込みを埋め切れずリセッションを深めてしまった。90年の湾岸戦争と同様に景気のピークアウト後に起こっており、その影響は大きい。10月の自動車販売がゼロ金利ローンの効果で伸びたものの、マインドの悪化は3~4ヶ月程度は続くと見られる。航空・旅行・ホテルなどへの直接的影響だけでなく、物流の遅れや人の動きへの影響を含めて景気回復のタイミングを1~2四半期後ずれさせてしまった。近年、設備投資が活発化して来たものの、基本的には消費主導型の経済であり、景気の回復は消費の動向にかかっている。しかしながら、雇用削減はIT産業だけでなくこれまで雇用を創出して来たサービス産業にも広まっている。11月の失業率が5.7%と急速に悪化していることとも相まって、短期的に消費マインドの悪化が続くだけでなく、中長期的にも、ベビーブーマーが50歳代入りしたことで、子育てに伴う消費のピークを迎え、貯蓄率の底入れが構造的となる公算も大きい。
こうした中、金融政策は2001年に入ってから11月までで計10回、4.5%の引下げでFFレートは2.0%と40年振りの低水準になっているが、当初予想されていたよりは効果が薄くなっている。一方、財政政策面では10年間で1兆3,500億ドルの所得税減税が決まっており、既に2001年7月以降 400億ドルの戻し減税が実施されている。消費の下支え効果が期待されていたが、マインドの悪化に伴い貯蓄率はさらに上昇すると見られている。追加減税・戦費・復興費用など1,000億ドル規模の追加予算が組まれることでGDPの下支え効果はあるが、流れを大きく変えるには至らない見込みである。資本ストックの調整だけでなく、個人消費も資産効果で嵩上げされており、その反動が起きていることが大きいと言えよう。消費や投資のピークアウトに伴って、経常赤字は依然膨大な金額ながらボトムアウトの方向にあり、2001年以降4,000億ドルを割って行く見通しにある。今年に入ってからの対米資本流入の減少傾向と呼応した動きとなる。いずれにしても、基本的にはIT不況は構造不況ではなく、循環的な景気後退であり、スパイラル的な悪化は回避されよう。ただ、従来型の景気後退に比べれば長期化せざるを得ない状況にあり、実質GDPは2001年は1.0%、2002年は1.2%となろう。
なお、9月11日のテロ事件は、全く新しい形の戦争の始まりを示しつつ、世界の歴史が分水嶺を大きく越えつつあることを象徴している。91年の旧ソ連の崩壊で冷戦構造が終焉を迎えて以降、世界が新しい秩序を模索する中、それまでの二極対立構造から米国による一極体制が続いて来た。それでも、冷戦後の世界的なカオス状況の中で、秩序維持のためには米国による覇権国の役割が期待されて来たが、二元対立の論理で、多様な文明や大きな貧富の格差、あるいは集中から分散へ大きく変貌しつつある世界の潮流に対応するには無理が生じて来ている。世界の秩序維持の役割を果たしつつも、多くの場所で摩擦を起こし、多くの地域から反感を買って来たことも事実である。米国による一極集中が徐々に終わりを迎え、多極分散のシステムに移りつつあるとも言えよう。米国自身、先の大統領選では国民の意思が見事に二つに分かれるなど多様化が進んでいることを示した。ただし、新しいシステムが容易に出来る訳ではなく、まだ相当の紆余曲折を経ることになろう。つまり、ポスト近代に伴うグローバル化や情報化の流れは、国や文明あるいはあらゆる組識のボーダレス化を進めつつ、至る所で対立軸のフュージョン(融合)を促している。こうした流れは半面で摩擦を生んでおり、そうした動きがバランスして安定するまではコンフュージョン(混乱)が避けられないだろう。いずれにしても、米国が自由の象徴でありながらも覇権国の役割を終えようとしていることは、中長期的には今まで世界中から資本を呼び寄せてきた流れが変わることになり、膨大な経常赤字は継続出来なくなることを意味する。従って、日本・東アジア・EUなどの主要地域にとっても米国への輸出依存によっての成長維持は終焉を迎えることになるだろう。

米国経済の総括表(%、億ドル)

96年

97年

98年

99年

‘00年

‘01年
(予)

‘02年
(予)

実質GDP

3.6

4.4

4.3

4.1

4.1

1.0

1.2

個人消費

3.2

3.6

4.8

5.0

4.8

2.8

1.8

設備投資

10.0

12.2

12.5

8.2

9.9

-3.6

-7.5

住宅投資

7.4

2.0

8.0

6.7

0.8

2.1

1.2

在庫投資

(0.0)

(0.4)

(0.2)

(-0.2)

(-0.1)

(-1.0)

(0.1)

純輸出

(-0.2)

(-0.3)

(-1.2)

(-1.0)

(-0.8)

(0.0)

(0.3)

政府支出

1.1

2.4

1.9

3.3

2.7

3.8

3.2

名目GDP

5.6

6.5

5.6

5.5

6.5

3.4

2.7

消費者物価

2.9

2.3

1.6

2.2

3.4

3.0

2.2

経常収支

-1,209

-1,398

-2,175

-3,245

-4,447

-3,980

-3,650

財政収支

-1,075

-220

692

1,244

2,369

1,272

-180

()内の数値は実質GDPに対する寄与度。財政収支は財政年度。

米国の成長率と個人消費表
米国の物価(前年比)表
株価指数推移表

株価は月次終値ベース