Jリーグやクラブが応援される“価値のあるもの”ものになるには、まだまだ多くの人に認知される必要があります。サッカーが盛り上がり、日本のサッカーが世界の舞台で活躍するためにも、まずはJリーグや各クラブを応援してもらわなければなりません。今回は自分がお世話になったクラブをもっとよくするために、FC東京のクラブコミュニケーターとして奮闘する石川直宏さんが登場。クラブコミュニケーターという仕事とは、そしてJリーグや各クラブを盛り上げるためにはどんなことをすればいいかを伺ってきました。
現役時代は、ずば抜けたスピードで裏に抜け出すプレーや、スピードに乗ったドリブル、そして正確なシュートでFC東京を勝利に導いてきた石川直宏さん。現在は自ら志願し、FC東京のクラブコミュニケーターとして、クラブを良くしていくために尽力しています。16年間プレーし、人一倍思い入れの強いクラブに恩返しすべく、クラブ内部と外部の関係性を高めるため奮闘する石川さん。彼が活動のなかから感じてきたクラブや選手の価値の高め方、そしてJリーグやクラブの盛り上げ方を伺ってきました。どちらの現場も知る石川さんだからこそ語ることができる金言は必見です!
1981年5月12日生まれ、神奈川県横須賀市出身。2000年には横浜F・マリノスのトップチームに昇格し、Jリーグデビュー。しかし2002年には出場機会を求めてFC東京に期限付き移籍。そこでの活躍が認められ、2003年に完全移籍。2017年に引退するまでの16年間、FC東京でプレーする。2018年1月にはFC東京のクラブコミュニケーターに就任し、クラブ内外の関係性を高める仕事に尽力する。趣味はサーフィン。
「現在はFC東京クラブコミュニケーターとして活動させてもらっています。簡単にいうとクラブ内外の関係性を高めていく仕事です。FC東京で約16年プレーをして気付いたことは、トップチームという現場があってクラブがあって、そのなかにビジネススタッフがいたり、育成のコーチがいたり、さまざまな人がクラブにかかわっているということ。自分はずっとフィールドという現場にいましたけれど、いざクラブのなかに入ってFC東京を良くしていくためにはどうすればいいかと考えたときに、現場やビジネススタッフ、フロントスタッフといったみんなの“想い”をつないでいくことが大事だなと感じました。だからこそコミュニケーションを通じてその“想い”を発信していく活動をしています。もちろん、間接的にですがクラブにかかわってくれる行政の方々やステークホルダーのみなさん、そしてサポーターの方々ともその“想い”を共有していくことにも重きをおいています」
「コロナ禍の前はJ1、J2、J3で試合があったので、年間50試合ぐらいはスタジアムに行って、試合の運営とか広報のサポートを中心に準備をして、試合を迎えていました。しかし現在は、サポーターがスタジアムに来ることができない状況が続いているので、試合の日は試合の前後に『青赤パークオンライン』というFC東京公式YouTubeチャンネル内で生配信をし、ファンやサポーターの“想い”をつないでいます。ホームゲームでは、試合運営や準備をサポートしつつも、アウェイゲームではオンラインの生配信をいろいろメインに活動していますよ。生配信なのでかなり喋りまくっていますが、現在FC東京の『クラブナビゲーター』を務めている羽生直剛さんと一緒に配信しているので、心強いですね(笑)。オンライン配信をはじめたことで、新たなコミュニティもできたし、試行錯誤でしたけど継続してやっていくことには意味があるんだなと感じています」
