2002年度経済見通し

構造改革の正念場を迎える日本経済

5財政

景気の急速な悪化にも拘わらず、財政政策は事実上限界を迎えている。これまで、一般会計で補正予算を組んでも、多額の赤字を抱える地方政府が補正予算以上のペースで投資や歳出の削減を続けており、決算の段階では公共投資はマイナス基調が続いている。従って、民間自身によって需要を創出するようなサプライサイドの政策、つまり構造改革が重要になっていると言えよう。なお、2001年度の一般会計は1.1兆円の税収不足が見込まれるが、剰余金・予備費・既定経費の節減などの財源によって、雇用対策や社会保障関連を内容とした3兆円(純増ベースでは1兆円)の第一次補正予算を組み国債の発行を30兆円に抑制した。2002年1月には、第二次補正予算が組まれるが都市再生やIT関連など国費ベースで2.5兆円の規模(事業規模は4兆円)となる見通しである。また、2002年度の一般会計予算は緊縮型になる方向にあり、公共投資関係は一般会計・地方単独事業とも1割削減を計画している。従って、政府最終消費支出は2001年度2.3%、2002年度1.2%の伸びにとどまろう。公共投資の削減方針から公的固定資本形成は 2001年度-5.2%、2002年度-7.8%と大幅なマイナスが続くことになろう。
ところで、現政権は聖域なき構造改革を謳いながらも、行革ではなく財政再建に力が入っている。改革先行プログラムなどでは、規制改革・IT投資・雇用対策など重要ポイントを押えていながら、実行段階では国債発行枠など小手先の政策にとどまっており、道路公団や医療改革など根本問題は先送りされている。構造改革はあくまでも中長期的な行政改革を具体的に決めることが重要であり、その結果として財政収支は改善に向かう。先進主要国が戦後の行き過ぎた社会主義化の反省から、80年代以降、市場経済化へ大きく舵を切ったように、構造改革の基本は行政改革と規制改革にある。その目的は民間主導型システムへの回帰により新しい産業を自由に起こしつつ、雇用を創出して経済を成長軌道に復帰させることにある。しかしながら、行政改革については表面的な省庁再編がなされただけで実質的な改革はほとんど進んでいない。公務員数の削減については10年で25%の削減を目指しているが、自然減と独立行政法人(57法人)への移行が中心になっている。独立行政法人は実質的には公務員でありコスト削減にはならない。しかも、検討されているのは国家公務員だけであり、地方公務員については地方自治体に任せたままで大きな動きにはなっていない。税源委譲を含めて地方分権を進める上でも、先ず、地方自治体自身が税収の3倍にもなっている歳出構造にメスを入れなければならないだろう。補助金や道路特定財源・地方交付税制度などの廃止に向けて国への依存体質を見直すべきだろう。実質公務員と言う意味では、特殊法人(77)・認可法人(86)・公益法人(2万6千)などもそうであり、民営化ないし廃止を徹底すべきだろう。45の財投機関の負債総額は306兆円に達している。行政改革や規制改革、あるいは民営化を徹底することによって、社会保障を除いた政府セクター全体の人件費・物件費、あるいは公共投資などのコストの3割削減を10年計画で具体化すべきだろう。また、社会保障については、当面の収支の議論に終始しており構造改革は先送りされたままにある。高齢化社会に既に突入しており、賦課方式が成り立たないのは明らかであり、厚生年金の報酬比例部分は民営化(積立方式)せざるを得ない。また、基礎年金・高齢者医療・介護保険はナショナル・ミニマム化や医療コストの是正を前提に8~10%程度の消費税で賄って行くしかないだろう。
いずれにしても、構造改革の基本は行政改革にある。その目的は、明治維新以来続いてきた官僚主導型の経済システムを民間主導型のシステムに移行させることにある。規制改革はそれを実行するための最も重要な手段であるが、中々進んでいないのが実態である。原因は、規制改革委員会から総合規制改革会議へ組識が変わり長期間検討を進めつつも、関係省庁の抵抗から個別項目の検討で泥沼化していることが大きい。政治のリーダシップによって、規制の一部修正ではなく、事後チェック体制を固めつつ撤廃を打ち出すべきだろう。その意味では、特殊法人などの民営化についても、7法人の形式的な目途がついただけで官僚・族議員などの抵抗勢力によって個別論で難航している。同じように全法人の民営化を打ち出すべきであり政界の再編覚悟で取組むべきだろう。政府部門を縮小することによって民間部門を活性化させることが出来、その結果、財政再建も進展することになると言えよう。

公共投資と民間投資(設備投資+住宅投資)グラフ

政府部門のコスト(名目)(兆円、%)

 

97年度

98年度

99年度

‘00年度

‘01年度
(予測)

‘02年度
(予測)

政府最終消費支出
(対名目GDP比)

79.6

81.0

83.5

86.7

88.2

88.9

15.3

15.8

16.2

16.9

17.6

18.0

政府最終消費支出
(対名目GDP比)

39.6

39.5

38.3

34.7

32.5

29.5

7.6

7.7

7.4

6.8

6.5

6.0