パブリックイメージの打破、その先は。 『ひとつの活路よりマルチに活躍したい』 30代目前の変化と想い 〜 俳優 松坂桃李さん 〜 取材_藤田佳奈美 撮影_関竜太 ヘアメイク_高橋幸一(Nestation) スタイリスト_TAKAFUMI KAWASAKI (MILD) 制作_マガジンハウス

何の役も演じていない、素の状態の松坂桃李さんから感じる印象は、“現場に爽やかな風をもたらす好青年”。昨今はそんな彼から想像もつかない表情を、数々の作品の中でまざまざと見せつけられてきました。もはや、彼にパブリックイメージはないのかもしれない。本当の彼はどこにあるのか。これから何を目指すのか。「カメレオン俳優」「怪演」と呼ばれる所以や、彼の生き様、そして気になる結婚観について迫りました。

台詞を介さない、体で表現する演技

好青年というパブリックイメージを返上し、様々なキャラクターを演じてきた松坂さん。映画『娼年』でも“娼夫”というセンセーショナルな役柄を体当たりの演技で挑みましたが、実は「とても滅入った」と振り返ります。「台詞のやりとりというより、体と体のコミュニケーションだったので、かなりデリケートな芝居でした。台詞でカバーできない分、ちょっとした仕草などの一挙一動で疎通を図るのが困難で。考えさせられた作品です」

Profile

松坂桃李さん

1988年10月17日生まれ。2008年、男性ファッション誌『FINEBOYS』の専属モデルとして俳優デビュー。2009年、テレビ朝日系『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッド役で初主演。以降、テレビドラマ『ゆとりですがなにか』『わろてんか』や、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』『娼年』『孤狼の血』など出演作多数。7月期日曜劇場『この世界の片隅に』に出演。

Special Interview TORI MATSUZAKA

30歳を節目と意識して挑戦してきた

「30代ではいろんな役柄をこなしたいと思っていて、ここ5年くらい自分の中でハードルの高い作品をあえて選んでいました。ひたすら壁にぶつかりに行って、試行錯誤の繰り返し。今年で20代が終わるので、これまでの選択がどういう結果になるのか楽しみです。30歳って、ひとつ世代が変わるので、やれる役の幅も広がったり狭まったりするし、結婚して子どもを授かれば、今までの役とはガラッと変わってくるでしょうしね」

まだ演技を楽しめるフェーズではない

きたる30代に向け、さまざまな役に挑戦し演技力を高めていく一方、かえって苦しむことは増えたそう。「多くの作品に関わるにつれ、自分の中で演じる手段が増えましたが、その分『このシーンではどの演技が正解なんだろう』と悩むことも増えました。その手段を120%使えているかどうかも分からない。だから以前に比べて精神的にきつく感じることが多いんです。特にコミカルな演技ほど難しいものはないですね」

Special Interview TORI MATSUZAKA

俳優として足りないもの

昨今の活躍ぶりもさることながら、甘いルックスや定評のある演技など、一見して満遍なく素晴らしいものを持っている彼が、俳優として足りないと感じるもの。それは先輩俳優の背中から感じる“佇まい”だといいます。「役所広司さんがクランクアップで現場にいたひとり一人にお礼をしてまわっていたり、場の空気を盛り上げてくださったりする姿を見て、作品を通して関係者全員を愛している感じがしました。僕もそうありたいですね」

30を目前に抱き始めた結婚願望

30を目前に抱き始めた結婚願望

俳優業で邁進する一方、プライベートでは結婚について考えることも増えたそう。女兄弟に挟まれて育ってきたため、女性に対して幻想を抱きすぎず、フラットな気持ちでいると話す松坂さん。「芸能界の数少ない友人である柳楽優弥や濱田岳には家庭があるし、僕にも甥っ子がいる。結婚に憧れます。30歳って急にそういう自覚が芽生える年なのかもしれないですね。1人が好きな僕でも、そういうことを考えるようになりました」

Special Interview TORI MATSUZAKA

パートナーがいると変われる

インタビュー中、幾度となく“結婚”というワードが飛び交ったのが印象的。1人でいることが好きな彼が、誰かと一緒になりたいと思う理由は?「僕は出不精だから他の人のことにならないと動けないんです。やりたいことも特にない。でもきっとパートナーがいると変われると思うんです。家庭を持ったら、子どもの運動会にビデオカメラを持って参加するとか、ディズニーランドに行くとか」

レーダーチャートを広げていきたい

レーダーチャートを広げていきたい

俳優として、1人の人間として、これからどんな人生を歩みたいのか。「映画の現場が好きなのでそこを中心に、だけど偏りすぎず、テレビや映画や舞台と幅広くやりたいです。レーダーチャートをバランス良く広げていくというか。その過程で家族ができたら最高だなと思います」と、何か1つに活路を見出すよりマルチに活躍したいと話す松坂さん。30代に突入し、どう変わっていくのか、これからの松坂さんにも注目していきたい。