「クラブコミュニケーターに就任して丸3年が経過して現在4年目なのですが、サッカーの普及といった面での活動も忘れてはいません。最近の活動では、多摩少年院で開催するサッカー教室の取り組みにも携わらせてもらって、地域のなかでの社会問題や連携などにも注力しています。現役時代はサッカーの価値や自分の価値を、プレーを通じて高めていきましたけど、良くも悪くもピッチの上だけだと、どうしても視野が狭くなっていました。ただ、クラブコミュニケーターになってからその視野が格段に広がったし、FC東京に協力してくれる方々がいて、そういう人たちのおかげで自分がプレーできていたのだと痛感しました。だからこそ、クラブを応援してくださるいろいろなつながりのなかで関係性を高めていって、“新たな価値”をともにつくっていければ嬉しいですね。もちろん、FC東京だけではなく、日本には各地域に57のJクラブがあるので、サッカーで日本を盛り上げていきたいです。それが日本のサッカーのレベルアップやトップの選手たちの成長にもつながるし、糧にもなるので、そのボトムアップの部分を自分が担っている意識を持ちながら活動していきたいですね」
「サッカーは奥が深いスポーツです。選手として、さらに指導者として携われば、より深堀りができるとは思います。ただ、いろいろな人とつながるなかで、コーチや監督になることで深堀りしていく以外の可能性が見えました。現場ではクラブを強くしていこうと監督、コーチ、スタッフなど一生懸命動いている人がたくさんいます。そこに刺激を与えられるようなきっかけをつくっていけば、現場の感度も高まるし、なぜこのクラブでサッカーをやるのか……という意義を感じてもらえる機会をつくれるのが自分なんじゃないかと思ったんです。どうして自分たちはFC東京でサッカーをやっているんだろうと考えたとき、ただ勝ちたいから、優勝できる強いチームにしたいから、お金がもらえるから……というだけじゃなくて、この東京という場所にクラブがある意味を感じてもらえる機会をいかにつくっていけるかというのが大事だと思います。それが選手やスタッフの新たなモチベーションになるので、それをどのように提供していくのかが自分の役割なのかなと感じています」
「現在のJリーグを見ると、選手が海外の移籍するケースが増えているし、プレーの質やレベルは自分が現役だったころに比べても格段に上がっていると思います。ただ自分は小さいころに、Jリーグ開幕時の華やかな部分を見てきました。以前のJリーグには、子供がこういう選手になりたいと感じる“個”の特徴が表れた選手が多かったように思います。もちろんキャラが強くないと生き残っていけないというのは、実際に自分が現役だったころにも感じたし、とにかくプレーだけでなく、人となりが思い浮かぶキャラの濃い選手が多かったですよね。今の現役選手を見ると、そういった選手もいますが、プレーの質は高いけど少し“個”が薄い選手が多いような気がします。もちろん時代の移り変わりもあるし、SNSが発達した世のなかなので目立った行動がしにくくなり、そういうキャラの濃い、人間味のある選手が出にくくなっているのかな……というのは感じますね(笑)」
「サッカーに関して魅力あるものを発信していくためには、サッカーを突き詰めていくことが大事です。ただ、サッカーだけで突き詰めるということは、選手みんながやってきていること。でも、その成長曲線はすごく緩やかだと思うんですよ。なぜ、サッカーやJリーグを発信していくかを突き詰めると、地域に愛される地域密着のクラブをつくるというのがJリーグの理念で、根本でもあるんです。サッカーに携わるだけじゃない、地域のいろいろな人が応援してくれるからこそクラブが成り立っていると感じました。だから試合を見に来てください、いいプレーを見せますから、勝ちますから……だけじゃだめだと思うんです。地域の人々にクラブの試合を“自分事”として感じてもらうためには、地域との取り組みを一緒に行なうことで距離を縮めることができれば、必然的に応援したくなると思うんですよ。だから地域の課題を一緒に解決していくのもいいですし、その地域のいいところを高めあっていくのもいいと思います。サッカーやクラブを“ハブ(中心に位置する集線装置)”にしてもらって、その地域のなかでかかわりを増やしていけば、応援してくれる人たちが増えるし、見に来てくれる人が増えれば、選手もプレーに対する責任感が増すと思います。そういう選手が多くなればサッカーのレベルも当然上がります。そういう相乗効果で、Jリーグの盛り上がりもそうだし、日本のサッカーのレベルも上げていくのが理想ですよね」