2002年度経済見通し

構造改革の正念場を迎える日本経済

3設備投資

景気の方向感を示す設備投資は、98年度以降2年連続でマイナスを示した後、2000年度は9.3%と大きな回復を示していた。その後も、IT投資を背景に回復が続く見通しにあった。しかしながら、2001年の年明け以降、急速な悪化を強いられている。ユーザーサイドのIT投資や通信の投資は続いているもののIT業界自身の過剰投資の反動が大きい。つまり、2000年春以降、需要の過大見積もりによって国内で半導体・電子部品の膨大な仮需が発生したが、同夏以降その反動が起こっていることが基本にある。さらに、米国におけるパソコン需要のピークアウトや通信設備の過剰投資、あるいは欧州における携帯電話需要のピークアウトに伴い日本からの輸出の減少が大きく影響している。特に、米国のIT不況に端を発する世界的なIT関連の在庫調整で電気機械・精密機械を中心に生産の急速な落込みを強いられ、一方での通信やサービスなど非製造業の緩やかな上昇トレンドを打ち消しつつある。また、2001年夏以降、それまで遅れていた素材産業の在庫調整が本格化し追い討ちをかけている。
もっとも、これまでユーザーサイドのIT投資は米国に比べ大幅に後れを取っている。IT革命は始まったばかりであり、実態はIT不況と言うより、電子部品の供給過剰と言った従来型のIC不況の性格が強いと言えよう。IT革命の本質はITを駆使して多様化した消費者ニーズに応えることにあり、その過程でコスト削減や組織の活性化が図られる。その結果、生産性が向上して潜在成長率が引上げられることになる。日本はまだその段階に至っていないと言わざるを得ない。ただ、こうしたユーザーサイドのIT投資はウェートが設備投資全体の1割程度(IT投資全体のウェートは3割)と小さいものの、産業全般に徐々に伸びて来ている。例えば、国際競争力の回復を狙って、コスト削減のための資材調達に関するB2B市場が拡大しており、あるいは、外食産業が生鮮食品市場との間にB2B市場を浸透させたことで、最近の価格引下げに寄与している。政府による行政手続きや証明書交付手続きの電子化に向けての施策が動き始めている。また、ネット・オークションやネット通販などB2C市場も着実に拡大している。そのため、企業向けのサーバーやソフトウェアの受注は堅調な動きを示している。ただし、企業収益は売上げの低迷を背景に急速に悪化している。自動車はIT投資による設計や部品調達の効率化で収益回復が著しいものの、電気機械を中心とする製造業の落込みが大きい。堅調だった非製造業もピークアウトを迎えており、2001年度は大幅な減益を強いられる。2002年度も製造業は減益が続く見通しである。従って、設備投資の伸びはスパイラル的な悪化は回避されるものの、2001年度-3.4%、2002年度-2.2%と連続のマイナスとなろう。
業種別の設備投資動向を見ると、電気機械を中心にIT関連産業の設備調整が進んでいる。今年度上期は機械受注残の消化もあって電気機械以外の製造業では素材・自動車・一般機械・食料品など比較的堅調であったが、新規受注の大幅な落ち込みから下期以降低迷が続く。逆に、非製造業は通信・情報サービス・電力(卸電力事業)・金融・リースなどの健闘にも拘わらず、小売り・不動産など前年の伸びの反動の影響が大きく上期は低迷が目立っているが、機械受注の緩やかな伸びもあり下期以降徐々に回復の方向にある。特に、ブロードバンド(高速大容量)時代を反映した通信の設備投資が活発化している。ADSLの値下げ競争が激化しており、電力会社が家庭向け光ファイバー網(FTTH)を整備している。もっとも、NTTグループは欧米企業の動きに刺激され2兆円を超える外国企業の買収や出資を行ったが、その積極策が裏目に出てリストラや1兆円規模の特損処理を進めざるを得ない状況にあり、投資は手控えられる。
なお、製造業は元々過剰設備を抱えているが、コスト削減のために中国を中心とした東アジアへの生産移転が再び高まっていることで国内の過剰感がより著しくなっている。ただ、コスト面から生産の海外移転は成熟経済国の宿命であり、むしろ日本は遅れている方である。製品によってはファブレス化(工場を持たない)して設計開発に特化しつつ、高付加価値化を目指して行くべきだろう。さらに、非製造業も建設・不動産・流通・金融などを中心に供給力は過剰な状況にあるが、日本経済の貯蓄超過の状況を勘案すると、むしろ、一方で新しいサービス産業を中心とした内需型の産業の供給力が不足していると見ざるを得ない。成長が期待される産業の供給力不足によっての雇用吸収力の喪失が、日本経済の長期低迷の大きな要因になって来た。こうした意味からも規制改革によって新しい産業の起業を急ぐべきだろう。

民間企業設備投資(%)

97年度

98年度

99年度

‘00年度

‘01年度
(予測)

‘02年度
(予測)

実質民間企業設備投資

8.9

-5.1

-0.3

9.3

-3.4

-2.2

企業収益

-7.8

-19.8

29.0

21.2

-19.1

-1.2

製造業

-1.9

-32.1

29.4

37.7

-32.5

-8.6

非製造業

-12.3

-9.3

28.7

10.8

-8.5

3.2

鉱工業生産

1.2

-7.1

3.5

4.0

-8.2

-0.6

(注)企業収益は法人企業統計季報ベースの経常利益

生産と設備投資表