2002年度経済見通し

構造改革の正念場を迎える日本経済

要約

日本経済は99年5月以降の拡大局面が2000年末でピークを迎え、2001年の年明け以降、後退局面に入っている。通信やサービスなど第3次産業が比較的堅調な動きを示しながらも、電気機械・精密機械を中心とする製造業や建設業など第2次産業の落込みが大きい。特に製造業は急速な生産低迷が続いており、中でもIT産業は業界が予想する以上に悪化スピードが速く、逃げ水のように期を追って業績の下方修正を迫られて来た。基本的には、2000年春以降の国内における電子部品を中心とした大規模な仮需発生の反動と言う国内要因にある。さらに、米国のIT不況に端を発しつつ、世界的なパソコン・携帯電話の需要一巡化や通信の過剰投資に伴い、世界の景気が減速幅を増大させて来たことが大きい。それでも、当初は緩やかながらも設備投資の伸びが続いていたことで、後退局面は比較的軽いもので終わると見られていた。ところが、IT関連の生産が予想以上に落込んだことに加え、コスト格差を背景に中国を中心とした東アジアへの生産移転が再び高まっており、設備投資や雇用面での悪化傾向に追い討ちをかけて来た。さらに、世界同時不況の懸念が深まっていた所に、9月11日のテロ事件が重なったことで、米国のリセッションが深まるとともに、国内景気の悪化傾向に拍車がかかってしまった。
一方、金融の量的緩和や補正予算など景気対策の動きはあるものの、既に、財政・金融政策はほぼ限界の状況にある。しかも、内需が失速状況にある中、米景気の底入れによる輸出の回復も当面難しい状況にあり、成長率は2001年度-1.1%、2002年度-0.5%と厳しい情勢が続くことになろう。ただ、景気循環上の下押し圧力は強いが、金融システム面でのセーフティーネットが出来たことで97~98年度におけるような金融システム不安やデフレスパイラルの懸念が増している訳ではない。ユーザーサイドのIT投資は緩やかながらも続いており、また、デフレータの低下から実質ベースの個人消費はわずかながらもプラスを維持する見通しにあり、スパイラル的な悪化は回避される方向にある。従って、総需要政策が難しくなっている状況下、小さな政府への構造改革の取組みによって民間自身が需要を生み出せる体制を作り、中長期的な潜在成長率の引上げを図って行くべきだろう。

