2002年度経済見通し

構造改革の正念場を迎える日本経済

1個人消費

経済の成熟化や高齢化社会の進展に伴って、主役となるべき個人消費が低迷を続けている。個人消費の伸びは98年度 1.1%、99年度2.1%と回復を示した後、2000年度は-0.1%と悪化した。このような個人消費の不振の要因は、基本的には所得の伸び悩みにある。所得は賃金と雇用情勢によって決まるが、両指標とも悪化の方向を示している。賃金は前回の緩やかな景気回復期においても、過剰雇用下における労働分配率引下げのため極端に抑制され、生産の回復に伴う所定外賃金の伸びに依存していた。ところが、景気の反転に伴う生産の大幅な調整によって賃金は再び悪化を強いられており、今後とも伸びは難しい情勢にある。ただ、開発輸入や流通の合理化など高コスト体質の是正の動きからデフレータが低下しており、実質ベースの賃金はプラスを維持する方向にある。一方の雇用については、失業率が2001年10月で5.4%と厳しい情勢が続いている。先ず、建設・不動産・流通・金融などの供給過剰産業におけるリストラが基本にあり、また、IT関連業種を中心とする製造業の大幅な人員削減や、コスト削減のため中国への生産移転が再び本格化していることが大きい。ただし、IT不況後もソフトウェア関連や情報サービスの人員は増員計画にある。また、9月以降は非自発的失業が増え出したが、一方で若年・中堅層を中心とした自発的失業が増加しており、失業理由の4分の3を占めるほど雇用のミスマッチが大きくなっている。そのため、15- 24歳の男性の失業率は9月に11.0%と2桁に乗っているが、半面で同若年層の1年間の転職者比率も2桁に乗っており、雇用の流動化が徐々に進んでいることを示している。職業訓練や人材派遣業の規制改革を徹底して、ミスマッチ解消を急ぐべきだろう。なお、自営業から雇用者への動きはすう勢的なものであるが、最近特に高まりを見せている。このため、就業者数が減少傾向を示している中で、パートを中心に雇用が伸びて来たが、9月以降は雇用者数も減少に転じている。従って、個人消費は2001年度0.6%、2002年度0.4%の伸びにとどまろう。
消費の内訳としては、パソコンや携帯電話の伸びによって全体の消費を下支えして来たが、2001年の年明け以降パソコンがピークアウトしている。ただ、通信コストの引下げやウィンドウズXPなどブロードバンド対応型の機種の効果からパソコンの売上げが戻るのもそう遠くはないだろう。逆に、携帯電話は好調な伸びが続いているが、8月末で人口普及率が50.9%(PHSを加えると55.4%)となり需要一巡が近づいている。10月以降、ドコモによる世界に先駆けての第3世代携帯電話(FOMA)の販売が始まったが、地域・機能限定でのスタートで売上げは芳しくない。その他の耐久財については、家電が4月以降マイナスとなっているが、中にはデジカメや、食器洗い乾燥機・洗濯乾燥機・生ゴミ処理機など伸びている商品もある。堅調だった乗用車は、軽の健闘はあるものの9月以降伸び悩みを示している。非耐久財では、節約傾向が続いていた衣料品がニーズに合った商品企画や低価格化を打ち出したところでは底入れ傾向を示しており、サービス消費の中では映画・劇場・音楽興業、あるいは旅行などが堅調である。ただ、9月のテロ事件以降、海外旅行のキャンセルが増え、国内旅行でカバー出来ていない。また、東京ディズニーシーやユニバーサルスタジオ・ジャパンが人気を集めているが、日本企業によるテーマパークはまだ顧客ニーズに応え切れていないところが多い。
なお、景気の低迷が長期化していることで、貯蓄超過の状況が続いており資金余剰にあることを示している。資金余剰は金利低下圧力となっている一方、経済の効率が悪化している証拠となっている。こうした貯蓄超過の原因は消費の過少か、投資の過少かにある。貯蓄率が高いのは、先行き不安で消費が手控えられている面があるが、貯蓄率は下げ切ればその効果は終わってしまう。フローの所得が伸びない中で消費が低迷するのは当然であり、消費を増やす基本は所得を増やすことにある。従って、貯蓄超過は消費不足が原因というより真に必要な産業への投資不足、つまり、サービス業を中心とする本当に必要とされる産業の供給力が不足していると言った方が正確だろう。企業のアウトソーシング中心に、徐々に新しい産業が育って来ているものの、家計のアウトソーシング始め、まだサービス産業の創出が遅れている。規制改革による新しい産業の創出によっての雇用の拡大が基本的に必要である。規制改革の効果の例としては介護ビジネス・保育ビジネス、あるいはNPO法人などの起業が活発化している。抜本的な規制改革によって、さらに多様なサービス産業(医療・福祉、健康・スポーツ、娯楽・レジャー、教育、貯蓄の資産運用、環境関連など)を育てて雇用を拡大して行くべきだろう。

民間最終消費支出(%)

97年度

98年度

99年度

‘00年度

‘01年度
(予測)

‘02年度
(予測)

名目民間最終消費

0.1

0.5

1.5

-1.3

-0.7

-0.6

実質民間最終消費

-1.2

1.1

2.1

-0.1

0.6

0.4

春闘賃上げ率

2.9

2.7

2.2

2.1

2.0

2.0

賃金指数

0.9

-1.7

-0.8

0.4

-0.2

0.3

完全失業率

3.5

4.3

4.7

4.7

5.3

5.5

就業者数

0.7

-0.9

-0.6

0.0

-0.8

-1.0

雇用者数

0.8

-0.7

-0.5

0.9

0.2

-0.4

名目雇用者報酬

2.3

-1.5

-1.4

1.0

-0.8

-0.7

実質雇用者報酬

1.0

-1.0

-0.7

2.3

0.5

0.3

実質可処分所得

-0.3

0.8

1.1

0.8

0.7

0.5

賃金指数は毎月勤労統計の一人当たり現金給与総額

消費と所得の推移(前年比)