世界経済が同時不況の様相を呈しているのは、生産の国際分業で在庫調整の振幅が大きくなっている上に、米国のIT不況によってそれが加速されてしまったことが大きい。米国半導体工業界(SIA)によれば、2001年の世界の半導体出荷額は-31%とこれまでの最大の落込みとなる見込みで、2002年は底入れするものの6%の増加にとどまり、2003年になって21%増となる見通しである。冷戦の終結以降、グローバル化の波による影響は、金融・経済面でのシンクロナイズ化を生じさせている。97年のアジア通貨危機に続き、98年はロシア危機に伴う金融危機を引き起こしており、今回も経済面のIT不況や株価下落の連鎖など同様の性格を帯びている。ただし、世界的なIT不況そのものについては世界恐慌の不安のあった 97~98年度の状況とは基本的に異なる。IT革命の本質は、米企業のデルが徹底した顧客データベースを構築している様に、多様な顧客ニーズに応えることにあり、今後とも長期的に続くものだろう。米国中心にIT革命の夢が大きかっただけに期待部分が膨らみ過ぎて、その調整には従来不況のパターンより時間がかかるのは止むを得ないものと見られる。
もっとも、日本の場合は、IT革命は緒についたばかりであり、実態は個人向けのパソコンや携帯電話の伸びの反動や電子部品の輸出の伸びの反動が大きく、むしろ、電気機械中心に独自の戦略を打ち立てられずに起こっている従来型のIC不況の性格が強い。日本経済が深刻なのは、こうした景気の循環的な側面だけではなく、経済が成熟局面を迎えて以降も、構造改革を先送りしてきたことの影響が大きい。供給過剰産業の人員合理化が進む一方で、産業構造の高度化の遅れに伴う雇用吸収力の限界が、今不況の最も大きな原因である。昭和恐慌の根本原因が軽工業から重化学工業へのシフト、つまり産業構造の高度化への遅れにあったように、今回も多様なサービス産業への産業構造の高度化の遅れによって雇用の拡大が進まなくなってしまったことが大きい。経済成長は雇用の伸びと、生産性の伸びによってもたらされるが、その両方が低迷を続けて来た。特に、経済で最も重要なのは雇用の拡大であり、すべての人が職を選べるシステムを目指すべきだろう。そのための最も適切な政策は規制改革であるが、実行が大幅に遅れている。一方、生産性の向上に有効なIT投資の拡大については、米国に比べ大幅な後れを取っているが、政府・民間とも緩やかなペースながらようやく進みつつある。
なお、不良債権の処理はバブル崩壊の戦後処理ではあるが、建設・不動産・流通・金融など供給過剰の産業の淘汰を進めて、経営資源を新しい成長分野へシフトさせると言う意味では構造改革と言える。従って、公的資金の投入や行政の介入は極力回避すべきであり、マーケットメカニズムに委ねることによって淘汰を促すべきだろう。また、日本経済の貯蓄超過は供給過剰の状況にありながらも、新しい成長産業への設備投資資金が回っていないことを示していると言えよう。従って、行政改革・規制改革・特殊法人の民営化などを進めることによって、民間主導型経済システムを回復しつつ、需要創出に結びつく多様なサービス産業を育てて行くべきだろう。

予測総括表(10億円、%)

2000年度

2001年度(予測)

2002年度(予測)

民間最終消費支出

290,138.7

-0.1

291,879.5

0.6

293,047.1

0.4

民間住宅投資

20,232.0

-1.5

19,179.9

-5.2

19,486.8

1.6

民間企業設備投資

89,300.0

9.3

86,263.8

-3.4

84,366.0

-2.2

民間在庫品増加

-1,790.1

-

-2,325.4

-

-3,085.4

-

政府最終消費支出

87,497.0

4.4

89,509.4

2.3

90,583.5

1.2

公的固定資本形成

37,455.9

-7.4

35,508.2

-5.2

32,738.6

-7.8

公的在庫品増加

128.0

67.9

35.0

-72.7

28.0

-20.0

財貨・サービスの純輸出

12,728.8

8.7

9,722.4

-23.6

10,154.6

4.4

財貨・サービスの輸出

59,824.8

9.4

54,423.8

-9.0

54,637.3

0.4

財貨・サービスの輸入

47,096.0

9.6

44,701.4

-5.1

44,482.7

-0.5

実質国内総支出‹実質GDP›

535,690.3

1.7

529,772.9

-1.1

527,319.2

-0.5

(内需・外需)

(1.5、0.2)

(-0.5、-0.6)

(-0.6、0.1)

名目国内総支出‹名目GDP›

513,006.1

-0.3

501,484.3

-2.2

494,921.6

-1.3

鉱工業生産指数

4.0

-8.2

-0.6

経常収支(兆円)

12.1

8.4

8.9

経常収支(名目GDP)

2.4

1.7

1.8

総合卸売物価指数

0.2

0.0

-0.3

国内卸売物価指数

-0.1

-1.1

-1.0

消費者物価指数

-0.6

-1.0

-0.7

公定歩合(年度末)

0.25

0.10

0.10

為替(円/ドル)

110.5

121.5

125.0

原油価格

28.2

23.5

22.0

(注1)2000年10月に国連の統一基準である68SNAから93SNAへの移行と、基準年次の90年から95年への改訂や、季節調整法の変更がなされ、過去のGDP数値が修正された。

(注2)GDP項目は左側が金額、右側が前年度比。

(注3)原油価格は通関ベース、ドル/バーレル。

(注4)為替、原油価格は年度平均値。

GDPの推移(前年比)表